盗まれたへそくり⑧
―――来たッ・・・!
ドキドキする心臓の音が鳴り止まない。 先程の頭から血を流して包丁を握る母の姿が目に焼き付いている。 怖くて怖くて必死に息を潜めるが、身体の震えが伝わってしまわないか不安だった。
何の物音もしないということは部屋から出て行っていないということだ。
―――いつまでここにいる気・・・?
こんな状況に父も耐えられなくなったようだ。
「銅乃、止めてくれ。 これ以上金四郎に怖い思いはさせないでくれよ」
父の声も震えていた。 何度殺してもいつの間にか目の前に現れるだなんて大人であっても恐怖しかないのだ。
「銅乃? 貴方は私を誰だと思っているの?」
「は?」
父はその言葉に困惑していた。 金四郎もよく分かっていない。 どう見ても母にしか見えないが、違うと言っているように思える。
母なのかよく分からない女性は膨らんでいる布団を見つけたのか、そっと剥ぎ取った。
―――ッ・・・!
視界が急に明るくなりキュッと目を瞑る。 すると頭上から優しい声がかけられる。
「金四郎くん、こんにちは」
「・・・」
名前を呼ばれ恐る恐る目を開ける。
「二度目ましてかな?」
「・・・え?」
金四郎は上体を起こし女性を見つめた。 やはりどう見ても母だ。 だが怪我はしておらず、玄関で出会った時と同じ服装だ。 よくよく思えば二人の服は明らかに違っていた。
つまりよく似てはいるが別人だったということだ。 女性は金四郎の安否を確認すると振り返って父に言う。
「銀彦さんとは初めましてですね」
「・・・どういうことだ?」
父は混乱していた。 そして当然金四郎も状況が分からず混乱している。
「初めまして。 銅乃の妹の鉄花です」
「鉄花、さん・・・?」
父がどこか心当たりがある風に呟き、彼女は優しく微笑んだ。
「そう。 私が鉄花」
母と母の妹は双子で一卵性。 容姿も声もそっくりで、言われなければ別人だとは分からない程だ。
―――お母さんたちが双子だなんて初めて聞いた。
―――お父さんは知っていたのかな・・・?
横目で見ると父も動揺していたため双子だということを知らなかったのだろうと察した。
「え、あの・・・。 銅乃の妹さんが、今日は何の御用で・・・?」
「姉から何も聞いていないんですか?」
「はい・・・」
金四郎は予め今日来ると教えられていたため驚きはしなかった。 母が父に言う前に母は亡くなったのだろう。
「用がないと来ては駄目なんですか?」
「いや、その・・・。 銅乃に妹さんがいることは知っていました。 だけど結婚して、遠くの県へ引っ越したんじゃ・・・」
自分のことを知っていることに驚いたのか鉄花は大きく頷く。
「その通りです。 今日は金四郎くんを引き取りに来ました」
「はい・・・。 え? 引き取りに?」
父は金四郎を見る。 父と目が合うと気まずくなり金四郎は咄嗟に俯いた。
「金四郎は知っていたのか?」
「・・・」
黙り込む金四郎を見て父は鉄化に言う。
「いやでも、まだ時間が!」
「時間?」
「まだ金四郎は十歳だ。 十六歳になっていない。 それにまだ銅乃と話し合っていないから、預け先も決まっていないはず・・・」
父は明らかに混乱していて、状況を整理できていない。
―――・・・やっぱり、鉄花さんの言っていたことは本当だったんだ。
鉄花はジッと金四郎を見つめながら言葉を続ける。
「金四郎くんは隠し子で何の届け出も出していないことを知りました。 それを知って居ても立っても居られなくなったのです」
「その話は一体どこから・・・」
父は先程着替えたばかりだというのに大量の汗で服を湿らせている。
「姉と貴方の勝手な事情で家に閉じこもらせるのは、やはり教育に悪いと思ったのです。 だから私の生活が安定したら、金四郎くんを迎えに来ようと思っていました」
そうして鉄花は半年前の出来事を話し始めた。
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