第一章【エピソード1 平凡な日常】

2020年12月24日 午前10時

 人材派遣会社 ビブリオ 本社

 松木琴子まつきことこ


 やっとこの日がきた!ほんっとうるさいババアだった…毎回毎回、勤務の度にポンコツ水田のミスを逐一報告してきて、まるで私のミスのように!採用したの私じゃないつーの!採用したの高梨部長だろが!高梨もムカつく、私の指導力がないから水田が使えないとか、人のせいにするなっての!イライライライライライラ……

 とにかく、あのうるさいババアは今日で辞めるし、辞めたあとはまた適当に仕事してる風にしてればいいや。そろそろ千房課長との結婚の話しも出てくるだろうし。そしたら専業主婦になって…うふ…あぁ早く一緒に暮らしたいな。大大大好き千房課長!うふふ


「おい!松木!ぼーとしてんな!堀田さんがお前のミスの処理に追われてるだろ!少しは手伝え!」

「千房課長、大丈夫ですよ。慣れてるんで。それに松木先輩に手伝って貰うと…」

「そうか。堀田ちゃんは頑張りすぎるから、無理しないようにな」

「ありがとうございます」


 なんなのこの会話!堀田、殺す!千房課長も、みんなの前だからて、ちょっときつ過ぎない?!もう嫌いになっちゃうぞ!なんて絶対嫌いになんてなれないけど、うふ、そういう仕事に真面目なところも好き、大好き!


「松木ちょっと」


 きゃ、呼び出しきたーー叱っちゃたフォローね。


「はぁい!うふっ」


「松木、お前いい加減辞めたら?無能だし、後輩イビリすぎるし、お前が居ると社内の空気が澱むんだよ」


 えっこれって、まさかプロポーズ!シャイな千房課長の、自分だけのものに早くなって欲しいて、意思表示、愛情表現!けどけど、はっきり言って欲しい!ゆるふわ天然系の琴子には、そんな遠回しな言い方じゃ、伝わらないんだぞ!でも、わかりました。毎月渡してる、2人の結婚資金も、そろそろ目標額達成なんですね。千房課長の気持ち、しかと受け取りました!


「はぁい!善処しまぁす」

「おっ辞める気になってくれたか。それならよかった。早くしてくれよ」

「うふっうふふ」

「何ニヤニヤしてんだよ、はぁもういいよ。とにかく、みんなの邪魔だけはするな」


「見て見て、松木さん千房課長に怒られて、また嬉しそうにニヤニヤしてる、キモい〜」

「ほんとほんと、千房課長にお金貢いでるんでしょ、酔った時、課長が自慢げに言ってた、馬鹿だよね」

「千房もクズすぎ〜あはは」

「ほんと、この会社クズと無能しかいない」

「ブラックだしね」

「わたしも早く転職しないと、マジやばい」

「だよね、ヤバいよ〜」



 

 2020年12月24日午後9時

 BAR Hideaway

 千房海人ちぼうかいと


 最悪だ…何が嬉しくて、クリスマスイブに高梨部長とディナーしてんだ??こんなウシブタと…

 クッソォォォォーーなんでこんなことになった?確か、先週スナックホワイトの葵ちゃんをイブのディナーに誘って、上手くはぐらかされて。昨日、堀田ちゃんに断られて。今朝、早藤さん誘ってるとこ、ウシブタ部長に見られて午後からの営業、同行するよう命じられて……


「千房さん、いいお店ね。千房さんの隠れ家的お店?」

「はい…そうなんです…他に思いつかなくて(誰にも見られない店)」


 この店、気に入ってたのにもう来れないな。恥ずかしくて…さっきからマスターもバイトも、こっちチラチラ見ながらクスクス笑ってるよ。


「嬉しい。千房さんのお気に入りのお店に連れて来てもらえるなんて!食事もお酒も美味し〜」

「はぁそれはそれは…」

「やだ、少し酔ったかも〜暑くなってきたわん」

「えっっぜんっぜん暑くないですよ!むしろ少し寒いくらいで…熱でもあるんじゃないですか?心配だからもう帰りましょうか?」

「熱なんてないない、千房さん心配性ね〜ただ酔って暑いだけよ〜ふぅ〜」


 お〜い〜頼むからジャケット脱ぐな!あぁー脱いだ…グロい、グロすぎる。黒い下着も丸見えなんですけど、ハミ肉がエグいんですけど…泣いてもいいですか?あれだな、こないだの飲み会から大胆だな。あれは、流石にまずかった。興味本位と酔った勢いで、ホルスタインも真っ青の巨乳揉んだからな〜あの感触…あァダメだ思い出したら鳥肌が…


「千房さん、どうしたの?腕さすって、寒い?」

「そうですね。少し寒気がして、そろそろ帰りますか?」

「えーお店入ってまだ30分だよ。もっと飲みたい〜。それに今日はクリスマスイブだし!」

「そうですね。けど今日はあまり持ち合わせもなくて」

「そんなこと気にしてたの?今日はわたしが奢るよ〜、一応上司なんだし…遠慮しないで」

「……」


 遠慮じゃねーよ。苦痛なんだよ!


「それに、今日は千房さんの悩みというか、困ってること聞きたいな〜と思ってて」

「へっ?」


 何言ってんだ?ウシブタ部長。


「隠さなくてもいいのよ。松木に勘違いされて困ってるんでしょ」


 いや、勘違いてゆうか、松木はただの金蔓だし…


「松木から聞いてるよ。結婚の約束してるって」

「……えぇっ!?」


 何の話??


「やっぱり、松木の勘違いなんだね。大丈夫!わたしが何とかするから、それで松木にはいくら借りてるの?松木は千房さんに2人の結婚資金を毎月あずけてるって言ってたけど」


 どうしたらそんな話になるんだ??松木にはお前のフォローに金がかかるからと、金を巻き上げてるけど…結婚の《け》の字も出したことないぞ!怖っ


「松木から借りてるお金、わたしが立て替えるから総額いくら?」


 うーん…だいたい100万超くらいかなぁ、けどせっかくだから…


「300万くらいかなぁ」

「えっ結構な金額ね…まぁなんとかするわ。とにかく明日、振込むから口座番号メールしといて。さぁこの話は、これで終わり!今日は心ゆくまで飲みたいわ、付き合ってね!千房さん」

「はい!今日はとことんお供させていただきます!高梨部長」


 なんとか酔い潰して、俺の貞操を守らねば。300万のためだ、頑張れ海人。



 理科室1

 

「ちょっと、どういうつもり!ほどいて!頭おかしいんじゃないの!あぁもともとか。きゃはははは…ふざけるのもいい加減にしないと、ほんと痛い目あわせるから…えっやめてやめてやめてーーぎゃぁぁぁーーー」

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