第37話 日替わりサンド
次の日、お昼休憩は時代屋時計店の斜め向かいにあるサンドイッチ専門店にやって来た。
これは偵察である。寝ても覚めても頭の中に渦巻く疑問を解決するために、くるみはこうするしかなかった。
店内を見渡すと、ちょうど時代屋時計店が見える窓側の席が空いていた。
「いらっしゃいませ。お好きな席にお座りください」
赤と白のチェックのカフェエプロンを着た店員がくるみに声をかけた。
「1人なんですけと窓側のテーブル席に座ってもいいですか?」
「もちろんどうぞ」
少し早めだったこともあり店内はところどころ空席があった。
時代屋時計店が見えることを確認すると本日のおすすめサンドを注文した。
暑いさなかオフィス街を歩くスーツ姿の人が目につく。
(本当にあの店にお客は来るのだろうか)
エアコンの効いた店内にはカントリーミュージックが流れ、外とは別世界のように感じる。
そこに注文したランチプレートが運ばれて来た。
皮つきポテトにスパイスの効いた粗塩がかかっている。そして本日のサンドはチキンの照り焼きにごぼうの甘辛煮がサンドされている。
くるみは一瞬偵察に来ていることを忘れ、うっとりとプレートを見つめてしまった。
酸味の効いたマヨネーズが全てを調和している。
(あ~しあわせ)
冷たいカフェラテを一口飲んだ。
(忘れてた。ちゃんと見張らないと)
くるみは時代屋時計店に目をやった。
1時間くらい粘り、お店の人に迷惑をかけているのではないかと気まずさを感じながらも、終始時代屋時計店から目を離さなかった。
今日の収獲はゼロだった。
こうして見張ること5日目。もうすぐ本日のサンドを制覇してしまう。
昨日のフルーツサンドは美味しかった。生クリームに練乳が入っていると店員さんが教えてくれた。
クリームにコクが出て塩気のある食パンとよく合っていた。
そして、今日のサンドは
本当はこんなに回りくどいことをせずに素直に時計を持ってお店に行けばいいのにっと自分の不器用さを痛感していた。
しかし、くるみはケイジロウの話を信じたいだけに、その証拠がほしかった。
だからこうして、こそこそと店を見張り、ケイジロウの言ったように旅行客が出入りするところを一目でも見ておきたかったのである。
いつものように揚げたてのポテトから食べ始めた。その時だ、時代屋時計店の扉が開いた!!
ケイジロウが小さめのキャリーバックを持って店先に現れた。その後からは腰の少し曲がった可愛いおばあちゃんが出て来た。
ケイジロウはピンクのTシャツを着たおばあちゃんにキャリーバック渡し、何かを話した後、手を振って別れた。
(本当だったのかぁ……。)
くるみは椅子にのけ反った。鳥肌が立ち肩をすくめた。そして、5分もしないうちにスーツ姿の男性がボストンバックと仕事用の鞄を抱えて店に入って行った。
(ウソでしょ…直ぐに出てくるよね…)
くるみはこの後しばらくスーツ姿の男性が店から出てくるのを待った。しかし、なかなか出てこない。
もう、じっとはしていられなかった。
(よし、確かめに行こう!)
くるみは急いで会計を済ませ、まだ食べていなかったサンドイッチはテイクアウトにしてもらった。
店を出るとコーヒー片手に横断歩道を渡った。うだるような暑さは微塵も感じなかった。
自然と歩幅は広くなり、気がつくと走っていた。この行動が正しいのかは分からない。まだ何もしていないのに、何かが始まっているような気がした。
「あのー!すみません」
くるみは真夏だというのに、
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