#5 セカイ系について
『たとえ、世界がなくなっても、君とずっと一緒にいたいです』
―——彼は現実が嫌いです。まっとうに生きていていいことがない、明日地球に隕石が落っこちて人類みんな死んでしまえばいい。そんなことを、満員電車に揺られながら考えているような人間なのです。ちなみに彼が愛用しているイヤホンは、片耳が聞こえません。
ある時、彼は会社から帰る途中に段ボールに捨てられている猫を見つけました。彼らは小さな声で鳴くのです。彼はそんなことを考えている人間であるにも関わらず、猫にだけは優しいようです。
またある時、彼は満員電車に乗りながら目の前にいる一人の女性に一目ぼれしました。彼女の跡をつけて行って、彼女の職場を特定しました。でもそれ以上彼女に執着することはありませんでした。
しかし、その1年後ひょんなことから彼と彼女は出会います。彼の職場に、彼女が転勤してきたのでした。彼の猛アタックによって、彼らは付き合うことになりました。
彼は現実が好きになりました。まっとうに生きていればいいことがあったのです。だから昔のように、人類が死んでしまえばいいと考えることはなくなりました―—
「で?この文章は何がいいたいわけ?人類が滅べばいいなんて自分勝手に考えてるやつのシアワセエピソードなんて聞かなくていいと思うんですけど」
「え?人類滅亡を望むことが自分勝手なんですか?」
「え?自分勝手じゃない?」
「いや、現実生きててみんな死んでしまえばいいのにって思う事ありませんでしたか?全部嫌になるみたいな」
「あー、若いころあったけど、そう言う考え方が自分の道ふさいでるんだわって思ってた」
「今はおもってないと?むしろそう言う考え方はどういう見解をお持ちで?」
「みんな死んだら、俺生きられないし(笑)それ分かるのって大人になってからじゃない?自分で稼ぐようになってさ」
「はー考え方が典型的な大人ですわ」
「そういうお前は?」
「私はセカイ系が好きなので、ありですね。もっとも現実的な見方はしてないですよ」
「セカイ系ジャンルに現実はいらんと?」
「はい」
「現実逃避ってやつか」
「そんなとこですけど、逃避じゃなくてむしろ現実との向き合い方があるんじゃないですか?」
「論点ずれてるぞ。この主人公は現実が嫌だから、世界を滅ぼしてもいいんでしょ?個人の中でもはや世界の崩壊は起こってて、それがなぜ向き合っているのか理解できない」
「いいんです 所詮人間なんて、理解できない生き物同士ですから。私達みたいにね」
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