第18話 広がる景色


 レモン畑を抜けた先は崖になっていた。潮風がミナトの髪を揺らす。

 

 振り返ると大きな海が目の前に広がる丘の上にいた。空は青く澄み、海は銀色に輝いている。

 ミナトは目を細め、ゆっくりと見渡す。1羽のカモメが大きく円を描き優雅に飛んでいる。入道雲の白さが眩しい。(何てきれいな景色なんだろう) 


「速すぎるよミナト君!案内役の私より先に行くなんて」


 ようやく、くるみが秘密の場所に到着した。


「つい追い越したくなった」


「落ちたら大変だったよ」


 確かに、落ちて死ぬような崖ではなかったが、後ろ向きで突っ込めば、ケガは免れないだろう。


「ここが秘密の場所なんだね」


「そう、ここ。素敵でしょ!篠崎先生は悲しくなったらここに来ればいいって教えてくれたの」


「悲しくなったらかぁ」


 ミナトは心配そうな顔でくるみを見た。


「私、昔の記憶が無いの」


 くるみは言ってしまった。


 自分でもどうして言えたのか分からなかったが、なんの迷いもなく言葉が出てきた。

 ミナトが転校生で地元の人でもなかったからなのかもしれない。(いや、違う)ミナトには言ってもいいような気がした。


「僕も記憶が止まっているんだ」


「えっ、どういうこと?」


「詳しくは言えないけど、大事な人に会えなくなった。見つけたとしても連れ戻すことができない……。だから、僕の記憶はある時から灰色なんだ」


「私のように複雑な気持ちを抱えて生きている人がいるんだね」


 お互い深くは話を聞かなかった。ただ、2人には他人が理解できないような悲しみや事情があった。


 昼休みが終わる予鈴が聞こえた。


「パン食べなくていいの?」


「あ、忘れてた。でもこの景色見れたから満足だよ」


 そういいながらも、ミナトはパンをかじりながら、急いで玄関へ向かった。

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