第一章【エピソード2それぞれの思惑】

2020年12月25日 午前7時

 ホテル ME

 千房海人


 やってしまった!俺はケモノだ。いやケモノ以下だ、いやいや害虫以下だ。いやそれすら失礼だ、カメムシさんゴキブリさん、ごめんなさい。それにしてもウシブタ、酒強すぎだろ。酔い潰すつもりが、潰れた。食われた。

 こうなったら300万じゃすまされない!有り金全部搾り取ってやる!


「おはよ〜千房さん。いやだ、裸だった!

「おはようございます…」


 オェェェェェ


「どうした?顔色悪いけど、二日酔い?千房さん弱すぎ〜」

「ですね。高梨部長は強いですね…」

「ところで、わたし今日から1ヶ月東京本社に出張なの。そこで、千房さんにも一緒に来てもらおうと思うんだけど」

「けど、僕こっちで進めてる業務が…残念ですけど…」

「それなら気にしないで、なんとかするように松木に言っとくから!だって1ヶ月もお互いもう離れられないもの」


 いや、離れたい!離れてくれ!


「とにかく、ここはわたしに任せて。わたしは一旦自宅に帰って、準備と300万ふ・り・こ・み、してから会社に迎えに行くから、千房さんも準備して出社して」

「はい……」

「じゃ、しばしのお別れのちゅ〜



 2020年12月25日 午前9時

 紫花女学院高等学校しかじょがくいんこうとうがっこう 図書室

 ビブリオ派遣パート社員 水田恭子みずたきょうこ


 はぁぁぁ、今日から一人!嬉しすぎー!ほんま、あの人うるさかった。捨ててあるゴミ拾って、何が悪いの?? エコやん。まだ使えるもん捨てる方が悪やん。まぁ私とはうまが合わへんかってんな。かなり忙しそうに仕事してたけど、私はできひんもんはできひんし、自分のペースで少しずつできるようになったらいいやろ。松木さんも手伝ってくれるって言ってたし。これからは、この図書室が私の自由になるなんて、古い本はどんどん捨てて私の居心地いいお城にしよう。最低賃金で働いてるんやしそれくらい、いいとこないと。


「こんにちは。ひと月ほど前にリクエストしてた本まだ届きませんか?」

「こんにちは。先生すみません、まだ届いてないんです」松木さんに随分前に購入依頼してた本や。

「おかしいな。前任の司書さんのときはすぐに届いたのに。わかりました。早く読みたいので急いで下さいね」

「はい。伝えておきます」


 ふぅ…あの人はこんな時どうしてたんやろ…確か急ぐか急がないか聞いて、発注を分けてたような。まぁ考えてもわからへんし、とりあえず松木さんにメールしとくか。

 それよりシール貼りの内職しな、時給安いから内職せんと、我が家は崩壊するわ。



 2020年12月25日 午後3時

 人材派遣会社ビブリオ 東京支社

 千房海人


 どうしよう…東京までノコノコ来てしまった…これから1ヶ月もどうすればいいんだ……

 ビジネスホテルの部屋は、みんなの手前さすがに別だが、絶対、毎日誘われるよな。どうして、やり過ごそう…


「千房!久しぶり!どうしたんだ急に東京まで、何かトラブルか?」

「田中〜久しぶり!違うんだよ、聞いてくれよ〜」


「千房さん。あっ田中さん、ご無沙汰しています。お元気そうですね」

「高梨部長も益々ご活躍されて、お元気そうで良かったです」

「いえいえ、クタクタですよ。すみません。千房課長、少しお借りしますね」

「あーはい!どうぞどうぞ」


「千房、またな」

「…」


「千房さん、わたしから離れないでよ。ひとりでウロウロされると、なんで来てるのか怪しまれるから、今回はわたしの業務のサポートで来てることになってるんだし」

「…はい…けど、必要だったんでしょうか…」

「必要よ!ひと月も離れてたら、不安でわたし、仕事が手に付かなくなっちゃう。千房さんモテるから」

「…年末年始の休みは、実家に帰るつもりなんですが…」

「あーそれなら、わたしの実家に千房さんも一緒にどうかな?実家の母には今日、連絡するつもり」

「えっと…それは…ぼくも実家で両親が待ってるもので…」

「そうね…それなら、わたしが千房さんの実家に行くのはどう?」

「げっ!ちょちょちょっと、それは、」

「わたし、300万円も千房さんに振込んだから、年末年始の休暇も遊ぶお金ないのよ!とにかく、どっちか!考えといて」

「……」


 どうしよう、どうしよう、どうしよう……



 2020年12月25日 午後3時

 人材派遣会社ビブリオ 本社

 松木琴子


 あーつまんない!つまんない、つまんない、つまんない!千房課長、どうして東京なの?こんなに急に?なんかおかしい…高梨部長と…まぁ高梨部長だったらむしろ安心かぁ。あのウシブタ部長とならね。


 それにしても、今日は働いたわ〜紫花女の水田から、何度も何度も電話あったし、ほんっとあのおばさん、ポンコツだわ。呆れるくらい仕事出来ないわ〜まぁ、わたしの知ったことじゃないけど、いちいち相手するのほんと、面倒〜。

 それに、今日は堀田早藤コンビが休みだし!2人まとめて休みってどういうこと!?まったく、社会人としての自覚はどうなってんの??


 とにかく、あと定時まで2時間、適当にやり過ごして…夜はまたお楽しみが待ってるわ!千房課長にも、今日寂しかったこと連絡しなきゃだしぃ、うふっ



 理科室2

 

 今、何時頃だろ?喉が渇いた。脚が痺れて感覚がない。どれくらい眠ってたのかな?

 

 ドスドスドスドス……来た…眠ってるふり眠ってるふり

 

 「……はぃ……はぁ……ゎかりました……」

 

 良く聞こえないけど、誰かと相談してる?!私のこと?

 

 「……ぃまは、寝てぃます…はぃ、逃げられなぃょぅ…折ってぉきました……」

 「#。。。≠%∞@$*‥」

 「……でも……もぅ少し……ぃろぃろ……実験てきな……」

 「∞‥$&%:::」

 「ゎかりました…はぃ……」

 

 私殺されるの?嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

 ドスドス……

 

 「助けて……殺さないで……」

 「起きてた?うん!すぐには殺さない。もっともっと、試してみたいから。水あげる。飲んだら今日は腕、折るね」

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……誰か助けて助けて助けて助けて……

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