第10話 小さなお客さま
和哉は白衣をまとい、パソコンの画面に目をやった。
「寒くなってきたし、いつもの
美沙は急いで玄関のカギを開け、小さなスリッパを用意した。
「お休みのところすみません。昨日の夜からゆみの咳が止まらなくて」
母親は申し訳なさそうに頭を下げた。
「それは、つらかったねぇ ゆみちゃん」
美沙は膝をついてゆみの帽子を取り、スリッパを履かせた。
「準備ができたら呼びますので、待合室でお待ちください。」
ゆみは幼稚園の年少さんの女の子。三歳のたんぽぽ組だ。小さなウサギを手に握りペタペタとスリッパを擦るように歩き待合室のソファーにちょこんと座った。するとすぐに立ち上がり、くんくん匂いを嗅ぎまわる。
「どうしたの?」
ゆみの母は手招きをした。でもゆみのくんくんは止まらない。
「ゆみ、座ってちょうだい」
「なんか、いいにおいがする!」
ゆみは診察室を覗き込んだ。美沙はにこにこ笑いながら、ゆみを見ている。
「ゆみちゃん、鼻がいいねぇ。中にお入りください」
ゆみは人差し指で鼻を触り、母に手を引かれて診察室へ入って来た。
診察が終わると、喘息の薬の吸入を二十分ほどして帰って行った。
美沙がゆみを玄関まで見送って診察室へ戻ると、和哉は窓を開け空気の入れ替えをしていた。
「やっぱりニンニクは匂うな」
「そうね」
その時、鈴の音がかすかに鳴った。
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