第25話 プレゼント


「なあに?」


「また転校することになったんだ…」


 くるみは驚きを隠せなかった。周りの景色が急に色あせていく。


 今、話すってことは、遠い先の話ではなく、近い話なのだとすぐに理解できた。

 手足が冷たくなり、血の気が引くのを感じた。目の中の涙は今にもこぼれ落ちそうだ。

 

 ミナトはくるみから目を逸らし、話しを続けた。


「また海外に行くことが決まったんだ。だから学校へ来るのは今日が最後で…くるみに会えるのも今日が最後で…ごめん」


 くるみは何も言わない。


 ミナトはくるみをそうっと見た。くるみは涙を両手で払い、落ち着いた表情に戻そうと必死だ。


「じゃあしょうがないね。またで一緒に住めるんだよね」


 くるみの柔らかな笑顔がミナトには、いたたまれなかった。


「短い間だったけど僕は…楽しかった。くるみのおかげだよ」


「また会えるんだよね?」


「会えるさ きっと」


「それなら、また会えるのを凄く楽しみにしてる」


 くるみはこの突然の別れを今は考えないようにした。涙は流しても笑顔のままでいようと思った。

 ミナトは鞄から小さな箱を取り出した。


「プレゼントがあるんだ。先に言っちゃうけど時計」


「ありがとう」


「この腕時計を大切にしてほしいんだ。そうすることで、また会えるかもしれない」


「かもしれないって?どういうこと?」


「今はそう言うしかないんだ。僕はこれから遠い所へ行く。その時計は……。その時計はまた会うことのできる鍵のようなものなんだ。僕を忘れないで、くるみ。また会えるから、ね。」


 ミナトもこらえきれず涙をながした。


「私もプレゼント用意したかった……あまりに突然すぎるから…。」


「くるみのお弁当を食べることができて嬉しかったよ。それがプレゼントだ!食べられないまま転校するのかと思ってた」


 ミナトは別れを切り出せたことと、くるみが取り乱さなかったことに、ほっとしていた。


(あとは待つだけだ。くるみが自分の力で〖時代屋時計店じだいやとけいてん〗を見つけてくれれば、ケイジロウが何とかしてくれる。信じるしかない。信じるしかないんだくるみ!)

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