第16話 出会いの時


  次の日


 学校に着くと小走りで2階へ上がる女子たちのグループとすれ違った。

 

 くるみはいつものように階段を上がり2階の教室へ向かったが、何だか騒がしい。

 

 自分の教室へ行く手前の2組のクラスの前に人だかりができているのを見た。

(何だろう、誰かケンカでもしたのだろうか)


 気にせず通り過ぎ、3組の自分の席に着いた。窓からは色とりどりに咲き誇る花が目に映る。


 ふと教室がいつもより静かなことに気が付いた。

 よく見ると教室がすかすかだった。前に座る岡田君がくるみに話しかけて来た。


「川崎は見に行かないのか?」


「もしかして、2組の教室?」


「かっこよかったぞ、転校生」


 ちょっとおじさんっぽい岡田君はとても話しやすい。

 本人には言ってないが、診療所に来る佐々木のじいちゃんと皆に呼ばれている佐々木さんにそっくりだ。


「宮越も見に行ってるぞ」


 宮越とは楓花ふうかの苗字である。

やっぱり、きのう篠崎先生と一緒にいたのは転校生だったのだ。

(みんなに見られて気のどくだな)

 

 くるみは自分の入学当初のことを思い出し胸が苦しくなった。

 何人かの女子が教室に戻り感想を話し始めた。


「あの目みた?キレイな茶色!イギリスから来たんだって。うっそー!ハーフとかクオーターとか?それかっこよすぎ。あの制服もいいよねぇ、私たちなんて昭和三十二年創立以来ずっと変わらない学ランとセーラー服だよ。ださ~い。座ってたけどスタイルいいし背も高いよね。何部入るんだろう。私、ミナト君が入った部活のマネージャーやりたい。私も~」


 こんなやり取りがホームルームが始まるまで続いた。

 

 隣に座る楓花もどこかそわそわしている。やはり皆と同じく転校生を見に行って色々考えてるのだろう。


 ホームルームが終わり話題はまた転校生についてだ。

 2組の教室ではどうなっているのだろう。くるみは昨日見た転校生に同情した。


 そんなこともあり、午前中は休み時間のたびに大移動が起き、くるみは教室に居ながらにして、転校生の様々な情報を得ることができた。


 やっと昼休みになり、くるみは足早に玄関へ向かった。

 男バスの昼練見学に向かうであろう女子たちとすれ違った。

 皆それぞれ楽しみは違うものだとつくづく思う。


 外靴に履き替え、玄関に出るとたちまちレモンの花の香りがくるみの体を包む。バスケを見るよりこっちの方がずっといいと思った。


 外玄関の両サイドには水道が3つずつあり、その横にジョウロが無造作に置かれている。

 くるみは溢れるすれすれまで水を入れ一番遠くのはちから順番に水やりを始めた。

 

 鉢の下から水が出るまでたっぷりと水やりをする。これがくるみのやり方だ。

 2度目の水くみを終え、続きの鉢へ向かう。

 はっきり言って時間との勝負だし、日差しが強くなるこの時期は体力だってかなり使う。

(急がなきゃ)

 

 ジョウロの水が空になり次の水を汲みに行くため急いで向きを変えた。


「キャー」


 目の前に人がいた。


「すみません急いでいて」


 くるみは下げた頭をゆっくり上げた。目の前にいたのは、転校生の桜井ミナト君だ。昨日校長室の前で見かけた制服だった。

 

 太陽を背にしているので、はっきりと顔が見えない。くるみは右手をひたいにかざし、太陽を遮った。


 皆が言うように茶色がかった髪や目は大人っぽく見える。でも、くるみも同じような髪の色をしていたので、さほど珍しくは思わなかった。


「驚かせてしまってごめんね」


ミナトは落ち着いた声で言った。


「大丈夫です。私こそ急いでたので」


「手伝ってもいい?」


「えっ、水やりを?」


「なんか、教室に居たくなくて」


 確かにそうだろうとくるみは思った。くるみの時よりも盛り上がっている。

 そんな転校生の気持ちを察して、くるみは手伝ってもらうことにした。


「転校生って大変だね。私も去年は転校生のような感じだったから、あなたの気持ち少しわかる。水、くみに行こう!」


 そう言って2人は肩を並べて玄関へ向かった。


「毎日水やりをしてるの?」


「そう、水やりが好きなの」


「そうかぁ、やっぱり自然が好きなんだ」


「えっ、やっぱり?」


 くるみはミナトが「やっぱり」と言ったことが気になった。


「何でもない」


 ミナトは満足そうにくるみを見た。

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