第26話 時代屋時計店



 その昔、人類が誕生した頃にできたと言われている5つの抜け道。人の魂の通り道。


 すべての魂はその人の記憶を記録するために「始まりの国」へ帰る。そうして自分の魂の木に記録する。


 リセットされた魂は違う人生を生き、また同じ木に記録する。その繰り返し。


 地球上に5つ在った抜け道は時代とともに形を変えてきた。


 日本にも魂の通り道は存在する。それはいにしえの大地に誰の目にも触れずひっそりと存在した。


 しかし時代は進み、洞窟のような入り口は目立ち過ぎるため、江戸の終わりには「時代屋時計店」と看板を掲げ、他の商店と同化するように姿を変えた。


 5つの通り道にはそれぞれ管理人がいる。


 初めは通り道をふさがれないよう、土地を守るために存在した。


 現在の「時代屋時計店」は、と言うと、テナントがたくさん入る大きなビルに挟まれたオフィス街にある。


 令和の時代には目立ち過ぎるほど古く、趣のあるたたずまいだ。


 畳2畳分ほどもある看板には「時代屋時計店」と墨で大きく書かれていた。


 しかし今は読み取ることができない。雨ざらしの木製の看板は全てが黒ずんでいる。しかしこれでいい。


 少し近寄りがたいくらいがちょうどいいのだ。


 いつの頃からか、管理人たちは時計を売るだけではなく、暇つぶしに不思議な商売を始めた。


 それがタイムトラベルの仕事だ。簡単なことだった。

 

 始まりの国には時間を操ることのできる指輪の能力者が存在している。その者たちの手にかかればタイムトラベルは簡単なことだった。


 しかし、誰でも簡単にタイムトラベルさせてしまっては地球上が混乱してしまう。いくつかの決まりを決めた。


一、 1人で来店した者にしか扉は開かない


二、 自ら時代屋時計店を見つけ出した者にしか店主は対応しない


三、 タイムトラベルで知りえた情報は口外することができない


四、 旅行代金はもらわない(時計を大切にした時間が代金の代わりになる)


五、 タイムトラベルができる時間は自分が大切にしてきた時計を「時のはかり」にかけて決まる


 これが日本に存在する魂の通り道「時代屋時計店」だ。


 名前の由来は定かではないが、好きな時代や場所へ行くとこができる時計屋と言う意味から名づけられたのかもしれない。

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