第三章 【エピソード 2 さらに狂った日常】
2021年2月6日 午前8時
MEハイツ 304号室
千房海人
やっぱりデブでブスだなぁ……こうして眠ってる顔見てると、つくづく感じるな…
「…ん?あっおはよう…何見てるの?やだぁあんまり見ないでよもぉー」
「ああ…おはよ」
「今日はどうする?映画でも見に行く?」
外、一緒に歩くのキツいな……こんなのと付き合う男がいるんだ!って視線を感じまくるもんな。
「そうだな…松木のこともあるし…今日は家でゆっくりビデオでも見ようよ」
「そうね…じゃあレンタルで貸りてこようか?あと何か作るから食料品も買いたいし」
「……一緒に出かけるのは不味いな…俺が一人で行くよ。留守番してて」
「えー!一緒に行きたいな」
「万一、松木がこっちに帰ってたら危ないだろ」
「そうね…土日はこっちに帰ってるかもね。そうだ電話は?」
「昨日は……200回以上かけてきてるな……今日は今んとこ10回か」
「そろそろ着信拒否したら?」
「そうだな…いくら無視しても諦めそうにないしな…………ピッピッ…ピッ ほい!着信拒否完了!」
「着信拒否されたと知ったら余計に何してくるかわからないから気をつけてね」
「はいはい」
2021年2月8日 午前10時
紫花女学院高等学校 図書室
水田恭子
辛い……なんでこんなことになったん?
松木さん、一応、毎日出勤してくるけど全く何もせんとずっと電話してるし…かと思ったら変な声出して地団駄踏んで暴れてる……
ずっと居るから内職のシール貼りも出来ひんし……ボーと窓の外見てると思ったら急に『お前のせいだ!お前のせいだ!お前のせいだ!……』て怖かった……たまたま先生が図書室、覗いてくれたから助かったけど……殺されるかと思った。先生も入ってすぐ変な顔して出て行ったし、なんか感じたんやろな。
「水田さん、私ちょっと外出します」
「あっ松木さん。はい……」
どこ行ったんやろ?まぁええわ、今のうちに内職や!急ご!
ガラガラ
事務員さん来た……またなんか怒られる?!
「失礼します。水田さん……なに?この匂い!」
「へっ?なんか匂いします?」
「すっごい臭い!卵の腐ったみたいな?腐敗臭?腐乱臭?とにかく窓開けて!これじゃ話しも出来ないわ」
「…はい!」
「……ちょっとマシになったかな?うん…大丈夫そう。松木さんは?」
「少し外出してます」
「そう……ところで水田さん、この図書室見てどう思う?」
「……少し乱れてるかな?」
「少しじゃ無いでしょ!最近、先生や生徒の利用はあるの?」
「……ほとんどありません……」
「そうでしょうね。これだけ汚くて臭い図書室に誰が来るの?先生や生徒から苦情が出てます。今すぐ元の綺麗な図書室に戻して下さい。あと新しい本が全く見当たらないと聞いたのですが?購入はしてますよね?」
「……」
売ってるし……
「とにかく新しい本もすぐに出して下さい!あとこの時期なんで寒いとは思いますが、あなたと松木さんしか居ないときは窓、閉めないで、開けっ放しにしておいて下さい。臭くてたまりませんから」
「……はい……」
風邪ひくやん……
もう、嫌や、そやけどそんな臭いんかな?そういえば家でも……子供に……
「お母さん、お風呂入った?」
「うん。入ったよ。なんで?」
「なんか臭い〜お母さんから匂いするかな?って思ったんやけど…」
「えーおかしいな?!」
「もう1回入ったら?」
「面倒やしええわ」
「臭いのに〜」
て言ってたな。身体に染み付いてるんかな?鼻もバカになってるみたいやし……最悪や……
2021年2月8日 午後1時30分
高梨自宅マンション前
松木琴子
いても立ってもいられなくて来てしまった……先週の土曜の夕方から日曜の夕方まで千房課長のアパート前で張り込んだけど……千房課長には会えなかった。
今の時間だと勤務中だし、本社に行けば会えるだろうけど…なんで此処にいるんだって怒られるだろうし…なんとなく高梨部長に話し聞いて欲しくて来てしまったけど、部長も勤務中だし会えないよね。千房課長だけじゃなく高梨部長も最近電話に出てくれないから…会社の状況もわからないし…なんか疎外感……
こうしてても仕方ないし、ランチでも食べて夕方また来よう。高梨部長が帰ってくるまで車で寝て待つとするか。
あれ?マンションから出て来た女……あのスナックの女だ!なんで?
あっタクシー乗り込む…なんで?とにかく後をつけるか!
止まった。すぐ後ろに止まるのは不味いなぁ…追い抜いて少し離れたところで見はろうかな。
此処って確か《堀田佳奈》が住んでたアパートの近くだよね?
ここら辺で……うん、見える見える…
タクシー待たしたままで堀田のアパートに行く…歩くの遅いなぁ〜ヨタヨタしてる〜ぷぷっ
アパート入った!鍵持ってるの?
出て来ないな〜お腹空いた〜もう40分も経ってるよ……
やっと出て来た!なんだ?嬉しそうにニヤニヤしてる!怪しい。怪しすぎる!そもそもなんで高梨部長の自宅があるマンションから出て来たの?
これは何かあるな!よし!再び尾行開始〜
……次は銀行か……思い切って中入るか……
いい感じに混んでる。これならバレないだろう……
「189番のお客様〜」
あっ立った!何とか声聞こえるとこまで近寄れないかな?……隣りのブース空いてる!間違えた振りして座っちゃお!
『えーと《堀田佳奈》様で、お間違えないですか?』
『はい』
『本日は当行で口座開設いただきありがとうございます。…………』
「あのお客様、すみません。どうされました?」
「あっあーあれ?あっここ待合の席じゃないんですねぇ〜すみません〜」
ドスドスドスドス……
どういうこと?なんであの女が《堀田佳奈》なの???
本人に聞こ!
2021年2月8日 午後2時50分
ME銀行 駐車場
葵
上手く行った!無事、個人番号通知カードも手に入ったし、口座もつくれた!あとは……
「ねぇ葵さ〜ん。どうしてあなたが《堀田佳奈》なのぉ?」
えっ?誰?
振り返るとそこにいたのは……
「ひっ!!松木!ぎゃーーー」
「ちょちょっと、シーシー何もしないから、静かに!」
「きゃぁぁぁーーー」
ザワザワ……
「……くそっ」
ドスドスドスドス……
バタンッブルルル……キッキッー
行った……ほっ……
「お客様、大丈夫ですか?どうされました?」
「あっ……大丈夫です…すみません、お騒がせしました……」
「…そうですか?少し休まれますか?」
「いえ、もう大丈夫です。行かないと…ありがとうございます」
「はい……お気をつけて」
松木がなんで?何処の時点から見られた?不味い……
とりあえず、そこのファミレスでゆっくり考えよう。タクシーは帰そう。
「すみません。運転手さん、少し用が出来たので、ここまでで結構です。おいくらですか?」
2021年2月8日 午後3時
ファミリーレストラン
葵
落ち着かないと!考えないと、ここで失敗する訳には行かない!
サンドイッチとコーヒーでいいか。フリードリンクにしてここでじっくり考えよ。
「お決まりですか?」
「サンドイッチとフリードリンクを」
「はい。かしこまりました」
松木は今、隣県に行っていると高梨は言ってたけど…2時間ほどの距離だし頻繁に帰ってきてると思った方が良さそう。
松木はどの時点から見てたんだろ?最悪…高梨のマンションから見られたと思った方がいいのかな……
「お待たせしました。サンドイッチです。ドリンクはあちらから自由にお取りください」
「はい。ありがとう」
松木は、人を殺すほど千房に執着してる。事実、《堀田佳奈》は殺されてるし、私も高梨が助けに来てくれなかったら、おそらく殺されていた…
その千房は、というと……高梨母が言っていた『ようやく出来た彼氏』というのは、千房のよう…高梨は、はっきり言わないが、おそらく間違いない。
これを利用出来ないかな?松木と高梨…双方が千房を挟んで敵対し、監視し合えば、その間に私は《堀田佳奈》になる準備を進め、こっそりと姿を消すことができるかも。
まずは、高梨に連絡して松木が来ていることを伝える……そして松木がこのまま私のことを放っておくとも思えないから…松木と次、出くわしたら高梨と千房のことを匂わし、高梨に意識を向けさす。理想的なのは2人とも、しばらく隣県に行ってもらうこと。多分3月末で契約、打ち切られるって高梨が言ってた取り引き先だろうから、私は3月下旬には日本から姿を消すのが目標で計画を進める。急がないと…
2021年2月8日 午後5時
高梨自宅マンション前
松木琴子
遅いな〜待ちくたびれた〜
あの女、ここには帰って来ないのかなぁ?どうしよぉ……
えっ来た!来た、来た、来たーー
「ちょっと!」
「あっ……」
「もう逃がさんけんね!あんた、なんでこのマンションに出入りしよっと?!」
「……方言?」
「あっ……どうしてぇ高梨部長のマンションにぃ出入りしてるのかなぁて思ってぇ」
「実は……最近、高梨さんにお世話になってて……お返しに何かできることないか聞いたら《堀田佳奈》さんの振りして少し行動するよう頼まれて……」
「なんで?《堀田佳奈》の振り?」
「《堀田佳奈》さん急に居なくなったんですよね?それに高梨さんと松木さんが、関わってるとか…《堀田佳奈》さんが元気に行動しているような痕跡を残せば警察に捜査されることも無いだろうからと……」
「なるほど〜部長さっすが〜琴子のために考えてる〜」
「…………」
「それは、納得ぅ。けどなんで高梨部長の家に住んでるの?」
「……私、腕と脚に大怪我して……知ってますよね?」
「えーそうなんだぁ可哀想ー知らなかったけどぉ」
「…………とにかく怪我が治るまで不自由なんで、高梨さんのお母さんが身の回りの世話をしてくれているんです。それに……」
「それに何?」
「最近、高梨さんあまり家に帰って来ないんで、お母さんが寂しいから話し相手が欲しいって……」
「?帰って来ないって?」
「彼氏が出来たみたいで……」
「へっ?そんなことある訳ないしぃ冗談きついぃー」
「ほんとなんです。千房さんと付き合ってるようで……」
「はぁ?あんた馬鹿じゃないの??千房課長は私の彼氏なんだよ!ウシブタと付き合うわけ無いだろうがーー」
「大きな声出さないで下さい……そうだったんですね。ごめんなさい……でしたら高梨さん、勘違いしちゃってるのかな?千房さん優しいから」
「ムキー!ウシブタ殺す!」
「殺しちゃダメですよ!しばらく一緒に行動して高梨さんのこと見張ってたらどうですか?」
「……見張るって言っても、私、今隣県に出張させられてて……あっ!だからか!千房課長と私を引き離すため!ウシブタ…許せん…」
「なんとか、高梨さんも隣県に連れて行けないですか?そしたら、折を見て、千房さんに私から松木さんと仲良くするよう説得できると思うんですけど……」
なるほど〜ついでにウシブタの悪口も吹き込んでくれるとより良い結果がでるかもぉ。でもこの女なんで私の味方するの?
「なんか怪しいなぁなんで私の味方なのぉ?何か企んでるんじゃないの?」
「信じられないなら別にいいですよ。私はただ本当に好きな人同士が結婚して幸せになって欲しいなぁと思ってるだけですから、松木さんに協力する義理はありません」
ふむふむ、この女なかなかわかってるじゃない!
「なるほどぉそういうことなら千房課長の説得頼もうかなぁ、高梨の方は任せてぇ!」
「では一応、連絡先交換しましょう。何かあれば連絡しますね」
「うん!よろしくぅ」
よし!ウシブタを隣県に連れて行くゾ!嫌がっても無理矢理連れて行くもんっうふっ
図書室 2
暗い……寒い……
会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい……
早く会いにきて……ここから出して……
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