第5話 そこで見つけたものは・・・

 和哉の言葉に航は従ったが、やはり怖い。

静かに深呼吸をし、足元を慎重に確認した。2人は真剣な顔つきで隙のない間合いを取り、歩き始めた。

 

 何が光っているのだろう。火災ではないのは2人とも分かっていた。光の色はではない。のような色で発光する何かがある。2人の心臓は内側からガンガン叩かれ、吐き気がするほどの緊張感だった。

 

 一歩近づくごとに発光するものの正体が分かりそうになる。しかし、それが何か知りたいのか、知りたくないのか、もうわからない。


「木だ!いや、葉か?」

 

 発光しているのは大きな木の根元の辺りだ。つる性の植物が何か塊を包んで発光しているようだ。


「何が入ってるんだ?」   


 一歩、また一歩近づきながら、2人の頭はフル回転だ。

(火の玉…隕石…UFO…かぐや姫…宇宙人…蛍の大群…宝の山…妖精…聖なる剣………。)


 2人はありとあらゆるものを想像し、その対処法を考えて足を進めた。

(素手で触ってはいけない…目を見ると体を乗っ取られるかもしれない…宝は平等に分け合おう…言葉は通じないだろう…警察に連絡しないと!いや、オレが警察か…)


 緊張で胸が張り裂けそうな2人は互いの動きを横目で感じながら、光の正体に集中し体を前へ進めた。


光との距離が5メートルほどになった。


「足だ、人の足だ!」


 航は驚きのあまり息が詰まったが、和哉に知らせたい一心で声を振り絞った。2人は足を止め、目で合図をすると、一気に駆け寄った。

 

 今まで見た中では一番大きな木だ。その木は傾くこともなく根をしっかりと張り、根元には植物のツルがのように青々とい茂っていた。そして、その中に人と思われるものが横たわっているように見える。

 

 顔や体は見えない。靴を履いていない細い片足がつるの間からだらりと下がっている。(死体…なのか?)何が光っているのかは分からないが、その人の周りの植物が発光しているのだろう。


 和哉は次々と湧いて来る疑問は切り捨て、ただ目の前に倒れている人の安否確認と、生きているのであれば、助けたいと思う気持ちを優先した。


「宇宙人じゃないよね」


「わからん、よく見てみないと。生きてるか死んでるかもわからんしな」


「触って大丈夫かなぁ」


「大丈夫だろう…たぶん人間だ」


 和哉はツルに覆われた人間と思われるものの全容を見るために、ツルを手でちぎり始めた。つるは、硬く切れづらいものと思っていたが、まるで、草でもむしるかのようにたやすく切れた。


「ずいぶん瑞々みずみずしいな」


 よく見ると育ち始めの若木までもが体を包んでいる。地面から50センチくらいの所に仰向けに横たわっている体が姿を現した。和哉は最後に残された顔の部分のツルも、恐る恐る取り払った。


「おじさん、この子生きてるよね?」


「……あぁ、生きてる。」


 和哉は少女の首元で脈を感じながら答えた。2人は深いため息をついた。(どうしよう…)


「もう少し調べたいから、車から往診かばんを持って来てもらえるか」


「おじさん一人残って大丈夫?」


「大丈夫だ。女の子だし、暴れたとしても何とかなるさ。鞄急いでくれ」


 航がいなくなり、改めて森の様子と少女に目をやった。その少女は秋だというのに新緑の木々とツルアジサイに守られて、すやすやと眠っているようだ。


「大丈夫か!声が聞こえるか?」


 耳元で声を掛けたが、やはり反応はない。服はあちこちが破れ、焦げたように黒ずんでいる所もあるが、大きな外傷は見当たらない。

 たぶん、15.6歳の少女なのだろうか。ひき逃げ事故とは考えられない。

 道路から100メートルは離れている。それにこの林道を夜に歩く人なんているのだろうか? 

 自殺…。これも違うように思う。道に迷ってここにたどり着いてしまったのだろうか。ここなら、さほど町から離れていないしなぁ。

 

 でもなぁ…どうして植物に包まれているのだろう。それにこの森の惨状の中どうやってしのいだのだろう。少女は生きている。たぶん意識を失っているのだろう。植物が成長するには時間がかかる。その間ずっとここに倒れていたのだろうか…。どうも普通に考えていたのでは答えが見つからない。

 

 今だって、冬も近い11月だというのに、少女の周りの木は芽吹き、ついさっきまでつぼみだったツルアジサイは白い花を咲かせ甘い香りを漂わせている。

 それに、暖かい。光の中はまるで春だ。冷静になればなるほど不思議なことでいっぱいだ。

 

 どこからか蝶がやって来た。ひらひらと少女の周りを優雅に舞っている。蜂も蜜を吸いにやってきたのだろうか。現実ならば、あまりに理解しがたい。

 和哉は少女から目を離し、ゆっくりと辺りの様子を見渡した。ライトを消し、他にも光っている所がないか目を凝らす。


「やっぱりここだけか。」


 葉が無くなったおかげで秋の澄んだ星空がよく見える。和哉はしばらく空を見上げて考えた。


「落ちてきた…かな…」


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