第65話 1冊目『ガーラの栄光と転落』
『ガーラの栄光と転落』
ガーラは言わずも知れた始まりの国、北の都『フォンテシオ』の出身である。
彼は食器製造会社に勤める父と、教師をしていた母の間に生まれた。2つ下に弟がいるが、2人とも家の手伝いをする優しい子どもたちだったと近所の人は幼少期を語る。
ガーラが18歳の時、フォンテシオに存在する3人の指輪の能力者のうち2人が不慮の事故で亡くなった。
始まりの国は4つの大きな都からなる国だ。
北の都『フォンテシオ』
東の都『ルーテイル』
南の都『チェスターリーフ』
西の都『ミラーガーデン』
これらの街が平和に均衡を保っている理由の1つに、魔法の指輪のパワーバランスが挙げられる。
北の都 フォンテシオ 3つ
東の都 ルーテイル 3つ
南の都 チェスターリーフ 8つ
西の都 ミラーガーデン 2つ
国王が暮らすチェスターリーフの街を中心に3つの都があるが、近年では指輪の適合者が3人前後と言ったところだ。
しかし、先にも述べたように、2人の欠員が出たことで、フォンテシオの能力者は1人となってしまった。議会は急に慌て始めた。
すぐに民衆を集め、老いも若きも全てを対象に「火の指輪」と「時の指輪」をはめさせた。
そうして奇跡的に見つかった2つの指輪の適合者、それはガーラとガーラであった。
なんとガーラは2つの指輪の適合者となったのである。これは前代未聞の出来事で読者の皆様の記憶にもあるだろう。
こうして北の国の英雄と呼ばれた男、ガーラが誕生したのである。
彼はこの世界に存在する全部で30と1個ある魔法の指輪のうち2つの適合者となった。1つ適合するのも大変珍しいことであるのに、なんと2つの能力を操ることができたのだ。
その能力は、時を操ること、火を操ることだった。この能力を研究し、極め、ガーラは都の発展に努めた。
高温の火を作り出し製鉄の技術を向上させた。そのおかげで純度の高い金属ができるようになり、北の都『フォンテシオ』では毎年銀食器の見本市が行われ、今では食器の一大産地となった。
しかし、それとは逆に、触れてもやけどをしない火を作り出すことに長年研究を重ねていた。これは小さな子供やお年寄りのために安全な明りとして提供したかったからだ。
このようにガーラは自分に与えられた能力を国のため、人々のために惜しみなく使った。
都は潤い人々はガーラをいつの間にか、北の国の英雄と呼ぶようになった。
しかし、彼の50歳を迎える誕生日の日に、ある指輪が届けられたのだ。
それは千年ぶりに見つかった呪いの指輪だった。あまりにも恐ろしい伝説があるのは皆様もご存知のことだろう。
その指輪は闇市で人知れず売られていたようだ。その能力を知ってか知らずか、黒いフードを頭からかぶった男は赤いリボンで飾られた箱を花束と共にプレゼントしたのだ。
多くの人に慕われていたガーラは見ず知らずの人からのプレゼントも快く受け取った。
そして彼は、多くの人が集まっている誕生日パーティーの面前で指輪をはめてしまった。
指輪は、黒と紫の混濁した光を放ち、ガーラは3つめの指輪も適合してしまった。
なぜ指輪をはめてしまったのか?と疑問が残るところだが、それが呪いの指輪だと知らなかったはずだ。
なぜなら、千年前に王の命令で呪いの指輪はある人物と共に深い海に沈められた歴史がある。
指輪をはめた瞬間から、ガーラは頭を抱え苦痛に悶え始めた。それが呪いの指輪だと分かったのは、指輪を届けた男が叫んだからだ。「呪いの復活だ!」と。
ガーラは人が変わってしまった。
誰の問いかけにも答えることはなくなった。家族が指輪を外すように言うと、涙を流し怒り出した。
外したいのに外せないと、心の葛藤があるように見えた。と妻のリリアが証言している。
彼は自ら人々との距離をとり、3年もの長い年月を、1人山小屋にこもって過ごした。時に泣き叫び、絶叫する声が街まで聞こえていたそうだ。
こうして、北の国の英雄と呼ばれたガーラは謎の人物の策略により、転落の人生を歩んだ。そこで、終わればよかったのだが…彼は復活したのだ。
彼は命をも司ると言われている、『生の指輪』の存在と適合者が現れたことを耳にすると、手に入れたい衝動に駆られていった。
目標ができたガーラは正気を取り戻した。長年呪いを受け入れまいと強い心で戦っていたが、3年の月日は彼の心をボロボロにしていたようだ。
小屋から出て来たガーラの姿の変貌は驚くべきものだった。体からは怪しげな黒いオーラを放ち、目は全てが黒ずんでいた。
しかし肉体は20歳の頃のように若々しく美しさまで感じ取れた。自らの力で肉体の時を戻したようだった。
街へ姿を現したガーラは人々を恐怖で支配した。その後、数か月後には軍隊を従え、王宮のある、南の都チェスターリーフへ攻め込むことを宣言したしたのである。
くるみは本を閉じた。
あまりにも生々しく、つい昨日のことのように語られた本だった。軍隊を従えその後どうなったのかは、昨日のケイジロウの話から想像ができた。
ガーラの存在が恐怖から違う感情に変わったのが不思議だった。
(もう1冊読めるかな)
くるみは人肌のように冷めた紅茶を1口飲むと、2冊目の本に手を伸ばした。
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