穏やかな優しい世界を描きたいのが伝わるファンタジー。

ゆったりしたテンポで紡がれる、現代日本と異世界・始まりの国の二つの世界を舞台に書かれる優しいファンタジーです。最初は進むテンポがまったりだなぁと思ったんですが、この作品はふとした時に見える知らなかった景色とか素敵な食べ物とか、出会う優しい人々とか、そういう大切なものを丁寧に書きたい創作なんだな。と自分なりに理解してからは、のんびりこの作品に浸るのを楽しみに読むようになりました。

ブクマしといた小説を消化するぞー!みたいに読むのではなく、毎日ちょっとずつ読んで、書かれてるおいしそうなご飯とか、あの人がくれたキャンディーの首飾りとか(実際にキャンディーレイってものがあるんですね、この作品で初めて知りました)、思わず微笑んでしまうような光景をまったり楽しむ方が味のわかる作品だと思います。特に期限を決めてない観光旅行をするような感じで。

これは良い意味で、(一応シリアスな要素もあるけど)これだけゆったりまったりとした長編小説ってあんまないと思います。基本長編小説って最初はギャグっぽかったり雰囲気穏やかでも、良くも悪くも山場とか緩急が激しくなりがちなんで。丁寧な暮らしと無縁な生活をしているもので(笑)、何気にこの作品で初めて知ったような単語とか多かった気がします。

癒し系ファンタジーとして良い作品だと思いました。タイトルが時代屋時計店なのは後書きを読んでも理由はわかるんですけど、個人的に後半は指輪の物語って感じがしました。終わり方もそっちに引っかけた綺麗な回収があるし。

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