第四章 【エピソード 1 出会い】

 佳奈との出会いは、高校時代の友人たちとの会食の席だった……



 2016年10月23日 午後7時

 ダイニングバー FIRST

 津島陸つしまりく

 

 今日は高校時代の友人と久しぶりの飲み会だ。東京の大学に行っている、田上颯たがみそうが実家の用事で帰省するので、地元の大学に行っている戸田晴人とだはるとと俺の三人で食事でも、という話しになった。

 俺はというと、現在入隊して三年目の陸上自衛官だ。

 他の二人のように大学に進学する道もあったが……幼い頃、病気で母を亡くした俺は父と父方の祖母に育てられた。しかし中学生のとき父が再婚、反抗期だった俺は祖母の元に残りそれ以来、祖母と二人で暮らしていた。

 大好きな祖母に少しでも早く、第二の人生を楽しんでもらいたかった俺は自立するべく自衛官を志願した。

 元々、体力には自信があり、勉強よりも身体を動かす方が性に合うのも理由のひとつだが。

 

 「それにしても、晴人のヤツ遅いな。約束の時間、もう10分も遅れてる」

 

 颯がぼやいている……几帳面な颯らしい。

 

 「まぁまだ10分だし、あと5分待って来なかったら先に始めよう」

 「そうだな!」

 

 「お待たせ〜」

 「おい、遅いぞ!」

 「おう、久しぶり!」

 

 晴人と誰?女の子二人が一緒だ……

 

 「晴人、その子たちは?」

 「あーこっちが俺の彼女の冬華ふゆかそれでこちらが冬華の友達の佳奈かなちゃん、男ばっかで飲むのも寂しいだろうから来てもらった」

 「おーいいね!一緒に飲も!」

 「あっはい!こんばんは。初めまして、冬華です」

 「こんばんは、佳奈です」

 

 その後、散々飲み食いし盛り上がり、22時に颯が明日、実家で朝早くから用事があるからということで、お開きとなった。

 俺も寮の門限があるので帰ることにした。晴人と冬華は2軒目に行くという。

 

 「じゃ俺急ぐしここで!また連絡するよ!」

 「またな!」

 「また!」

 

 バタバタと颯が帰り、晴人たちも手を振って立ち去り、なんとなく佳奈と二人取り残された。

 

 「佳奈ちゃん、帰りはどっち方面?」

 「あっこっちです」

 「徒歩?」

 「はい!」

 「じゃ送って行くよ」

 「えっ悪いし……大丈夫です」

 「一人だと危ないから。行こ」

 「……はい」

 

 佳奈の第一印象は『あまり話さない大人しい女の子。酒も飲んでなかったし少し年下かなぁ』という程度だった。

 冬華ちゃんと同じ大学ということは、俺たちは20歳だから少なくとも18歳以上な筈だが。

 

 「佳奈ちゃんは何歳なの?」

 「20歳です。津島さんと同じ歳ですよ」

 「そうなの?年下かと思った!」

 「よく年下に見られるんです。背が低いからかなぁ?」

 

 そういえば、小さいな。俺が178cmだから155cmくらいかな?

 

 「何センチ?」

 「156cmです。津島さんは大きいですよね」

 「そうかな?」

 「そうですよ」

 

 その後はなんとなくお互い無言で歩いた。その静けさが不思議と苦痛ではなく自然な感じだった。

 別れ際、なんとなく連絡先を交換した。その時はお互い連絡することあるかなぁ?程度にしか考えてなかったと思う。




 2016年11月28日 午前11時

 大型書店 T

 津島陸

 

 俺の休日の過ごし方は読書、映画鑑賞、筋トレのうちどれかだ。20歳の男の休日にしては何とも味気ないと自分でも思う。

 今日は映画鑑賞のため外出した。お目当ての映画までには少し時間があるので、本屋を覗くことにした。

 

 「津島さん?」

 「……佳奈ちゃん?」

 「わぁ偶然ですね。その作家さん好きなんですか?」

 

 面白そうだなっと手に取ったミステリー小説を指して佳奈ちゃんが聞いてきた。

 

 「いや、読んだこと無いんだけど、面白そうだなっと思って」

 「絶対、読んだ方がいいですよ!すごく面白いんで!私、大好きなんです。その人の本、全部持ってるんで貸しますよ!」

 「へー意外だな、佳奈ちゃんがミステリー好きなんて」

 「私、ミステリーとかホラーが大好きなんです!」

 「ますます意外!ホラーも好きなんだ!」

 「はい!私、今日はこれとこれ買おうと思って!」

 

 と差し出した本は俺の全然知らない海外のミステリー小説だった。

 

 「へー面白い?」

 「はい!すっごく!」

 「俺も読んでみようかな……」

 「是非!よかったら今から私の家に取りに来てください!たくさんあるんで!お貸しします!」

 「んーじゃお言葉に甘えて、突然いいの?」

 「大丈夫です!狭くて汚い部屋ですけど、びっくりしないでくださいね」

 「うん。ありがとう」

 

 映画鑑賞は今度でいいや。好きな小説の話しを夢中でする、佳奈ちゃん見てみたいし。それにしてもこの子こんなに可愛いかったかな?目も普通だし鼻は小さくて低め、口も普通……これといった特徴はないのに……可愛い……バランスが丁度いいんだ!派手さはないけど整ってるんだ、気づいたとたんちょっと緊張するな……




 2016年12月24日 午後6時

 大型書店 T 前

 津島陸

 

 今日、俺は佳奈に交際を申し込む!この本屋で出会って以来、俺と佳奈はミステリー好きという共通点を見つけ、お互い好きな小説を貸し借りし、感想を伝え合う極めて健全な関係を築いている。

 その関係から一歩踏み出すのだ!

 今夜はクリスマス・イブ。この夜に会ってくれるということは脈アリだと考えていいのでは?!とはいえ緊張する……

 クリスマスプレゼントには佳奈に似合いそうなアクアマリンと小さなダイヤが付いた華奢なネックレスにした。喜んでくれるだろうか……

 

 佳奈が来た!




 2018年2月23日 午後8時

 ダイニングバー FIRST

 津島陸

 

 佳奈の卒業が近い。付き合って一年余り…楽しい月日は経つのが早い。

 再来月から佳奈もいよいよ社会人だ。

 

 「そろそろ卒業だね。おめでとう」

 「うん……ありがとう。でも不安だな……」

 「うん……大丈夫だよ。仕事、辛くなったらいつでも辞めて俺の嫁さんになればいいさ」

 「うん!そうする!けど頑張るね」

 「あんまり頑張りすぎるなよ」

 「はい!」

 

 佳奈はその大人しい性格のせいか、就活が上手く行かず、かなり苦労した。最近になってようやく決まった就職先は、評判の悪い人材派遣会社。ここにしか採用が決まらず不安を抱えながらこの会社に就職することに決めた。俺は無理して就職しなくてもいいと思うのだが……本人が『一度は社会の一員としてどうしても働きたい』というので見守ることにした。

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