第二章 【エピソード3 狂気の犠牲】
2021年1月5日 午前1時
丸抜小学校 廃校跡地
高梨美佳
「……長…高梨部長…高梨部長…いい加減起きて下さいぃ」
「……ごめん、私…寝てた…?」
「プッ高梨部長ぉ〜寝ぼけてる〜アレ見た瞬間倒れたんですよぉ部長の癖にぃ女子みたいにぃアハハ」
「……なに?」
「アレアレ〜」
松木が指さす先には……堀田さんの変わり果てた姿が…ある……
「…ヒッ…あれは?堀田さん?死んでる?!」
「アハハ、高梨部長ぉ死んでますよぉあれで生きてたら、怖すぎぃアハハ」
「……なんで?」
「なんで?って…なんでだろ?最初は少し痛い思いさせたら私と千房課長を別れさそうとしたこと正直に言うかなぁと思って、あの女と同じように腕と脚を鉄パイプで殴ったんですよぉ…けど強情で…泣きわめくばっかりで全然認めないから背中やお腹をめちゃくちゃに殴ったら『やめてやめて、言うから…ほんとのこと…』って、やっと言う気になったかと思って証拠残さなきゃって『ちょっと待って!録音するから』って録音したのがこれです」
そう言うと松木は自分のスマホを取り出し操作し始めた。
「再生しますよぉ」
《『私…堀田佳奈は会社の同僚、松木琴子さんに殺されます。ありもしない疑惑をかけられ…彼女は狂っています…どうか命を諦めること許してください…』
『ちょっと何言ってんの!違うでしょ!』
『陸(婚約者)結婚したかった…お父さん、お母さん、これまでたくさん愛してくれて、ありがとう…』
『黙れ!黙れ!黙れーー』
グシャ…カン…グシャグシャ…カンカン…ゴツ……(肉と骨?と床を硬いもので殴る音)
『はぁはぁはぁはぁはぁ……ちょっと…もう一回やり直し!ちょっと…あれ?』………………………………………………プッ》
「こんな感じですぅアハッ殺っちゃいましたテヘッ」
「そんな……堀田さん……」
私は思わず堀田さんの遺体に駆け寄った。
力一杯顔面を強打されたのであろう、可愛らしい顔は無惨に、徹底的に破壊されていた。鼻は陥没し跡形もなく、片方の眼球はこぼれ落ちていた。頭頂部は砕かれた白い骨と、薄い黄色と黒に近い赤(脳だろうか?)が髪のあいだから覗いている。
手足は妙な具合に曲がり、何故か左腕が付け根から取れかかっている。
私は吐き気を堪えながら、少し泣いた。
「高梨部長ぉ〜いつまでボーとしてるんですか!早く作業しないと、さすがにこの季節でも臭いが大変なことになっちゃいますよ!」
「え?作業って?」
「だからぁ解体ですよぉ〜このサイズだと捨てるの大変でしょ!小さくしていろんなところに捨てるんですよ。トイレに流すとかぁねっ!死んだのバレるとやばいでしょ」
視覚から入ってくる情報が、あまりにショック過ぎて臭いを感じなかったけど…確かにすごい臭い…あっ吐く!
ゥッゲェ………………
「何してんですか〜もぉ汚いなぁ」
「…………はぁはぁ……」
「もたもたしてるから、もう1時40分ですよ!早くしないと!はいコレ!」
「……?レインコート?」
「早くそれ着て作業初めて下さい。道具は一通りそこにあるんで。やり方はネットで調べて下さい。牛とか豚とやり方は同じだと思うんで。私は左腕少し頑張ってみたけど、今日は疲れたんで休みますから。明日の夜また続きします。高梨部長は朝までに出来るとこまで頑張って下さい!」
「……どうして?私が?……警察呼ぶよ……」
「そんなことしたら会社潰れますよぉいいんですか?命より大事な職場でしょ私が捕まっても堀田さんは帰って来ないんだし」
……堀田さん……ごめんなさい……松木の言う通り……私…会社守りたい……私も狂ってる?……
「わかった。やるよ……」
2021年1月5日 午前8時
高梨家
高梨美佳
ザー…………
いくら洗っても臭い取れない…気の所為かな?
キュッ
疲れた…寝たい…何も考えられない…
「美佳〜朝ごはんできてるよ〜」
「はーい」
あーお味噌汁のいい匂い…
やっぱり、葵ちゃんのお世話、お母さんに頼も。せめてお母さんの作る美味しいご飯食べて早く回復してもらおう。
「いただきます。ズズー、美味しい…」
「どうしたの?いつもと同じワカメのお味噌汁に感動したみたいに。ふふ嬉しいけど」
「お母さん…頼みがあるの…」
「なに?」
「知り合いの女の子で…両腕両足骨折した子がいるの。その子まだ17歳なんだけど、親に……虐待されてて…今は家でて1人暮ししてるの、それで両腕使えなくて不便だから私がお世話することになったの。歩けないし買い物とかも無理だし。けど私、料理出来ないし気も効かないからお母さんに頼めないかなと思って、会社も急に1人辞めてバタバタしてて時間も取れそうにないし。お願い!」
「うん!いいよ」
「ありがとう!じゃ今日早速行ける?昨日忙しくて行けなかったから、一応、水とお茶あとパンをたくさん差し入れといたからお腹は空いてないと思うけど」
「わかった。美味しいご飯作って持っていくね」
「ありがとう!よろしくお願い。後で鍵渡すね。うち出てすぐ右にあるウィークリーマンションの101号室だから」
「あらっ近いのね。それなら頻繁に行けるわ」
「ご馳走さま。じゃよろしくね」
バタンッ
これで葵ちゃんのことは一安心っと、今日は会社で堀田さんの業務の整理をして…そうだ!堀田さんのバッグ、処分するように松木に言われてたんだ…とりあえず中身出して…スマホは壊してと、松木が昨日まで堀田さんの彼氏とやり取りしてるって言ってたな。一応チェックしとくか。パスワードは…
しかし…堀田さんからパスワード聞き出して自分の名前に変更してるなんて…ほんと狂ってる。怖い……
メールでやり取りしてる…SNSアプリだと場所が特定されるかもしれないから削除してる…抜け目ないわ。
えっと…松木からは『私、実は結婚していいのか悩んでいます。こんな醜い私が幸せになっていいのか。しばらく一人で旅に出て考えたいの…そっとしておいて下さい』
彼氏はとにかく会って話したいと…そりゃそうだろ。
同じときに会社にもメールしてる……
昨日(2021年1月4日)のメールは…『仕事を早いめに辞めました。もうしばらく一人で考えたいのです。私のことは忘れて下さい』
唐突だわ。そりゃ彼氏、納得できないわ。この調子だと彼氏も何かおかしいと気づいてるから、昨日のうちに捜索願出してるかも…いい大人だからすぐに捜査されることは無いと思うけど、早く壊した方が良さそう。金槌で叩いて水没させれば大丈夫かな?
他のものは…あっ保険証!これ葵ちゃんに使える!堀田さん、ごめん貸りるね。
2021年1月5日 午前9時
人材派遣会社ビブリオ 本社
高梨美佳
はぁ……眠い…
「あっ高梨部長、おはようございます。昨日、堀田さんのご両親から連絡あって、婚約者とも相談して警察に捜索願を出したそうです」
やっぱり…
「早藤さん、おはよう。じゃこの件は警察に任せておきましょう」
「…そうですか…けど、おかしいんですよ。年内最後の日に退社してから自宅アパートにも帰らず失踪したみたいなんです。婚約者の方は昨日の午前中に来たメールを最後に連絡が取れなくなったらしく、それまではメールでやり取りしてたと仰ってて、でも電話は何度かけても繋がらないらしいんですよ。おかしく無いですか?メールなら誰でも送れるし…自分の意志では無く誰かに連れ去られたんじゃないかと婚約者の方は考えているみたいで…私も同じ意見です。警察はメールで昨日までやり取りしてたこともあって事件性があるか、まだわからないからと、あまり積極的に捜査される雰囲気じゃないらしいし、私たちも最後に誰と居たか、誰と話したか、みんなに聞いた方がいいかと思うのですが…」
これ以上、首を突っ込むと早藤さんまで危ないのは間違いない!
「そうね!じゃ警察が情報提供求めてきたら個人個人で知ってる事実を話すことにしましょう。その前に私たち素人が捜査の真似事して警察の邪魔になっても良くないと思うし、もし本当に堀田さんが連れ去られたなら早藤さんにまで危険が及ぶ可能性があるでしょ。ここは大人しく静観しましょう」
「そうですか…わかりました。ところで松木さん、まだ出社されてないようなんですが」
「あー松木は今日休み。さっき連絡あったわ」
「……休みですか、堀田さん辞めて大変なのに…まぁ居ても役に立たないからいいですけど…じゃ仕事します」
「…はい。お願いします…」
松木は居ても居なくても空気悪くするな。
今日は休んで作業の続きするって言ってたけど…ちゃんとしてるのかな?
仕事終わったら私もすぐに続きしなきゃ…こんなこと…早く終わらせたい…
明日は葵ちゃん、病院に連れていきたいし今日のうちに出来るだけ仕事進めておかないと、頑張ろ。
2021年1月5日 午前11時
丸抜小学校 廃校跡地
松木琴子
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……
ゴトン
ふぅやっと取れた!頭!
疲れたな〜お腹も空いた〜
しかし…堀田チビだから余裕で解体できると思ってたけど、以外と大変、チビでガリの癖に!
お腹も空いたし眠いし、一旦家帰ってなんか食べて、寝て、また夜出直すか。持ってきた包丁もノコギリも既に使い物にならないし。
ウシブタ部長に新しいやつ買ってくるようメールしとこ。ミキサーもいるな。
じゃ帰ろ!
2021年1月5日 午後7時
丸抜小学校 廃校跡地
高梨美佳
「松木〜いる?包丁とノコギリいろんな店回って買ってきたよ」
あれ?いない?!
堀田さん、頭部外したんだ…
もっと早く来るつもりだったのに、遅くなったな。包丁5本、ノコギリ3本、ミキサー2台、同じ店で2つ以上は買うなって言うから、何軒も回って買ってたら……
それなのに自分はいないってどういうこと?腹立つ…
はぁ……松木に怒るだけ体力の無駄だし始めよ。
ドスドスドスドス……
「高梨部長〜進んでますかぁ?」
「遅い!もう8時よ、早くしないと」
「はいはい、やりますよぉ」
「まったく」
ゴリゴリゴリゴリゴリ……
ガリガリガリガリガリ……
「あ〜疲れた〜もぉ無理〜」
「なに言ってんの!休んでる暇ないよ!」
「高梨部長ぉすごいですね〜全然寝てないんでしょぉさすがぁ」
「めちゃくちゃ眠いよ…だから早く進めて帰って寝たいの!」
「なるほどぉ〜頑張って下さい!」
「……ところで松木。堀田さん死んだのっていつ?」
「30日ですよ、年内最後の勤務日の深夜!」
「それにしては腐敗進んでなかったけど?あんた5日間も放置してたんでしょ?」
「あーそれね!私もちょっと心配だったんですけど、夜は0度くらいまで気温下がるからいいとして昼間は少し上がるかなぁて。それで念の為ドライアイスをネットで購入して、10キロも重かったですぅ。それを死体の周りとか上にばらまいてアルミのシートで覆っておいたんですぅうふっ。その後は実家に帰ったんで放置しときましたぁ4日の夕方来たときは少し臭いがしましたけど、耐えられないほどじゃなくてよかったですぅ」
「……誰か来たらどうするつもりだったの?」
「えー来ませんよ〜実際来てないから今があるんだし!高梨部長、心配性ですねぇ」
「…あんた悪運だけでここまで来たのね…」
「うふっありがとうございますぅ」
その悪運もいつまで続くことか…とにかく急がないと…
「あっ高梨部長〜私、会社しばらく休みますねぇ今週一杯くらい!」
「へ?なんで?」
「だってぇ〜行っても千房課長いないしぃつまんないもん」
「…わかった…」
「よろしくお願いしますぅうふっ」
「……早くしよ……」
どぉでもいいけど……疲れた……
2021年1月6日 午前8時50分
紫花女学院高等学校
水田恭子
今日から仕事始まるわ。憂鬱やわ…
正月休みもお金無いから質素で暗かったし…そやのに今朝になって息子がまた野球の道具買うお金くれ言うし…万年補欠なんやし野球部なんか早よ辞めたらいいのに…
ガラガラ
あっ事務員さんや。
「おはようございます」
「水田さんおはようございます。早速なんですが、書店さんから請求書です」
「はい…」
受け取ったけど…これどうすんの?
「じゃいつも通り処理お願いしますね」
「はい…わかりました」
「ではよろしくお願いします」
何すんの?知らんねんけど…松木さんに電話しよ…
「ビブリオ本社、永峰です」
「あっ紫花女学院高等学校の水田です。松木さんお願いします」
「少々お待ち下さい」
「すみません。松木は今週一杯休みなのですが」
「えっ…事務員さんから請求書の処理をするよう言われたんですけど…やり方がわからなくて…教えて貰いたいんですけど…」
「…そちらの学校の担当は松木ですので…今はわかる者が居ないのですが…」
「えー困ります!」
「…と言われても…少々お待ち下さい…」
どういうこと?今週一杯休みって!学校から怒られんの私やん!そんなん知らんし!
「もしもし、高梨です」
「あっ水田です。あの〜書店さんの請求書の処理なんですけど…」
「それでしたら、前任者がやってた控えがファイリングされてますので、それと同じようにしてもらったらいいかと思います」
「…ファイルはあるんですが…見ても良くわからなくて…」
「いや、こちらからはどうしようもないので、そちらで何とかしてもらわないと…松木から指導があったと思うのですが?」
「それが…1度そんな風なことは教えてもらったんですが、松木さんも良くわかられてない感じで…あやふやな感じで終わったんで…わからないです…出来ません…」
「…出来ないでは困ります。今までの人は全て自力で解決されていたので水田さんにもしてもらわないと、とにかくこちらもバタバタしていて…どうしようもないので、そちらで何とかしてください」
「えー!!」
ガチャプープープー……
そんな……どうしよ……
ファイル、睨みつけてるうちに5時になってしもた…今日一日、なんも出来てへん。もう帰る時間やけど、事務室に鍵返しに行ったら事務員さんに会うし、なんか言われるかなぁどうしよ…こっそり行くしかないな。
《事務室》
そろーりそろーり
カチャ
わっいきなり会ってしもた!
「わわっお疲れ様です」
「お疲れ様です。請求書できました?」
「…それが…まだなんです…」
「えー困ります〜明日には必ず提出してくださいね」
「…はい」
「あっあと今月、監査もあるんで監査の資料もお願いします!そうそう、書店さんが今月の本の購入リスト早く貰いたいと伝言頼まれました。早く渡してあげて下さいね。あっそれと…」
まだあんの?!
「教頭先生が今月の図書便りまだか?って怒ってましたよ。しっかりしてくださいね。お宅は業者だから、きちんと出来ないとすぐに切られますよ」
「…はい」
ほんま…どうしよ…
2021年1月6日 午前9時30分
人材派遣会社ビブリオ 本社
高梨美佳
「じゃあ私は母を病院に連れて行かないといけないから早退するから、何かあったら連絡して」
「はい。また紫花女学院高等学校の水田さんから電話あったらどうします?」
「自分で何とかするように言って。ごちゃごちゃ言ってきたら明日また連絡するからって伝えといて」
「はい。わかりました」
2021年1月6日 午前10時30分
IS整形外科医院
どこから保険証手に入れてきたんだろ?聞いても教えてくれないし。なんか気持ち悪いなぁ助けてくれたのは感謝するけど…この人も信用出来ない。親切ぶってるけど、あの廃校だってこの人(高梨)の母校らしいし…今は手足が動かないから世話になってるけど…胡散臭い…
でも…あの松木には私と同じような痛い目見せてやる!絶対!それまで高梨を利用する…
「先生、どうですか?元通りに治りますか?」
「レントゲン見ましたが、何ヶ所か折れてます…どうされました?」
「…会社の階段から落ちてしまいまして」
「…そうですか…」
お医者さん、信じてないなぁ。それにしても高梨、質問に全部答えるなぁ、母親気取りかよ!キモッ
「酷い骨折ではありますが、最初の処置がよかったので、無理しなければ元通りになると思います。かなり不便になりますがギブスで固定しましょう。今のままでもある程度固定出来ていますが、やはりまったく動かさないことが大事ですので。大丈夫ですか?」
「はい。私の母が面倒を見ますので大丈夫です。早く完全に治したいので不便なのは我慢します」
私に向けて「ねっ」と言うのでうなづいたが…どれくらい動かせないの?期間は?
「あの…先生…」
「はい。堀田さん、なんでも聞いて下さいよ。」
堀田さん?
「はい。あの手首は動かせますか?あと何日くらい固定したままですか?」
「あー大丈夫。手首は無傷なんで動くようにしますね。ギブス外れるのは1ヶ月後くらいかなぁ。車椅子を貸出ますね」
「はい。よろしくお願いします」
あと1ヶ月か……これからのことゆっくり考えるには十分……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます