盗まれたへそくり⑨
約半年前、いつも通り金四郎は家で勉強をしたりゲームをしたりして過ごしていた。 父は仕事へ行っていて母は買い物に出ているため、家には一人きりだった。
その時は母が買ってきてくれた計算ドリルをこなしていた。 金四郎は世間から隠されて育てられているが、両親としては教育をしているつもりではあった。
もちろんそれは酷く勝手で無責任なことだが、二人にはそうすることしかできなかったのだ。
―――一人だと、よく理解ができない・・・。
学校へ行ったことがないどころか、入学すらしていない。 テレビでそのようなものが存在していることだけを知っているだけだ。
両親がいれば聞くことができるが、いない時間も多く両親は教職を取っているわけでもないため自分で勉強するのは大変だった。 その時突然電話がかかってきた。
―――電話・・・?
電話に出ることは禁じられていた。 だから出なかった。 気にせずに計算ドリルを進めていく。
―プルルルルル、プルルルルル。
だが無視していても何度も電話がかかってきた。 コール音が途切れても再び鳴り始める。 この繰り返しだ。
―――一体誰からだろう・・・?
気になったため一階へ降り相手の番号を確認した。 ナンバーディスプレイに表示される履歴には同じ番号が連なっている。
―――全て同じ番号から?
―――・・・もしかして、お母さんやお父さんに何かあったのかな。
そう考えてしまえば心配になり、次にかかってきた時に無視できるとは思えなかった。 再び目の前の電話が鳴り、受話器を取ったのは自然なことだっただろう。
―――・・・出よう。
約束を破り思わず電話に出てしまった。
「・・・はい」
「初めまして。 銅乃の息子さんかな?」
「え、あ、だ、誰・・・?」
「銅乃の妹の鉄花です」
初めて両親以外の人と話した。 震えて喋りがままならなかった。 だが疑うということを知らないため、母の妹であるということをすぐに信じることができた。
「君の名前は何て言うのかな?」
「・・・金四郎」
誰かと話すのが新鮮で思わず名前を言ってしまう。 見知らぬ相手に名前を教えることが危険な行為だと金四郎は知らなかった。
「金四郎くんね。 今から私が話すことを、落ち着いて聞いてくれるかな?」
「うん」
「金四郎くんはね、隠し子なの」
「・・・隠し子?」
聞き慣れない単語に首を捻った。 そもそも金四郎の知っている世界は自宅だけ。 何が異常で何が正常化もよく分かっていないのだ。
「そう。 世間に金四郎くんの存在を隠しているの。 だから金四郎くんは、家から出てはいけないって言われているのよ」
「どうして僕は隠し子なの?」
その質問に鉄花は口ごもるが迷った挙句素直に語り出す。
「・・・金四郎くんは、望まれて産まれた子ではないから」
「・・・」
「ただ遊んでいただけで、望んでいないのに子供を授かってしまったの」
そう言われても金四郎にはよく分からなかった。 金四郎も毎日遊んでいるが、子供ができたことなんて一度たりともなかった。
「金四郎くんが産まれたのは二人の責任。 だから二人で育てようと決めたのよ。 ・・・だけど二人共、金四郎くんを最後まで育てようとは思わなかった」
「じゃあ、これから僕はどうなるの?」
「金四郎くんを十六歳まで育てた後、親権と共に親戚に引き渡す予定なのよ」
「じゃあ、どうしてそれまで僕を隠しておくの?」
「結婚もしていないのに子供を授かった場合は、周りから悪い目で見られることが多いの」
「そう、なの・・・?」
「そう。 二人はそれを避けることを優先し、金四郎くんを隠し子にすると決めた」
「・・・」
「ちなみに、金四郎くんの両親は苗字が同じ?」
「・・・違うけど」
「結婚をしたら普通は苗字が一緒になるの」
「じゃあ、どうして僕のお母さんとお父さんは苗字が違うの?」
「金四郎くんの両親は同棲しているだけで、結婚はしていないから。 金四郎くんを引き渡した後にすぐに別れられるようにね」
普段お金の件で言い合う理由は、金四郎を引き渡した後互いに別れようと思っていたからだ。 一人になった時手元に残るお金は多い方がいい。
結婚していれば財産は分与されるが、そうでない場合は個人の物は個人の物。 だがこれだけ長い期間同棲していれば、事実婚と世間からは認められるが両親である二人はそれを知らなかった。
もちろん生活が破綻しては元も子もないため必要なものは分け合っている。 ただ使途不明にお金が消えれば不満が蓄積するのはしようのないことなのだ。
「・・・どうして鉄花さんが、それを知っているの?」
「私が今の夫と結婚する時に、姉の異変に気付いたのよ。 異様にそわそわして式を抜けては誰かと電話をしているんだもの。 それが金四郎くんのお父さんだった」
「お父さん?」
「『子供をどうたら』って言っていたからピンと来たわ。 私たちには、姉に子供ができたなんて知らされていなかったからね」
その電話があった日、金四郎は鉄花『私たちと一緒に住まない?』と提案されたのだ。
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