第二章 【エピソード1 身勝手な人間】

 2021年1月3日 午後8時

 高梨家

 高梨美佳たかなしみか

 

 休み…終わるな…バタバタしてたから、休んだ気がしないなぁ

 

 「…佳……美佳!」

 「あっナニ、お母さん?」

 「さっきからずっと呼んでるのに、何ボーとしてるの?お箸も全然すすんで無いし…味変だった?」

 「ううん、美味しいよ。ごめん、ちょっと疲れてて…」

 「休み中も毎日出かけてたものね。何処行ってたの?もしかして…彼氏できた?!」

 「……できるわけない……こんなにブスでデブ……誰が相手にするのよ……それに私…今年40よ……お母さんいい加減、現実見てよ」

 「……そんな……」

 「ご馳走様でした。疲れたからもう休むね。おやすみなさい」

 「……おやすみ……」

 

 バタン

 

 またお母さんにきつく当たってしまった…

 

 わたしは両親に対する恨む気持ちがどうしても消せない。普段は意識の奥の方に静かに居座っている気持ちが、さっきのような話の流れになると一気に表面に浮上してくる。

 

 わたしは、ごく普通の会社員の父と専業主婦の母の元に生まれた。それ自体は普通なのだが…

 

 父は優しく物静かな人だったが悪く言えば、とても陰気だった。おそらくその見た目が性格に影響を与えたのではと密かに思っている。父の肌は色黒でグレーに近い色をしていた。体型は全体的に小柄で痩せていた、しかし顔は大きく、小さい目に大きな鷲鼻、薄い唇となんともバランスの悪い風貌をしていた。小さな子どもに何もしていないのに泣きだされることも度々あったようだ。

 母は大人しく家庭的と言えば聞こえがいいが、社会で働けるほど頭が良くなく、考えることも苦手で、ただひたすら親の言う通り、結婚してからは父の言う通りに生きてきた女だ。容姿は低身長でかなり太っている。しかし色白で目鼻口全て小さい顔は性格の大人しさも相まって可愛いと言えなくもない。

 私はと言うと、父の色黒で大きくバランスの悪い顔と、母の低身長で太った身体を受け継ぎ、両親をはるかに超える不細工な容姿として生きていくことを余儀なくされている。そして残念なことに性格も父似でとても陰気ときている。まぁこの見た目で明るく生きろと言われても無理な話しだが……とにかく私はこの容姿と性格のせいで小中高と親しい友達もましてや男友達などできるはずもなく、ひたすら目立たないよう教室の隅で小さくなり、やり過ごしてきた。両親を恨む気持ちが消せないのは、大人になった今も状況はさして良くならないからだ。

 

 しかし、そんな私にも大学3回生の頃に1度だけ恋愛経験のようなものが出来たことがある。が、今は相変わらず1人だ。

 

 父は3年前に病気で他界した。とはいえ高齢だったので思い残すことはなかったと思う。私はかなり晩婚の両親から生まれたので覚悟は出来ていた。

 倹約家だった父が少なからず貯えを残してくれたので、それまで家族で住んでいた古い借家を出て、母と2人で住むためのマンションを中古で購入した。それが今住んでいる2LDKのこの家だ。築10年の中古マンションで特に取り柄は無いが、職場から近いことと、そもそも田舎なので地価が安く、築10年の物件は破格の値段で、父の貯えプラス少しのローンで購入出来たので、とても気に入っている。母が亡くなっても1人でここで暮らすつもりだ。

 

 はぁ……ボーとしていたら、もう12時か…そろそろ寝ないと明日から仕事だ。

 

 明日は一旦本社に顔出して、松木の様子みてみないと…

 

 これ以上暴走されたら、こっちにまで火の粉が降りかかるのは間違いない…

 

 しかし…松木があそこまで狂ってるとは…予想外だった。




 2021年1月4日 午前8時50分

 人材派遣会社ビブリオ 東京支社

 千房海人

 

 「あけましておめでとうございます!皆さん本年もよろしくお願いします!我が社にとって今年は……であり、……社員一同……であります………………」

 

 楽しかった休みも終わり、仕事始まったなぁ……あぁ面倒だ〜もっと寝たい〜

 

 高梨部長は本社に寄ってから来るから夕方まで暇だな。ホテル帰って寝るか。

 

 それにしても、正月休みは拍子抜けだったな。ウシブタ部長の家に連れて行かれないようにと色々いい訳考えてたのに、体調悪いからって、すんなり自宅に帰ってそれっきりだったもんな。よかったけど…

 

 なんだろ…俺も今年43歳だし、そろそろ将来のこと考えて誰かに決めた方がいいのかな、いろんな女と遊ぶのも…段々疲れてきたな。松木は有り得ないけどな。田中も家庭があるから毎日は付き合ってくれないし、少し寂しいような…今夜にでもスナックホワイトの葵ちゃんに電話しよ。

 

 とりあえず、今は仕事も無いしホテル帰って寝て、ウシブタ部長が来るのを待つか。




 2021年1月4日 午前8時50分

 人材派遣会社ビブリオ 本社

 高梨美佳

 

 はぁ今年も始まった、挨拶苦手だし新年の挨拶、嫌だな……

 

 《女子更衣室》

 相変わらず古くて汚いなここ……

 

 コンコン……カチャ

 

 「おはようございます…あけましておめでとうございます…」

 

 「あっ高梨部長、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 「うん…よろしくお願いします。…」

 「永峰さん、みんなは?」

 「それが…堀田さんが…もう出勤しないとかで…みんな堀田さんが担当してた仕事の引き継ぎにてんやわんやで…私も今から堀田さんのロッカーの整理を…」

 「……どうして、そんな急に?堀田さん1月いっぱいで、寿退社するはずじゃ?」

 「なんかそれが…よく分からないんですが…メールでもう出勤せず有休を消化したいとか…?」

 「なにそれ?そんな有休残ってないと思うけど?」

 「…ですよね…早藤さんがご存知かもしれないので聞いてもらえますか?」

 「わかった」

 

 ドタドタドタ……

 

 「早藤さん、早藤さん」

 「高梨部長!おはようございます!部長大変なんです!」

 「永峰に聞いた!どうなってんの?」

 「それが…堀田さんが…急に辞めてしまって…」

 「連絡はいつあったの?」

 「実は、12月30日の深夜に会社にメールが届いていて…」

 「見せて」

 

 『人事担当者様 私、堀田佳奈ほったかなは2021年1月31日付けで退職する旨お伝えしていますが、自己都合により休み明けの1月4日以降、出勤することが出来ません。ついては1月4日から1月31日まで有給休暇で対応して頂きますよう、よろしくお願いします。 堀田佳奈』

 

 「……」

 「こんなのおかしいですよ!堀田さん…佳奈はこんな無責任なじゃありません!私は同期で、ずっと仲良かったんで1番わかっています!」

 「……そうね、堀田さん頑張ってくれてたのは、私もわかってる。連絡は取ってくれた?」

「はい。携帯電話に電話したのですが、電源が入って無くて。メールもしておきました」

「そう、ありがとう。とりあえず実家に電話してみて!緊急連絡先に記載してたから」

 「はい!」

 

 確かにおかしい……ひと月後に寿退社する人がこんな辞め方する筈ない…

 

 「松木さん、松木さんはどこ?」

 「さっきトイレに行きましたよ」

 「ありがとう」

 

 ドタドタドタ……

 

 「松木…居る?」

 「はぁい」

 

 「何してんの?」

 「えっ?!お腹すいたからパン食べてるんですよ」

 「トイレで?」

 「モグモグ、なんかおかしいですか?クチャクチャ」

 「うん!おかしい。ところで堀田さんのことは聞いた?」

 「クチャクチャ…はい聞きましたよ…ゴクッ…ふぅ美味しかった」

 「あのねぇ…トイレで食事て…気持ち悪くないの?」

 「どうしてですか?むしろ落ち着きますよ!私、高校のときお弁当いつもトイレで食べてたんで!えへっ」

 「そうなんだ……それより堀田さんのこと何か知らない?」

 「あ〜知りません。けどあの人いい加減だったしぃ、仕事も適当だったしぃ、こういうことしそうって感じぃですよねぇうふふっ」

 「え?堀田さん、真面目で責任感あったけど…」

 「もぉ高梨部長は騙されてたんですよぉうふっっ。もぉほっときましょっ。彼女の仕事くらい私がパパッと片付けますから!うふふ」

 「……」

 

 絶対無理!松木のフォローしてたの堀田さんだし……それに…松木の態度…妙にウキウキして…おかしい……まさか……



 「今からみんなに堀田さんの件、説明して、堀田さんの仕事の引き継ぎ、それぞれに割振るから松木も来て、10時には相談役が新年の挨拶に来るし急がないと」

 「はぁ〜い」

 

 ドタドタドタ……ドスドスドス……

 ドタドタドスドスドス…………

 

 「みんな聞いてください。もうほとんどの方がご存知だとは思いますが、堀田さんの退職に向けて、少し早くなりますが引き継ぎの作業を早急に進めたいと思います。堀田さんの業務内容については、早藤さんが1番わかっていますので早藤さんの指揮の元、協力して進めてください。10時には相談役が来られますので、それまでにできる所まで、すぐに始めてください。早藤さん、お願いします」

 「はい。すぐに取り掛かります」

 

 「ところで、堀田さんの実家どうだった?」

 「それが…お正月休みは婚約者の実家に行く予定だと聞いていたので…とのことで何もご存知ありませんでした…年末に届いてたメールの件を話すととても驚かれて…すぐに婚約者に連絡を取って貰えるそうです。何かわかったらいつでもいいので私に連絡してもらうよう私の携帯番号をお伝えしておいたので連絡頂けると思います」

 「わかった、ありがとう。何かわかったら私にも教えて」

 「はい。連絡します」

 「じゃあ、引き継ぎお願いします」

 「はい。すぐに始めます」




 2021年1月4日 13時

 人材派遣会社ビブリオ 本社→東京支社

 車中

 高梨美佳

 

 急がないと、東京で千房に今後の指示を出してすぐに本社に戻らないと…このままじゃビブリオが潰れてしまう!それだけは嫌だ!何がなんでも守らないと…

 

 ビブリオは、私が生きているたった一つの意味だ。ビブリオが無くなってしまっては生きてる意味が無くなる。

 

 10年前、私はビブリオに中途採用で契約社員として採用された。その頃ビブリオは資本金1000万円の小さな会社だった。役員は年配の女社長(今の相談役だ)社長の弟が専務、次長兼営業の久永次長の3人で、あとは平社員が5人いるだけの本社も支社もない、今ある本社のみが事業所の、いわゆる零細企業だった。

 ところが3年前、突然ミクルトワホールディングスという持株会社の傘下に入り社長は交代、『子どもたちと本の出会いをサポートする』という会社の基本理念もどこへやら利益のみを重んじる子会社へと生まれ変わった。

 それでも私はビブリオを失ってはあらゆる意味で生きては行けないだろう。

 

 私が大学を卒業した年は相も変わらず就職氷河期と云われる年だった。就職氷河期でなくても私がすんなり就職出来たかどうかは疑問だが…将来、結婚して家庭を持つなどという普通の将来設計は既に諦めていた私は、とにかく安定した長く務められる職場を求め精力的に就活していた。しかしこの容姿と暗く可愛げのない性格がここでも災いし就職氷河期も相まって頑張りは無駄になり、卒業後も就職浪人となった。仕方なく近所の図書館で募集していたアルバイトに応募し奇跡的に採用された。大学時代に唯一取った司書資格が役に立った。この時は嬉しかったな。

 その後も司書のアルバイトをしながら生涯働ける職場を探して就活を続け、ようやくビブリオに契約社員ではあるが就職することが出来た。

 ビブリオに入ってからは、がむしゃらに働いた。なんとか正社員にして貰えるよう努力に努力を重ね、その努力が報われたのだ。当時の社長が醜いおばあちゃんだったことも私には良かった。なんせ綺麗な人は社長自ら、数え切れない程のいじめ嫌がらせのオンパレード、パワハラを苦に辞めて行くから当時の女子社員で残っているのは松木と私だけだ。松木は気づいていないようだが、ブスだけが残るような会社なのだ。

 

 ビブリオは間違いなくブラック企業だ。いや、今は管理職となり裏側まで知り尽くした私からすれば、社会悪以外の何物でもない。しかし…私は経済的にも生き甲斐としても、この会社が必要なのだ。

 

 松木を一目見た瞬間、私は同類の匂いを嗅ぎとった。松木は私と同じく前社長(現在の相談役)が面接、採用を決めたのだから。

 

 私は、松木が不憫で妹のように可愛いかった。否、それはきれいごとだ。松木と一緒にいると私の醜さが少し薄れるような気がした。居心地が良かった。

 松木は、推定身長170cm体重80kgの大女だ。顔は、小さな目にあぐらをかいた大きな鼻、口角の下がった大きな口、私から見てもかなり不細工だ。そして松木は不細工なだけではなく、とにかく不潔なのだ。おそらく風呂は3日に1回、夏場はかなり臭う。朝は時間が無いのか、ノーメイクなのは百歩譲るとしても歯磨きと洗顔くらいはして欲しい。そのせいであろう顔は年中脂ぎって、肌荒れが酷い。顔中吹き出物だらけで、四六時中その吹き出物を爪で毟っては爪に入った何かをピンッピンッとその辺に飛ばすのだ。社内でもみんなに白い目で見られているが、本人は気づいていないようだ。

 

 ただ醜いというだけで不幸だった私は、同じ醜い松木を守ってやりたいと、そして優秀な社員としていつまでも働けるような人材になるように様々な面でサポートを惜しまなかった。松木も私のことを姉のように慕い信頼されていると疑わなかった。あの日までは……

 

 あれは…おおよそ半年前……



 半年前

 

 2020年7月10日 午後10時

 スナックホワイト

 高梨美佳

 

 「いらっしゃいませー」

 「葵ちゃ〜ん!来たよ〜」

 「わあ!千房さん!たくさんでいらしてくださったんですね!ありがとうございます」

 「葵ちゃんの頼みだもん!」

 

 なんでこんなとこ来たんだろ…帰りたいな…場違い感半端ない。

 松木がどうしても行きたい、一緒に来て!ってしつこいから…松木は千房のことが好きみたい。千房はクズだけど松木が好きなら応援したいけど…

 

 今日は千房の呼びかけで、少し遅いめの新入社員歓迎会だ。事業の内容から4月5月はめちゃくちゃ忙しい、6月も忙しさの名残で歓迎会という雰囲気でもない。なので毎年この時期に新入社員歓迎会が催される。例年なら義理程度に1次会だけ出席して帰るのが、今日は珍しく松木がしつこかったから来たけど…千房と松木以外は早くお開きにして欲しいって顔してる…千房は主役の新入社員、風間くんと永峰さん、そっちのけでスナックの女の子、葵ちゃん?口説いてるし、千房に無理やり連れてこられた堀田さんと早藤さんはどのタイミングで抜け出そうか相談してるし、松木は鬼の形相(目が小さいから迫力無いが)で千房が口説いてる女の子睨んでるし…それにしても、千房酔すぎ…こいつ酒弱いな〜

 

 「なんだ〜みんな飲んでるか?なんか盛り上がってないな〜部長、飲んでますか?今日は無礼講でしょもっと飲んで飲んで!」

 「うん。飲んでる飲んでる」

 

 「《部長さん》なんですか?!わぁ女性なのにかっこいい〜憧れちゃいます!それに部長さん、すっごい胸大きい〜何カップですか?」

 「……それは秘密で」

 

 この女、盛り下がってるからってこっちに話題ふるなよ!

 

 

 「あれっ葵ちゃんそれ聞く〜!よしっ俺のゴッドハンドで当ててみよ〜」

 

 おい!千房!馬鹿か!

 

 ギュッ

 

 「!……」

 

 痛ーーこいつ、ほんとに触りやがった!しかも鷲掴み!この時代に有り得ん!馬鹿なのか?馬鹿すぎるのか?

 

 「う〜ん…これはGカップだな!」

 

 ……当たった

 

 「ちょっと!千房さん!何してるんですか!それってセクハラですよ!酷い!最低!……部長さん、ごめんなさい!私が変なこと聞いたせいで」

 

 「へへへっっ葵ちゃんそんなに怒んないでよ〜ちょっとふざけただけだよ〜部長ごめんなさいね〜」

 

 葵ちゃんが烈火のごとく怒り狂うなか、新入社員、堀田さん早藤さんが唖然とし、私は怒りと恥ずかしさで真っ赤になって震え、当の千房はヘラヘラ…

 その時、松木が……

 

 「もうぉ、千房課長ぉ酷いですってぇ…高梨部長は胸は大きいけどこんな見た目だから男性経験、まぁっ〜たく!無いんですよぉ可哀想でしょぉうふっ。高梨部長、大丈夫ですかぁ千房課長にそんなことされたからって勘違いしたらダメ!ですよぉ〜」

 

 はぁ?なっなっなんて?ツッコミどころが多すぎて……

 それに…いつもの気持ち悪い無理やり作ったアニメ声で笑いながら言ってるつもりみたいだが…私を見る目が…憎悪に燃えてる…

 えっ?嫉妬?

 

 松木の発言で更に重苦しくなった空気は、そのあとも改善することなく、お開きとなった。

 まだ飲むという千房を置いて、それぞれ帰路についた。松木は千房と残りたそうにしたが、あからさまに千房に疎まれ仕方なく私に付いてきた。

 

 帰り道、松木は延々と葵ちゃんの悪口を言い続けた。嫉妬しているのだろう。葵ちゃんに嫉妬するのは解るが……葵ちゃんの悪口の合間に私の悪口?ちょっと違うな…要するに『ブスはブスを肝に銘じて勘違いするようなことがあっては絶対ならない』という意味のことを何度も挟んでくる。

 もちろん、私はブスを自覚しているし松木も仲間だと勝手に思って可愛いがってきた。しかし…松木はそうは思ってなかったようだ。私は裏切られたような気持ちになり、無性に腹が立った。大人気ないが松木に意地悪を言いたくなり…

 

 「千房課長と葵ちゃん、ほんとお似合いだったね〜美男美女で!千房課長、葵ちゃん一筋て感じで。葵ちゃんもみんなの前で千房課長のこと怒ったりして、心が通じ合ってるから出来ることだよね」

 

 な〜んて!んな訳ないない。ププッ

 

 「…高梨部長ぉ…酷いぃ……実はぁ私ぃ…千房課長と結婚を前提にお付き合いしてるんですぅ…誰にも言うなって言われてたんですけどぉ…毎月ぃ結婚資金を預けててぇ…目標額にぃなったらぁ結婚するんですぅうふっ」

 「はぁー?」

 「みんなにはぁ、な・い・しょですよぉ」

 

 びっくりしたーあの男、松木から金巻き上げてるんだ!そこまでクズだとは驚いた!

 

 「けどぉみんなに内緒だからぁあのスナックの女にだけぇわからせるいい方法ないかなぁ〜ふぅ」

 

 少し酒が入ってるからか、いつもに増してこの無理やりなアニメ声と喋り方、鬱陶しい。ブスの大女が…気持ち悪いだけだってわからないのか?あーイライラする!

 

 「松木、あのさ、そのわざとらしい喋り方どうにかならない!聞いててしんどいんだけど…」

 「え〜わざとじゃないですよぉ高梨部長酷いですぅ…まぁ普通の喋り方もできますけどぉ…じゃ普通にしますね」

 「はぁぁ是非そうして」

 

 疲れる……

 

 「それで話しは戻りますけど、あの葵って女に私と千房課長の関係をわからせて千房課長のことは、諦めて欲しいんですよ!どうしたらいいと思いますか?」

 

 普通に話せるんだ…

 勘違いも甚だしいこと言ってるけど…面白いから焚き付けとこうか。千房も松木も葵もまとめて嫌な思いするような……ついでに松木が千房からこっぴどく拒否られて自分の醜さを自覚するに至るような……

 

 「こういうのはどう?葵ちゃんを上手く言いくるめて廃校に連れて行くの、そこで松木と千房課長が結婚を前提に付き合っていること告白する。当然葵ちゃんは『そんなの信じられない』と言う」

 「ふむふむ」

 「そこで、松木が千房課長に電話して『私たちの関係、はっきりこの女に教えて!』て迫る」

 「それ!かっこいい〜」

 「松木を失いたくない千房課長は、葵ちゃんに真実を話す。打ちひしがれる葵ちゃん。勝ち誇る松木」

 「ヒューヒュー私かっこい〜」

 「打ちひしがれる葵ちゃんに、『二度と人の男に手ぇ出すんじゃないよ!今度やったらこんなもんじゃ済まないからね!』と松木言い捨て、廃校に葵ちゃん一人残し去って行く」

 「すっごい!高梨部長天才!けど…そんな簡単に廃校てあります?てか廃校じゃ無くても良くないです?」

 「廃校あるよ。私の母校。I市内だよ」

 「そうなんだぁ」

 「廃校に呼び出す意味は、葵ちゃんにより惨めな気持ちになって貰うためと恐怖を与えるためよ!」

 「なるほどぉうんうん!」

 

 納得してるウッシシ……

 そんな訳ないだろ!松木みたいな得体の知れない大女に普通の女子はまずついて行かない。かりについて行ったとして、街中のカフェなんかでこんな会話されたら…千房と葵ちゃんにコテンパンにやられた松木が恥も外聞もなく喚き散らす醜態をいろんな人に見られてしまう。それはそれで面白いのだが、松木が社用車を私物化していて、何処に行くにも『人材派遣会社ビブリオ』と大きく描かれた社用車で行くので我が社の社員だとバレてしまう。公共施設を顧客としている我が社にとってスキャンダルは命取りだ。万一馬鹿な松木が実行しないとも限らないから念の為の廃校だ。ワッハッハー

 

 「まぁ実際、現実的とは言い難い作戦だし、なんか実現出来そうな案、思いついたら連絡するね」

 「はい!よろしくお願いします!頼りにしてます。部長!」

 

 葵ちゃんはどうでもいいが、松木と千房には仕返しする方法考えよ。私は屈辱を絶対忘れない!必ず復讐してやる!

 

 奴らに嫌がらせをするため、情報収集の必要がある。これから月1〜2回スナックホワイトに通うことにしよう。



 音楽室

 

 はぁーはぁーはぁー……

 きつい……これ一人でやるの無理!

 ふぅふぅ…………はぁーはぁー……

 

 やっぱり一人では無理!諦めよ!お弁当食べて、プリン食べて、寝よ!

 寝袋持ってきて良かった〜

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