第4話 合流した2人
美沙はすぐにスマホを取り出した。
「かずさん、今航が来てそっちに向かったわ」
「じゃあライトで合図してみるよ」
「航のライト褒めてやって!凄く良いやつらしいの」
車の窓から航のライトが森の奥に進んで行くのを目で追い、2人が合流したのを確認できると、差し入れのコーヒーを一口飲んだ。「さすが強力ライト!」美沙はくすっと笑った。
肝試しのノリで森に入った航だったが、実際に森へ足を踏み入れると言葉を失った。美沙から電話で何となく様子は聞かされていたが、航の強力ライトで照らされた森は想像以上に破壊されていた。
巨大な台風に長時間さらされたように葉が失われ、地面もえぐられている。残っている枝は皮一枚でぶら下がっている有様だ。一歩進むごとに破壊状況は凄まじく根はかろうじて付いているものの、地表に引きずり出された根は引きちぎれ、垂直を保っている木はわずかに見える。
この辺りの森だけが死んでしまったようだ。
懐中電灯の明かりを頼りに合流した2人は何から話し出せばよいか言葉に詰まった。
「突然呼び出して悪かったな」
「おじさん….これは…ここだけ何があったんだろう」
「分からない…」
肩を落とし呆然とした表情で和哉は答えた。そして、少し早口で言った。
「俺は往診に行く3時間前にここを通ったが何も感じなかった…普通気付くよなぁ」
和哉は夕方の様子を思い返し、考え込む。
「航、いいライトだな」
美沙にライトを褒めてやってと言われていたことを急に思い出した。
「あ、こっちおじさんのぶん」
予想外の状況にテンション駄々下がりの航は我に返ったように強力ライトを和哉に渡した。
「サンキュウ―、これカッコいいなぁ!ライトセイバーか?」
和哉はポーズを決めた!
2人は顔を見合わせて笑った。ほんの一瞬場は和むも、嫌でも視界に入る景色ですぐに現実に引き戻された。
「気になる場所があるんだ。だからお前が来るのを待ってた。」
緊張した面持ちで、えぐられた地面やむき出しの根につまずきながら2人は更に奥へ進んだ。
和哉の靴の中には小枝なのか、はたまた小石なのか土なのか、分からないくらい何かが詰まっている。もはや靴を履いている感覚はなく、かろうじて足を守ってくれる存在となっていた。
その点、航はいつも車に積んであった長靴をしっかりと履いている。
もう車は見えない。ハザードランプの点滅が車の場所を何となく感じさせていた。感覚では50メートルくらい進んだのだうか。和哉は足を止め、そこから先を指さした。
「ライトを消してみろ」
「えっ?」
航は一歩和哉に近づき恐る恐るライトを消した。すると、和哉が指をさしていた方向に闇だけではなく、うっすらと光る場所があった。目が暗闇に慣れてくると、更にはっきりと光の場所を確認できるようになってきた。
「ゆっくり近づいてみよう」
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