第19話 帰り道
放課後、くるみは部活に入っていないため、他の生徒よりも早く下校する。
昼に水やりをした花を見ながら心の中で「また明日」と声を掛ける。
校門を出ると石畳の坂道に出た。今日は少し疲れた。今までの自分ではないみたいにはしゃいでしまった。
男子と走ったり、大きな声を出したり。こんな一面が自分の中にあったなんて知らなかった。でも、「こんな自分もいいな」そう思うと自然と足取りも軽くなった。
「川崎さん!」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、急いで来た様子のミナトがいた。
昼休みはあんなに無防備に話せたのに、なんだか場所が変わるだけで、どう話せばいいのか戸惑った。
「ミナト君もこっちから帰るんだ……部活見学とか行かないの?」
「たぶんまた引っ越すし、部活は入らない。あのさ、名前教えてよ。僕の名前は自己紹介しなくても知ってたみたいだけど、僕は君のネームプレートに書いてある苗字しか知らないんだ」
「ごめんね、そうだったね。私の名前は…川崎くるみ…なんだけど、本当の名前じゃないの」
ミナトは驚いた顔をしている。
「驚くよね、さっきの続きの話になるんだけど、私…一昨年の秋に森の中に倒れていたらしいの。それで、意識が戻ったんだけど、名前も住所も分からないままなの。家族の存在も…分からなの」
2人はフルーツ街道に置かれているベンチに座り続きの話をした。
「でも、くるみって名前…」
ミナトは何か言おうとしたが、くるみが話し始めたので黙った。
「この名前は、私がお世話になっている診療所に来ている女の子がつけてくれたの。私がクルミの木の下に倒れていたからだって。」
「そうか…凄くぴったりな名前だと思うよ。本当にびっくりした」
何故か、嬉しそうなミナトの表情にピンと来ないくるみだったが、名前を褒めてもらったことが素直に嬉しかった。
2人は少しの間ベンチで話をした。ミナトは少し離れた所から電車で通っているらしい。
今は親戚の家に下宿をしているようだ。くるみは腕時計を見た。
「4時半にバスが来るの。ミナト君の電車の時間は?」
「20分おきに電車があるからあまり気にしてないんだ」
「じゃあくるみが乗るバス停まで送るよ」
停留所に向かう途中、何人かの学生が2人を見て話をしている。大体は想像できる。くるみは気まずさからうつむいて歩いたが、ミナトは何も気にしていない様子だった。
「駅と反対方向なのに送ってくれてありがとう」
くるみはちょっと照れくさそうに言った。
「またね、くるみ」
ミナトはポケットから手を出し、肩のあたりまで上げてほほ笑んだ。
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