第25話 ボスモンスターはなかなか狡猾です

 土と苔に覆われていたが、それは紛れもなくモンスターであった。

 

 人間2~3人分のサイズがある石で出来た腕。


 節々がごつごつとしている。


 あれで勢いよく殴られれば、物理防御力の低い冒険者はひとたまりもないだろう。


 「ルデルさま。あれはもしや…」


 「ああ。間違いない。ゴーレムの腕だ」

 

 魔王パズズが生み出したモンスターの1種、ゴーレム。


 種類にもよるが討伐レべルはレベル20~30。


 人間の存在を感知して起動し、腕や足を振り回して攻撃する無垢な巨人。


 雑魚モンスターよりは強力だが、さほど強敵というわけでなく、討伐隊メンバーで力を合わせれば討伐は容易だ。


 長い年月を経て大部分が朽ち果て、腕だけとなっているならなおさらである。


 純粋な生物ではないので、内部のコアが生きている限り足や腕だけでも稼働するのがゴーレムの特徴である。


 「なんだ。あれじゃ楽勝じゃない」


 ライラがそう感じるのも無理はない相手。


 しかしー、




 嫌な予感がする。

 

 「ヴゥゥゥン…」


 ゴーレムの腕は不気味な低音を発しながら滞空し、こちらを警戒するように拳を突き出した。


 「来るぞ!迎え打て!」


 おもわず討伐隊のメンバー全員が身構える中、1人だけ違う行動をとった人物がいた。


 「あはははははははは!何だと思えばゴーレムの出来損ないじゃないのぉ!腕しか起動できないなんて楽勝楽勝!」 




 最前列にいたライリーだ。


 僕が感じているような危機感は感じないらしい。


 召喚したガーゴイルに向け、意気揚々と命じる。

 

 「あんな奴、ちゃっちゃとやってしまいなさい!この【帰らずの洞窟】を攻略するのはライリー・ギボンズよぉぉぉぉぉぉ!」

 「ワカッタ」

 「待てライリー!あいつは何か変だ!全員で対策をー」

 「黙りなさああああああい!あんたたち雑魚冒険者はギボンズ氏の言うことを聞いてればいいのぉぉぉぉぉ!」


 ガーゴイルは翼をばさりと広げ、ゴーレムの腕へと向かっていく。

 

 「オマエ…クウ!」

 「ヴゥゥゥゥゥン…」


 大きな質量を持つ者同士が空中で衝突し、火花を散らし、回転しながら激しく争った。

 最初は拮抗しているように見えたが、徐々に勝敗は明らかとなっていく。




 ライリーの召喚したガーゴイルの方が明らかに圧倒していた。

 

 「グヒヒヒヒ…」


 不気味な笑い声を上げながらゴーレムの腕を裂き、徐々に解体していく。

 数分後には完全に沈黙させるだろう。


 間違いなくあのゴーレムの腕のレベルは低い。




 じゃあ、何故これまで誰も討伐できなかったんだ?


 「あはははははは!やっぱりなんてことはないじゃない!これで終わりよぉ!」


 ライリーは勝ち誇った叫び声をあげた。

 僕たち討伐隊のメンバーも上空に視線を移し、固唾を飲んで見守る。











 「今日はイキのいい奴がいっぱいるんだなぁ」


 そこにできた隙を奴は見逃さなかった。


 「え…?」 


 ガーゴイルを戦わせて無防備となっているライリーの周囲を、何かが取り囲んでいる。


 地面から新たに這い出てきたもの。


 腕、胴体、頭部、脚部。


 呆気に取られている【動物使い】テイマーには到底対応しきれない数。




 すなわち、ゴーレムを構成する残り部分だ。


 「まずは、手始めに一番レベルが高いやつをやるんだなぁ」


 頭部に宿る紫色の単眼が怪しく光ると、側にいたもう1つの腕が動きー、




 「ま…!」


 

 何か叫びかけたライリーの肉体を掌で押しつぶした。  

 

 「ギ…!」


 同時に召喚していたガーゴイルは現世に留まる力を失い、消滅する。




 【帰らずの洞窟】の最深部は、静かになった。


 

 ****



 「おいらはスロウスってんだ。魔王様が生み出した忠実なゴーレムの一体なんだなぁ。ま、魔王様は倒されたんでおいらは自由だがなぁ」


 声1つあげられない討伐隊の目の前で、スロウスと名乗ったゴーレムは新たな動きを始める。


 一言で言うなら合体だ。


 胴体を中心に2つの腕、頭、脚部が接続されていき、やがて1つの大きな巨人となる。


 先ほどガーゴイルとの戦闘で傷ついていた腕は徐々に傷が修復され、完全に元通りとなった。


 「おいらのスキルは【分離】。体を5つに分割できるんだなぁ。レベルはパーツ1つごとに10、5つ合わせて50!普段はほとんど活動停止させて、おいらを弱いと踏んだ冒険者が来たらみーんな返り討ち!楽々雑魚狩りなんだなぁ」


 これが【帰らずの洞窟】の真相らしい。


 ダンジョンに出現するモンスターのレベルは、ボスモンスターのレベルに比例する。


 おそらく普段は片腕だけ活動させて、わざと弱いモンスターを出現させているのだろう。

 冒険者がダンジョン最深部に足を踏み入れた瞬間、全てのパーツを起動させて合体。


 圧倒的な強さで全員を狩る。


 しかし、モンスターの中にも知性を帯びてスキルを使う個体がいるなんて…


 「ス、スロウスなんて!そんな…」


 スロウスの言葉を聞いたソフィアが悲鳴をあげる。


  「知ってるのか?」

 「【怠惰のスロウス】と言う名で古文書に載っていました。最初期に作られたゴーレムの一体で、勇者エアロンとの戦いも生き延びた強敵だと…」

 「ありゃりゃ?知ってるんだな?おいらもいつの間にか有名人なんだなぁ。でも、お前たちはもう終わりなんだなぁ!うししししししっ!」


 スロウスは両腕を振り上げ、自らの技を発動した。


 「【フィアー・ハウリング】!」


 地面を激しく叩くきながら発する、不快な轟音。


 それを聞いた冒険者たちは途端に膝を折り、武器を手放した。


 「か、体が動かねえ!」

 「なんなの、この音…!」

 「し、死にたくねええええええ!」


 それを見たスロウスが目を細める。


 「レベル20以下の冒険者はこれで全員行動不能!そこで潰されるのを待っているんだなぁ!」


 今回のクエストに参加した冒険者のほとんどがレベル20以下だ。


 この状況下で動けるのはー、




 僕とレベルアップを重ねたライラ、ソフィアの3人しかいない。

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