第7話 妖



 アリアたちは日の沈んだ暗闇に包まれた森を歩いている。

 目的地である、聖フィリア王国の王都セピアへと辿り着くのは、ここからならば後、一週間だとメイリーは言った。

 つまりアリアたちはすでに使族領域の土を踏んでいる。

 自身の知らない地を歩いているにも関わらず、真夜中の森を歩くわけは、そう判断したアリアにしか知る由はない。

 しかし、誰もそれを聞こうとはしなかった。

「ウニ、足はまだ大丈夫か?」

「はい、まだまだ大丈夫です」

「メイリーは?」

「はい、私も全然、大丈夫です」

「よし、それじゃあもう少し進もう」

 ウニとメイリー女性陣には、この真夜中の長距離徒行とこうはキツいだろうと思っての心配だったが、二人とも存外、平気そうで安堵するアリア。 

「アリア殿。女性にだけ優しいのは不公平でござるぞ。我らにも聞いてくだされ」

 寝言を抜かすセキエンに、ライセがアリアよりも先に反応する。

「セキエンはきついなら、その甲冑を脱げばいいんじゃないのか?」

「きついわけではござらんよ。アリア殿は本当は我らのことも心配しておるくせに、照れて聞けない様子でござるからな。こちらから言ってあげたと、そういう次第でござる」

「アリアが俺たちの心配を? 本気か?」

「拙者の勘が間違いないと告げているでござる」

 しっかり二人の会話が聞こえているアリアが会話に割って入る。

「そうか、セキエン。じゃあこの後どうなるのか、お前の勘はなんて言ってる?」

「…アリア殿の拳が飛んでくる。でござるな」

「正解」

 アリアの拳が兜の吹き返しを殴り、セキエンの頭がグルグルと回る。

 セキエンは自身の頭が正面を向いたところでピタリと止めると――。

「はっはっは。アリア殿は優しいでござるな」

「…うっせぇ。黙って歩け」

 遠くにぶっ飛ばすこともできたであろうにと、上機嫌に笑うセキエンを横目にアリアは歩く速度を速めた。

「なぁセキエン、ウニに睨まれてる気がするんだが…」

 ライセは少し後ろを歩くウニの視線に気が付くと、それをセキエンに尋ねた。

「あーあれはお前らのせいでアリアが私の隣からいなくなってしまった。どう落とし前を付ける気だ、ボケ。そういう視線でござるな」

「おい、そんな乱暴な物言い、ウニはしないぞ」

「逆でござるよ。口にしてこないということは、そういうことだと思わんでござるか?」

 ライセがゴクリと唾を呑み込んだ。

 セキエンの予想は当たらずとも遠からず。

 ウニの心の中では言葉は違うが同じようなことを考えていた。

「セキエンとウニは、どっちが先にアリアと一緒に旅をするようになったんだ?」

 ライセは、何の気なしにセキエンに聞いた。

「同時でござるな」

「同時?」

 ライセの鸚鵡おうむ返しを受け、アリアをチラリと見てからセキエンが口を開く。

「……アリア殿に聞かれる心配はないから話してもいいでござるが……絶対にアリア殿には言わないでほしいでござる」

「セキエン!」

 二人の会話をすぐ後ろで聞いていたウニが強く呼び止める。

「ウニ殿もアリア殿の美談、話したかったのではないでござるか?」

「そ、そうですけど…」

 以前、話そうとした時はアリアに止められた。

 だが、セキエンの言う通り今なら止められる心配はない。

 だから、ウニは葛藤していた。

 アリアのかっこいい話を、誰かに語って聞かせたい気持ちはある。

 だが、手を繋いでもらうことを条件に話さないと約束をしている。

 話したいけど話せない、そう悩むウニの耳に――。

「あーアリアの武勇伝が聞きたいなー。それを聞いて尊敬して目標にしたいなー。誰かアリアのかっこいい話をしてくれる人いないかなー」

「します!」

 ウニはチョロかった。

 セキエンに耳打ちされた内容を、棒状に読み上げただけなのに、あっさり釣れてしまったことにライセは驚いた。

 そしてすぐさま。

「あれは私が…」

「あれは拙者が…」

 二人は同時に話し始めた。

「私が話しますので、セキエンは黙っていてください」

「ウニ殿それはないでござるよ、元々ライセ殿に聞かれたのは拙者でござる」

「あの…どっちでもいいから…」

「ライセは黙っていてください!」

「ライセ殿は黙ってるでござる!」

 二人の譲れない戦いを前に、ライセに為す術はなく、あっけなく散った。

 最後尾にて三人を見守っていたメイリーが、前方でなにかに警戒するアリアに気付いた。

「ウニ、セキエン。アリアを見てください。様子がおかしくありませんか?」

 そのメイリーの発言を受け二人は言い争いをやめ、アリアに注目した。

 ずいぶん先を歩いていたアリアが歩くのをやめ、周りの警戒をしている。

 四人は駆け足でアリアに追いつくと何も言わず指示を待った。

「セキエン、戦闘の気配」

 アリアに言われセキエンは気付く。

「…南東の方角でござるな」

 デュラハンはその特性上、死人の気配に敏感である。

 老衰や病気、戦いに至るまで死を敏感に肌で感じ取ることに長けている。

 アリアは考えた。

「規模は」

「そこまで大きくはないでござるな、十と言ったところか」

 ここは使族領域、アリアはまったくと言っていいほど内情を知らない。

 そこに住む者、地形、怨恨えんこん、ルール。

(行くのはいいとして、そこに何がいる。最悪なことに辺りは真っ暗だ。全員、連れていくべきか…)

 アリアは自身の力を過信していない。

 敵の数が十程度であったとしても、何も分からないところへ、危険かもしれないところへ仲間を連れてはいけないのだ。

 明らかにその気配は近づいてきている。

 あの時、前進をやめておけばよかったと後悔が募る。

「警戒しろ…来る!」

 アリアは何かが自分たちの方へ走ってくるのが見えた。

 月は出ているが、森の中。

 暗い樹々の間を通り抜け、その先から走ってきたのは、全身白色の異国の装束を着た小さな女の子だった。

「フィンド! フィンドを助けて!」 



 アリアとセキエンは暗闇に包まれた森を駆ける――。

「セキエン、なんで付いてきたんだ?」



 先刻――。

「フィンドってのが一人で戦ってるのか? この先には十人くらいいるはずだ」

 アリアは少女に尋ねていた。

「私の、友達。一人で。戦ってる。私に、逃げろって…」

 泣きながら話すその少女はぶつ切りにだが、落ち着きを取り戻しつつ話した。

 そして全員が顔を見合わせる。

「助けに行く」

 アリアの宣言に頷く四人の表情は、分かってると言いたげだった。

「セキエン、ほかの場所に戦闘の気配。いや…何でもいいから気配はないか?」

「ちらほらあるでござるな」

 ここにいれば安全――な、わけもない。

 やるしかない、アリアは決心して右手を近くの木に押し当てる。

 そして『詠唱』を開始する。

「ここは、森なんだ居てくれよ? 精霊召喚――」

「――え!」

 ウニがアリアから放たれた単語に思わず驚きの声を漏らした。

 少女を含めた全員の視線がアリアに集まる。

「来い! 森の精霊ドライアド!」

 アリアの触れる樹が僅かに光り、中から女性が飛び出してきた。

「おっひさー!」

 飛び出したその女性は、妖艶ようえんと言える見た目とは裏腹の子供のようなテンションで、そのままアリアに抱きついた。

「ニッカ!」

 アリアがそのドライアド、『ニッカ』の名前を呼ぶ。

「いやああああああ!」

 絶叫だった。

 ウニの絶叫がその場どころか森中に響き渡る。

「あ、アリア! 浮気です!」

 ウニのその心の底からの叫びをアリアは制止する。

「ウニ、待て。今はそれどころじゃない! ニッカ、契約だ。期間は半日から一日。対価は魔力と…要相談だ」

「はぁー、まーた短期のフリーっすかー。いい加減、永遠の本指でもいいん・だ・ぞ」

 ニッカはアリアの肩に手を回しながら妖艶に微笑む。

 ウニが叫ぶ気力を失い、その場にへたり込んだ。

「そういうのも後回しにしてくれ。それで契約するのかしないのか、どっちだ」

 相変わらずノリわりーなどと、ぶつくさ文句を垂れながらニッカは離れた。

「おっけー、じゃ! とりあえず一日で。契約完了けいやくかんりょっと」

 ニッカはそう言いながらアリアの左の手の甲を、自分のものと合わせた。

 契約の印が互いの手の甲に現れる。

「…これ、いるのか?」

「んーまぁ決まりだからねー。あーしとしてはー要らないと思うんだけど―」

「はぁ、まあいい。内容は…」

「ああ! いいよいいよ。どーせその子たちの護衛っしょ?」

 ニッカはそう言いながらメイリーたちを指差した。

「ああ、いつも通りだ。任せていいか?」

「了解了解、それにしてもアリアっちも大変っすなー」

「まあな、じゃあ行ってくる」

 いってらー、ニッカがそう言いアリアに向けて手を振った。


 そして現在――。

 アリアとセキエンは暗闇に包まれた森を駆ける――。

「セキエン、なんで付いてきたんだ?」

 アリアは一人で行くつもりだったが、セキエンが後を追ってきていた。

「まあ理由はいくつもあるでござるが…先程の少女が、拙者を恐れておったでござる」

「ん? そうなのか?」

 セキエンは深くため息を吐いて続けた。

「拙者のそれは、いずれ知れること。それよりもアリア殿」

 アリアは少しだけ威圧を込められた視線に身をたじろがせる。

「な、なんだ?」

「帰ってからの心配をしたほうが良いでござるよ」

 ですよね――アリアも馬鹿じゃない。

 ウニのなだめ方を模索しながらアリアは目的地へと急いで向かうのだった。


 突風吹き荒れるその戦場で、アリアが目撃したものは、十人の人間と一匹の馬だった。

 それを目にしたアリアの瞳は、輝きに満ちていた。

「せ、セキエン! ユニコーン! ユニコーンがいるぞ!」

 一匹の馬、暗闇で分かりづらいが、確かにたてがみと尾をなびかせるその馬の頭上には、天を指し示す立派な角が生えていた。

「アリア殿、落ち着いてくだされ。今はそれどころではないでござる」

「ああ、悪い。で、あいつらはなんだ? あいつらもデュラハンか?」

 アリアの発言を受け、セキエンは自身が動揺していることを認めざるを得ず、アリアの言葉は否定しなければならなかった。

「いや、あやつらはデュラハンではないでござる……」

「じゃあ……」

 アリアはセキエンが否定したことで理解する。

「ええ、あやつらこそがヒテンの……侍」

 『日纏ひてん』――その国は天使、悪魔どちらの加護も受けない、独立鎖国どくりつさこく

 海に囲まれた島国であり、本来アリアたちが踏んでいる大地、『全世界ゼンセカイ』大陸へ侵入してくることもない。

 だが、今アリアたちが目撃しているその者たちがセキエンと同じく甲冑を身に着けていることから、それは純然たる事実として受け入れなければならなかった。

「何奴だ、貴様ら」

 侍の一人が口を開いた。

「あー、俺たちはこんくらいの小っちゃい女の子に助けを頼まれて来たんだ」

 アリアは自身の胸の高さに手を持ち上げ、少女の伸長を示した。

 そしてそのまま間を置くことなく続ける。

「で? その子の友達ってのはどいつだ?」

「ミヤか!」

 アリアとセキエンは驚かずにはいられなかった。

「せ、セキエン! ユニコーン! ユニコーンが喋ったぞ!」

 アリアはユニコーンを指差し、また瞳を輝かせて喜んだ。

「あ、アリア殿。お、落ち着いてくだされ。今はそれどころではないでござろう…」

 セキエンは精一杯、動揺を抑えなんとか冷静に返事をした。

「あ、ああ。悪い。てことは、フィンドってのはお前か!?」

 アリアはそのユニコーン『フィンド』に問いかけた。

「そ、そうだ…」

 怪我のせいで返事が弱い。

 十人同時に相手をしていたのだ、死んでいないだけ良かったとしよう。

 アリアはそう考え続ける。

「さっきも言ったがお前を助けに来た。こっからは俺がこいつらの相手をしよう」

「アリア殿。俺たち、でござるぞ」

 そうだった――アリアはそう思い微笑んだ。


 相手をしようとは言ったものの、穏便に解決できるのならそうしたいアリアはとりあえず尋ねることにした。

「おい、侍。なんでこいつらを狙っているかは知らないが、引いてはもらえんかね」

 先程の侍、隊長格の男が口を開く。

「貴様らこそ引け。これは我々、日纏ひてんの問題だ。口出しも手出しも無用」

「まあでも、ここはヒテンじゃないから…」

 まあ俺たちの住む国でもないのだが――アリアはそんなことを思いながら侍の言葉を待った。

「それ以上、口を開けば問答無用。切り捨てる」

 アリアは笑う。

 戦闘もやむなしか――と。

 そして告げる。

「かかってこい」

 隊長格の男を除く、他の者たちが一斉に動いた。

「セキエン!」

「任された」

 アリアの言葉に反応しセキエンが動く。

 その手には刀――ではなく鎖が握られていた。

 鎖を両手で引き合い、目一杯張り上げ、アリアに向かって振り下ろされた侍の刀を食い止める。

 キンッ――甲高い音が鳴り響き、鉄と鉄のぶつかり合いで火花が散る。

 刀を振り下ろした侍がおもむろに口を開く。

「貴様は…甲冑を着ておるが何者だ?」

「拙者はデュラハン。アリア殿の忠実なるしもべなり

 セキエンはを左手で持ち上げ、右手に握るに繋ぐ。

 デュラハンの基本装備、モーニングスターの完成。

 ではなく、繋がれた先にあるものはスパイクの付いた鉄球ではなく、自身の頭。


 GMS――顔面モーニングスター。


「貴様、あやかしたぐいか」

 セキエンは答えない。

 握られた鎖をグルグルと回し、顔面の勢いをつけていく。

 侍の一人が動く。

 セキエンはすかさず反応して顔面を飛ばす。

地属性魔法ちぞくせいまほう――硬化こうか

 自身の体に飛ばされながらにして、セキエンの『頭』がそう唱えた。

 顔面を覆う鬼面、兜それらは通常の十倍以上に固められ、侍を捉える。

 侍の纏う甲冑は見るも無残に砕け散り、セキエンの硬い顔面はその威力を発揮した。

「おおー飛ぶねー」

 のんきなことにその場に座り込むアリアは、セキエンが飛ばした侍を目で追っていた。

 アリアとセキエンを囲うようにして布陣する侍たちが一斉に二人へ襲い掛かる。

「GMS――顔面メガトンスロー」

 今なお自身の体が回している『頭』が呟いた。

 ハンマー投げの如く、自身を軸に、その場で回転する。

 アリアは寝転がっていた。

 飛んでくるであろう顔面と鎖に当たらぬように。

 アリアに飛び掛かる侍二人を、セキエンの顔面が迎え撃つ。

 最初の一人と同様に鎧が砕け、体も砕けて死に絶える。

 セキエンに接近した侍一人を、鎖がグルグル絡めとる。

 セキエンは鎖から手を放した。

 鎖に絡めとられた侍は、飛び去る顔面に引っ張られセキエンの体から遠のいていく。

 セキエンは鎖を離したのではなく、放したのだ。

 放たれた顔面は、一人の侍目掛けて飛翔していく。

 その侍は自慢の刀でセキエンの顔面を迎え撃つ。

 だが、それが両断されることはなく、侍の刀と体を破壊した。

 その衝撃を受け、侍を絡めとっていた鎖が緩んだ。

 だが、時すでに遅し、セキエンの顔面同様、頭から飛んでいった侍は、大木に頭を打ち付け兜が砕けて死亡した。

 セキエンは一分の間に五人の侍を撃破した。

 ――残りの侍は動けないでいた。

 いつでも殺せ、と言わんばかりに横たわっていた少年にも思える男が無傷で生き残り、仲間の五人が文字通り粉砕された。

 少年アリアが口を開く。

「セキエーン。あと何人だー?」

 残りは五人でござるぞーーー。

 飛ばされた顔面がなにやら遠くで叫んでいる。

「上々。よくやった」

 お褒めに預かり光栄でござるーーー。

 またもや遠くで叫ぶ声がする。

 アリアはお尻や足に付いた砂を、払いのけながら立ち上がる。

 そして隊長格の男に向けて、余裕綽々よゆうしゃくしゃく、言い放つ。

「なんだ? かかってこないのか?」

 ぎりっ――その男は面の裏で歯を軋らせた。

「なぜ、我々の邪魔をする……」

「言ったろ。小さな女の子から助けを頼まれたって。ま、それがおっさんだったら俺も考えたんだろうけど。俺も男だからね。女の涙に弱いのよ」

 そう言って男に微笑みかけるアリア。

 男は考える。

 自分たちでは敵わない――と。

 そして呟く。

「だがこれは、引き下がる理由にならん」

 刀を抜く侍五人に囲まれて、アリアも自然と剣を抜いた。

 アリアは教える。


「この剣もな、妖だ――――」


 変形へんけい――環ノ大鎌たまきのおおがま


 アリアは心の中でそう呟いた――いや、唱えた。

 剣は形状を変える。

 主人の詠唱を受け、全長一メートル五十センチ、刃渡り六十センチの大鎌へ。

 死神――――アリアの立ち姿を目撃し、侍五人の頭によぎるその言葉。

 変形完了を合図に、戦いの幕が開ける。

 最初の一人は、右から迫る侍だった。

 アリアは左手で持つ大鎌を、右手に持ち替え横に振るう。

 侍を腹部で分かち命を刈り取る。

 そして、長めに持たれたその大鎌の勢いは、一人斬ったくらいで収まることはなく、振るった勢いのまま一周。

 後ろに飛び退くのが遅れた、もう一人の侍も体を両断されていた。

 残りは三人。

 三角に陣取った侍たちは、ここまで残った強者と言えよう。

 アリアは思う――なかなかどうして、隙がない。

 アリアは思う――ならばどうした、隙なら作れ。

 地を蹴り隊長格の男目指して前進、もちろんその男は陣形維持のため下がるが、後ろの二人はどうだろう。

 追ってきてるな? ――ちゃんと。

「下がれ! お前ら!」

 隊長格の男が吠えるが遅い、前進はフェイク。

 残した余力でもう一度、地を蹴り反転、斬り付けた。

 日纏ひてんの刀も形無しの、アリアが持つ大鎌の切れ味は、甲冑を空に浮かぶ雲でも斬るかのように、するりと抜ける。

 残り一人。

 運が良いのか悪いのか、その男は最後まで生き残った。

 アリアは口を開いた。

「お前を殺しても、ヒテンから追手が差し向けられるのか?」

 男は答えた、アリアという強者への賛辞として。

「必ず…来る」

「お前を生かせばどうだ?」

「変わらない」

「――――そうか」

 もう何も言い残すことはない――お互いに。

 両者、地を蹴り前へと進む。

 振りかざし、振り抜くお互いのやいばは、交わることなくアリアを勝者へ。

 決着の時。


 アリアは大鎌の形状をつるぎに戻し、静かに息を吐いた。

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