第16話 サタナキア



「ピンポンピンポーン! だーいせーかーい!」

 その女はやたら楽しそうに笑う。 

 ものすごい剣幕を浮かべたアリアと対峙しているはずなのに、怯むどころか余裕そうだ。

 アリアは少し焦っていた。

 フィリアに攻め入ったことで、天使だけじゃなく悪魔まで敵となってしまった可能性が高く、窓に立つその女が天使と悪魔どちらにしても戦闘になると踏んでいる。

 そして目の前にいるその女は今まで戦ってきた、どの天使よりも強い。

 師匠にすら負けるつもりはないが、それは一対一の状況に限った話で、今のように仲間が近くにいる状況では、アリアは誰か一人でも殺された時点で自身の負けだと判断している。

 自身が相対している女が一人で来ているとも思えない。

 アリアの背にて隠れるようにしているウニ以外はすでに、臨戦態勢。

 セキエンは刀を抜き、フィンドは風を纏っている。

 そしてアリアは窓の外に目を向け、思う。

(――すでに負けているかもしれない)

 ぎりっ――歯を軋らせた理由は。

「……外の子たちをどうした」

 アリアの発言を受けた女は、にやりと口角を上げてから告げる。

「邪魔だったから……」

 そこまで聞いて、アリアが動く。

 床を蹴り、その女目掛けて剣を振るう。

 だが、その剣は空を切った。

「えー! 思ってた以上に遅くてびっくり! やっぱ子供だねー!」

 窓の外上空に立ち、女の開いた口から出てきた言葉は、あからさまな挑発だった。

「――上等!」

 もちろんアリアは受けて立つ。

 翼の展開。

 天使や悪魔が翼を展開するのは、なにも飛ぶためだけじゃない。

 もう一つの役割、それは――――力の開放。

 大地が揺れる。

 通常の体幹を持たぬもの、例えば赤子がその場にいれば、たちまち転がっていく程の揺れ。

 その力の波動に当てられて、女は笑みを引き吊らせた。

(これは……確かに、死ぬかも……)

 そして、すぐさま両手を上げて宣言する。

「参ったー!」

 自身との戦力差を正確に分析できる力は、戦闘においてかなり重要だと言えるだろう。

 その結果、自身が劣っていたとしても潔く負けを認められる者は少なくない。

 だが、アリアが相対してる女は戦力差を正確に把握し、潔く負けを認めた。

 アリアは彼女のその様子を見て、強者の烙印を押した。

 故に、油断はしない。

 降参を告げたにも関わらず、未だ殺気を放ち続けているアリアに臨戦態勢を解かせるべく、女は指を差して叫ぶ。

「外にいた子たちなら、ほら! そこで寝てるよ!」

 示された先にいるミヤたち三人は、穏やかな表情で木に寄りかかり寝ているようだった。

 だが、まだ分からない――。

「セキエン!」

 アリアの声に応じて、セキエンはすぐさま確認に向かう。

「アリアどのー! 三人とも寝ているだけでござるぞー!」

 ふぅ――三人の無事を確認してようやくアリアは肩の力を抜いた。

 だが、剣も翼も収めることはせずに、問う。

「何の用だ」

「えー! せめて剣は仕舞しまってほしいんだけどー!」

「黙れ。用を言わないなら、その翼をぶった切る」

 女はそのアリアの様子に嫌な既視感きしかんを覚え、冷や汗を流す。

「はい! 言います! ワタクシ、サタナキアと申します! ルシファー様に言われて迎えに上がりました! アリア様!」

 その女『サタナキア』が披露する綺麗な敬礼と、先程までとのギャップに毒気を抜かれたアリアは、とりあえず剣だけを収めた。

 セキエンは言っていた――『ルシファー』は魔族の二本の柱のうちの一つだと。

 師匠と肩を並べる実力を持つ魔王が、一体自分になんの用があるのか、そう少し思考して、

「詳しい話を聞こう」

 そう告げたのだが。

「えー! 詳しくも何も、今言ったのが全部なんだけどー!」

「は?」

 アリアの驚きももっともである。

「いや、なんで迎えに来たのかを聞かせてくれよ」

 胸の内に抱いた疑問をアリアはそのまま口に出した。

「いやーそれがさー聞いてないんだよねー」

「話にならん。聞いてから出直してこい」

 もっともすぎる答えだった。

「えー! やだー! めんどくさいー!」

 いらっ――とした気持ちを押し殺して微笑み一言。

「か・え・れ」

 そのアリアの様子にサタナキアは、またもや嫌な既視感を覚え冷や汗を流したが、今度は怯むことなく、

「えー! でもー来た方がいいと思うよー?」

 指を一本、頬にあてながら首を傾げて話す、サタナキアのその様は男心をくすぐるかもしれない――アリアはそう思った、全く関係ないが、そう思ったのだ。

 念のためにもう一度言っておく、そう思ったのだ。

 だが、アリアには可愛らしいポーズは効かない。

 だが! ウニの可愛らしいポーズなら見てみたいと思ってしまったが故に、

「ウニ。ちょっとあいつのポーズを真似してみてくれないか?」

 サタナキアの発言を気にも留めずアリアは口に出していた。

 こんな状況なのに、アリアからされたお願いは理解不能で、正直意味があると思えないものであったが、ウニはその思いを尋ねることも断ることもしない。

 アリアが自分にお願いしているのだから。

「こ、こうですか?」

 指を一本、頬にあてながら首を傾げて話す、その様はアリアの心をくすぐった。

(すっげえ可愛い)

 その思いは隠して告げる。

「ありがとう。ウニ」

 特に何の反応も得られず、お礼だけされたウニはさらに首を傾げた。

 ふぅ――アリアはそう一息ついてから、展開された翼も収めて問う。

「それで? なんで行った方がいいんだ?」

 サタナキアは困惑していた。

(え! なに? 私、変なポーズしてた!? あの子のポーズを見てた限りじゃ可愛いと思うんだけど……あ! そういうことか!)

 サタナキアの分析力は優秀だった――が故に、

「アリア様! 私のこと可愛いと思ったんでしょ!」

 正確に言えば違うのだが、アリアはギクりと反応してしまう。

 ウニの視線が痛かった。

「アリア……浮気ですか……?」

「ウニ! 待て! 誤解だ! ポーズだ! あのポーズをウニがやったら可愛いかなと思っただけだ!」

 ウニの視線の鋭さが、少しだけ丸みを帯びている。

 後は押すだけ――そう判断したアリアは続けた。

「ウニは! 最高に可愛かった。あいつは可愛くない。うん、そりゃもう、全然」

 完了――そう思ったが、ウニの表情からは僅かに疑念を拭いきれていないものが感じられる。

 ならばもう一押し、と。

「ウニ。好きだ」

 これならどうだと意気込んで、目線をそらさずウニを見た。

「そうやって言えば、いいと思っていませんか?」

 アリアの額に汗が流れる――図星だった。

 だが、図星を突かれたと動揺するより、素直になるべきは明らかで。

「はい。ごめんなさい。だけど、あいつを可愛いと思ってないのは本当だ」

 信じてくれ――その言葉を視線に乗せてウニを見つめる。

「はい。信じます」

 心が通じて喜ぶことより今は『敵』を排除しようとアリアは睨む。

 その視線に冷や汗を流しながら、「めんごめんご」などと誠意のかけらも無い謝罪をする彼女に一言。

「帰れ」

「はい! 今日のところは帰ります!」

 再びアリアに向けられたそれは、数分前にも見たことがある綺麗な敬礼である。

「あ! でも一つだけ!」

 指を一本、頬の横に立てるその姿勢に対して、何を言うつもりかと少し警戒しつつ、

「なんだ?」

 端的に問いかける。

「天使の軍勢一万匹がこっちに向かってきてるから! 死なないようにね!」

 アリアを含め、四人はその発言に驚かずにはいられない。

 サタナキアが、そのまま手を振り退散しようとするが、させるわけもなく。

「おい! ちょっと待て!」

 え、なに――と言わんばかりの表情を浮かべるサタナキアに、再び苛立つ気持ちを押さえて告げる。

「詳しく聞かせろ」

「えー! 詳しくも何も、今言ったのが全部なんだけどー!」

 こいつ――とは口に出さずに。

「詳しく聞かせろ」

 怒りの感情を前面に押し出して、アリアはそう告げた。

 再三に渡り、自身に襲い来る既視感の正体をサタナキアはようやく理解する。

 魔王ルシファーと同等の威圧。

 サタナキアにとって厄介なのは、自身が相対してる者がルシファーでは無いことで、同じ対応は間違いなくまずいと判断する。

「はいはい。言えばいいんでしょ」

 だから彼女は両手を上げてゆっくりと地面に降りながらそう告げた。



「妙な動きをしたら命はないと思え」

 アリアは自身で作った家の中に彼女を招き入れて、すぐにそう告げた。

「えー! 妙な動きってなにー?」

 なぜだろう――アリアは自身が苛立っていることに気付くとすぐに思考を開始した。

 すぐに答えは出たのだが。

「声がでかいのは構わないが。まず、その『えー』って言うのをやめろ」

「えー! 細かいー!」

「おい」

 っ――アリアに睨まれ、サタナキアは両手で口元を押さえると首を縦に振った。

 アリアは面倒くさいという感情を隠すことなく深く溜息を吐いてから告げる。

「はぁぁ……セキエン。俺の代わりに事情を聞いてくれ……」

 急を要する案件なだけに、イラついて話が止まるのは避けねばならない。

 アリアのその思いを、もちろんセキエンは察する。

「ではサタナキア殿、と申されたか? アリア殿に代わり拙者がいくつか質問させてもらうでござる」

 そう切り出して、まずは。

「天使の軍勢一万がこちらに。と申されたが、それはアリア殿を狙って。と解釈してよろしいでござるか?」

「…………」

 サタナキアは両手で口を覆ったまま動かない。

「はぁ……おい。喋っていいぞ」

 アリアが指示を出す。

「ぷはぁ! おじさん、その喋り方なにー? 変だよー!」

 そっちかよ――そう思ったがアリアは知っている。

 セキエンはおじさんと呼ばれることを嫌うが、それ以上に。

「アリア殿。この女を叩き切っても良いでござるか……」

 喋り方について疑問を問うことに怒りはしないが、馬鹿にされるのは滅法めっぽう嫌う。

 セキエンの師匠に関する事だからなのだが、今はそれどころではない。

「セキエン。とりあえず話を聞いてからにしてくれ……と言ってもお前ももうだめそうだな。ウニ、頼む」

 ぷるぷると震えるセキエンを軽く制しながら、ウニに指示を出したが――。

「アリア様! 私悪いこと言っちゃったー?」

「お前はいったん黙ってろ」

「えー! そんなこっ……!」

 アリアの視線に刺され再び、口を押える。

「ウニ。頼む」

「…………」

 俯くウニがなにやらセキエン同様ぷるぷるしていて、アリアの言葉に答えなかった。

 ばんっ――両手で机を叩き、勢いよく立ち上がるウニさん。

 その時の彼女の表情は、何度も目にしたことのある例のリスであった。

 だから例に従ってアリアは身構えるしかない。

「アリア様! アリア様と呼ばれることを止めてください!」

 彼女もアリア様呼ばわりだった。

「それは今はどうでもいいだろ……」

「どうでもよくありません! メイリーの時は止めていました!」

 いや、そうだけど――と答えようとも思ったが、木の実を頬張ったリス状態のウニさんには、明らかに逆効果なわけで。

「はあ……アリア様と呼ぶのをやめてくれ。それから喋っていいぞ」

「ぷはぁ! えー! そんなこっ……!」

(こいつは馬鹿か。馬鹿なのか)

 再三に渡るやらかしに、自分で気付き口をふさぐ目の前の少女が段々と不憫に思えてきたアリアは、

「はあ、もういいから全部話せ」

 彼女の矯正きょうせいを諦め、許可を出す。

「ぷはぁ! え! いいの? やったー! で、何から話せばいい?」

「天使は俺を狙ってるのか?」

「多分そうだよー! 率いてるのカマちゃんだ。って話だしー!」

 その名にアリアは反応せざるを得ない。

 そしてその場にいる他の三人もアリア同様に表情を真剣なものに変えた。

「カマちゃんってのはカマエルのことか?」

 淡々となにも思うことなく告げ、アリアは返答を待つ。

「そだよー! あれ? 知り合い? あ! そうかー! 知ってるんだー!」

 自身の質問を肯定する言葉以外はアリアには届かない。

 仇の一人カマエルの名を受け、揺らぐ灯火――されど火力は増すことなく。

 そしてアリアは、目の前にいるサタナキア、この少女が何をしに来たのかを考える。

 ルシファーの命で自分を呼びに来た。

 結論を告げる。

「ルシファーのとこへは行かない」

 一度断ってはいる状況で、再度告げた招待の断りはそちらがメインの意思表示ではない。

 ルシファーの招待に断ることで生じる裏の事情――カマエルの打倒。

 いや、こちらがアリアにとっては表であり、全てとも言える。

 アリアのお迎えに上がったはずのサタナキアだったが、彼の様子――変わり果ててしまったと言ってもいい程に変化した表情を見て、微笑みながら告げる。

「助太刀! いる?」

 少し意外な提案ではあるのだが、アリアは言う。

「いらない、帰れ」

「ありゃ」

 彼女としては「いいのか?」とか言ってもらえる気でいたのだが、即答で断るアリア。

 だが、彼女にとってはそのアリアの返答が面白くもあり、周りに視線を飛ばしながらアリアに問う。

「えー? アリア様はー死なないかもしれないけどー? いいのー? 他の子たちは死んじゃうよー?」

 その問いを受けて、アリアは考える。

 一万の天使とその軍勢を率いてる者。

 メイリーは言っていた――カマエルは母アスタリアと対等に戦えるほどの天使だと。

 アリアは自身の力を過信してはいない、母の実力も詳しくは知らないのだが、魔王と対等に戦える天使が率いる一万の軍勢。

 そんな戦いはアリアは今まで一度も経験したことない。

 彼女の発言はもっともであり、だからこそ思う。

(今までだって散々巻き込んできた。だけど、今回は規模が違いすぎる……皆を――巻き込みたくない)

「……ウニ。セキエン。フィンド。ミヤたちを連れて離れていてくれ。できるだけ遠くに」

「嫌です」

「拙者も嫌でござるな」

 一秒だって間を置くことなく返ってきたその言葉は、否定の言葉のはずなのに嬉しいもので。

 だけど、失うわけにはいかない――そうアリアは思い、下唇を噛んだ。

「っ……頼む」

 セキエンたちもアリアの想いは正確に理解している。

 アリアは自身の仇討ちに、自身の我が儘に付き合わせて、仲間を――いや、家族を失いたくないとそう思っている。

 だからセキエンは言わなくてはいけないこと、アリアに告げる。

「アリア殿。これはすでにアリア殿だけの仇打ちではござらん。拙者たちにとっても天使は仇でござる」

 アリアの我が儘に付き合うわけではなく、自分たちがそうしたいのだと、セキエンは続けた。

 そして、

「その通りです。それに、私たちの心配ならいりません。アリアは私たちが守ります。ですから、アリアが私たちを守ってください……私たちがアリアを守るなんて、おこがましいと思いますか?」

 思わない、思うわけがなかった。

「私たちも行くよ。お兄ちゃん。家族だから。ね? フィンド」

 起きてたのか――なんて思ってる場合じゃないのに、当たり前みたいに話すミヤの声色がアリアの強張った心を解す。

「ああ、私たちは死ぬまでじゃない。死んでも共に。なのだろう?」

 どこかで聞いた言葉をフィンドが続けて、アリアは諦めた。

「……メイリーの気持ちが分かった気がする。確かにお前らおかしいよ……」

 そう口にするアリアは俯いてはいるものの、微かに笑みを浮かべていた。

 ミヤとフィンドに至っては、一度助けただけなのに――家族のために死ねる心がそこに宿っている。

 おかしい、有り得ない、だけどあったのだ――今ここに。

 口角を上げて、下向く顎も引き上げて、確かな笑みを顔に浮かべてアリアは告げる。

「……分かった。だけど約束だ。生きてまたここに帰ってこよう」

 ここ――それは今いる場所のことではない。

 どこだっていい、皆がいればそこが家になり、『ここ』になる。

 アリアの言葉に、家族が大きく頷く――。


 そして、その温かさに当てられた者がまた一人。

「いいねーなんか。よくわかんないけど、なんかいい!」

 その少女、サタナキアが楽しそうに笑いながら話を続ける。

「そういうことなら、一つ教えてあげる! 一万の内、半分以上は。いや、もっとかな。九千九百くらい? あー! カマちゃん含めた百人以外は本物じゃないから! アリア様なら余裕だよ!」

「本物じゃないってどういうことだ?」

 サタナキアの言葉に抱いた疑問をアリアはそのまま問いかけた。

「んー? そのまんまの意味だけど―? ……本物の天使じゃない」

「偽物の天使なんてのがいるのか?」

「それもちょっと違うんだけどねー。ま! 言ってもいいか!」

 よく聞いてね――そう前置きをしてから彼女は雰囲気を少し重たいものに変えて話し出す。

「私たちは、神様に作られたの。知らない? 結構有名なんだけど」

 彼女が訪れる前にフィンドより聞かされていた、神の話およびそれに付随する話はアリアの中で確信へと近づいていた。

 そして現悪魔であり元天使サタナキアが語ることで、確信への距離を一気に詰める。

 だから、アリアは信じるしかない。

「やっぱいるのか。神は」

「いや? いないよ? 今は」

「今は?」

 そして、続けられたサタナキアの言葉は、新たな謎をアリアたちの中に生み出す。

「隠されたの、一人の天使に」

 どういうことかと、聞こうとしたが、

「あー! その話か! ルシファー様の用事って! だったらそれはルシファー様から聞いて!」

 とてつもなく、うるさかった。

 アリアは反射的に耳を押さえつつ、答えた。

「いや、だから行けないって……」

「知ってるよー! だから、これが終わってからで大丈夫! で! 話を戻すけど、本物じゃない天使って言うのはー。神様じゃなくて天使が作った天使ってこと!」

 ――アリアの言葉を待たずして、遮るように話した内容に、全員興味を抱かずにはいられない。

 耳を塞いだ手をどかし、真剣な表情に戻してから、アリアは問う。

「天使が天使を作れるのか?」

「いや? 作れない」

 なんだコイツ――全員がそう思った。

「は? 今作ったって言ってただろ」

 アリアの疑問はもっともだったが。

「だーかーらー! 天使もどきなんだよ! 言っちゃえばただの鳥人間! もーへっぽこ! 雑魚! ゴミ! そう! 翼の生えたゴミ!」

 ぶんぶんと拳を振り回しながら告げるサタナキアを放置して、アリアは思考する。

(天使が天使を作る――だが、天使は天使を作れない。故に、天使が作った天使は天使もどきであり、天使ほどの力はない……か)

 そのアリアを放置して、彼女は続ける。

「まあ、武器を持ってるからねー危険ではあるんだけど……アリア様の敵ではない!」

 自分の敵ではない、というその発言には、過去を思い返せば思い当たる節がいくつもあって。

 なるほど、どおりで弱いと感じたわけだ――と、アリアは納得するしかなかった。

「ここにいる子たちがどのくらい戦えるか分からないけどー。その天使たちなら相手にできるんじゃない?」

 確かにそうかもしれないが、百人以上は本物の天使なわけである。

 それを確認する前にサタナキアの方から、驚きの提案をされる。

「で! カマちゃん以外の百人は。私が相手をしてあげよう!」

 胸を反らし、自信満々な様子で告げる彼女に対して「いらない、帰れ」その言葉は今のアリアの口からは出てこない。

「いや、いいのか? 俺はお前のことは守らないぞ?」

 期待通りの言葉を今度はアリアから頂けたサタナキアは、不敵に笑う。

「えー! 守る? いらないよ? 私すっごく強いから」

 そう話す彼女の様子から、どこか自分と同じものを感じてアリアは微笑む。

「まあ、後でルシファー様に怒られるかもしれないけどー。久しぶりに暴れたいしー。怒られた時は、かばってね?」

 いやだよ――そう言いたい気持ちはあったのに、今は皆のおかげで心が満たされていて。

 アリアは笑う。

「ふっ……分かったよ」

 こうしてサタナキアの協力を得て、一万の天使の軍勢にたったの八人で望むことになったのだが、アリアたちは不安な気持ちなど欠片も感じていなかった。


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