第20話 アジサイと蛙



 くるみは不思議だった。

 

 こんなに急に人と仲良くなれるなんて。いつもあった警戒心がミナトの前では無くなってしまう。

 周りの皆もきっと驚いているはずだ。出発したバスから後ろを振り返るとミナトが立っていた。(夢じゃない)


 皆があこがれている桜井さくらいミナト君。こんなに独り占めしていいのか不安になった。

 明日、学校で何を言われるのだろう。言い訳を考えているうちに診療所へ着いていた。

 この不安な気持ちを急いで診療所の事務を手伝っている衣咲いさきにラインした。衣咲は気にすることないと言ってくれたが、やはり気になる。

 せめてミナトがあんなにイケメンじゃなければ、こんなに気にしなくてもいいのに、と本気で思ってしまった。

 

 どうして出会ったばかりの人に心を開いてしまったのだろう。転校生の逃げ出したい気持ちもわかる。でも一番の理由は風のように透明感のあるミナトに心をつかまれてしまったせいなのかもしれない。


 大人びた顔は高校生とは思えない。航のような気取らない安心感もある。

 

 その次の日も、また次の日も、くるみとミナトは一緒に水やりをし、秘密の場所でお弁当を食べた。

 始めのうち、クラスの女子たちはくるみに嫉妬していたようだが、ミナトが昼になると教室までくるみを迎えに来るようになり、もう誰も何も言えなくなっていた。


 楓花ふうかもどこか嬉しそうにくるみを見守っている。


 雨の日は校舎の敷地内にいくつかある東屋あずまやでお弁当を食べた。ミナトはいつもコンビニのパンかおにぎりを買って来ていた。

 東屋の周りに植えられているアジサイは雨にぬれると一層美しい。


 小さな蛙をミナトがこっそり捕まえ、くるみの目の前でそっと手を開く。くるみは驚きもせず「かわいい」と言って人差し指でカエルの頭をなでた。

 その様子をどこか懐かしそうにミナトは見ている。


「くるみは記憶が戻らなくても大丈夫だよ。今のくるみが昔のくるみと一緒だから」


「そう思う?」


 くるみはミナトの手の中の蛙を自分の手に乗せ覗き込む。


「皆は怖がるのにね。蛙」


 ミナトは何かを確信しスマホのカレンダーを見た。


 もうすぐミナトが転校して来て1カ月が経つ。

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