第64話 夢からのエール



 くるみは夢を見た。


 美沙みさが台所に立って朝食の卵焼きを作っている。その横で和哉かずやがお茶を飲みながら新聞を広げていた。


 いつもの朝の風景だ。


 くるみは座り慣れた自分の席に着いた。美沙がくるみにお茶を出した。


 そのまま美沙はくるみの向かいに座り「頑張って見つけるのよ」とくるみに言った。「何を?」くるみは聞き返した。


 和哉は新聞をたたみ「何言ってんだ、魂の樹だろ!」「そうよ、頑張るのよ」と美沙も真剣な顔で言う。


 そうだった。私は…今、ここにはいない。この2人とは一緒にいないんだ。目頭が熱くなり、くるみは目を覚ました。

 

 静かな朝だった。


 カーテンを開けマーケットを見下ろした。テーブルを拭いている人、荷馬車で品物を運ぶ人、軽トラックから野菜を降ろしている人、籠を背負っている人もいる。


 時代がよくわからないが、これが始まりの国なのだろう。1日いただけで、この国の人たちが、暮らしを楽しむ様子が見て取れた。


 着替えを済ませ、ケイジロウが淹れてくれたように紅茶を準備した。紅茶の種類は10以上もある。さすが紅茶店が下にあるだけのことはある。


 昨日の夜に買ったパンの残りを食べ簡単に朝食を済ませた。


 まだ7時にもなっていない。待ち合わせの10時までには3時間もある。


 くるみはベッドと部屋の仕切りのようになっている本棚に目を向けた。


 所々隙間があり、飾り棚のようにも使われている本棚はとても重厚だった。


 羽ペンや封蝋ふうろうが置かれていたり、馬のオブジェや観葉植物まであった。


 しばらく本棚にある雑貨や本の背表紙に目を走らせていると、そこには恐ろしいタイトルの本がいくつか有った。


『ガーラの復活はいかに』


『第二のガーラは必ずやってくる』

 

 くるみは手に取るのを躊躇した。あまり知りたくない情報だ。しかし、


『ガーラの栄光と転落』


『奇跡の石と鍛冶屋』


『続 奇跡の石と指輪の魔法』


 と言う本には興味があった。


 短い冊子のような本だったが古い文献のようでもあった。

 

 朝日が差し込む窓辺のソファー座り、クッションを膝にのせた。そして、表紙をめくった。

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