第26話 ボスとは目指すところが違うようです
「ぬっ…【フィアー・ハウリング】の対象じゃない奴が3人もいるんだなぁ」
動けない冒険者たちを仕留めようとしていたスロウスが足を止めた。
推奨討伐レベル10のダンジョンにレベル20以上の冒険者がいるのが驚きだったらしい。
ドシン。
2、3歩後退し、古びたゴーレムはこちらの様子を伺う。
「…行くぞ。僕があいつを引きつける。ライラとソフィアは支援してくれ」
「ええ」
「分かりました」
逆に僕たち3人のパーティは一歩前に出る。
動けないでいる冒険者たちを巻き込むわけにはいかない。
もちろん先頭は僕だ。
「ふうん…とはいえ、先頭のちっこい男でもレベル30。レベル50のスロウスさまの敵ではないんだなぁ」
「分かるのか」
「グヒヒヒヒ!おいらはパズズさまが自ら創造した【古代種】の1匹。そんじょそこらのモンスターとは出来が違うんだな。特別製なんだなあ」
「そうか。一つ、聞きたい」
「んあ?」
拳を突き出し、スロウスの状態を油断なく探る。
弱点らしきものは見当たらない。
でも、どこかに思考を司るコアがあるはずだ。
そこを突ければ、倒せる。
「お前にとって、レベルアップとはなんだ?」
「レベルアップぅ?」
「ああ。お前にもレベルがあると聞いて気になったんだ。お前はなんのためにレベルアップを目指す?」
「決まっているんだなぁ!」
スロウスはゲラゲラと笑い出した。
「おいらにとって、レベルアップとは、圧倒的な力で人間をむごたらしく殺すために目指すものなんだなぁ!」
「…」
「知ってるだか?圧倒的な力に絶望し、命乞いをする人間の悲鳴や泣き顔を。あれは何度体験しても楽しいんだなぁ。お前みたいな生意気なガキを絶望させるのは特に楽しいんだなぁ」
「そのために、あえて弱者を装って、自分より弱い冒険者を狩ってきたのか。強い冒険者が来たらどうするんだ?」
「その時は逃げるだけなんだなぁ。命懸けの戦いなんておいらの趣味じゃないんだなぁ」
通常、ダンジョンボスはダンジョンから移動することはない。
だが、知性を持つこのゴーレムにとっては朝飯前ということか。
これまでも何度もダンジョンを変え、大陸中を移動してきたのだろう。
「これ以上の説教は不要!おいらはモンスター!人間の倫理なぞクソ喰らえなんだなぁ!」
「そうか。よく分かったよ」
僕は、スロウスの本質を見切った。
だから、攻撃態勢に入ろうとしたゴーレムに冷たく言い放つ。
「だから、そんなに弱いのか」
「…あ?」
「お前はリスクを回避して雑魚狩りばかりしてきた。だから、何十年経ってもやっとレベル50にしか到達していない」
魔王パズズが倒されてから100年。
その間に何人もの冒険者が生まれ、中には前人未到のレベル100に到達せんとする者もいる。
しかし、スロウスはようやく50。
あえて弱い冒険者のみと戦っているのだから当然だろう。
弱者をいたぶりたいと言う願望と引き換えに、スロウスは成長の速度を自ら低下させたのだ。
「よ、よほど死にたいようなんだなぁ…」
初めてスロウスは怒りの声をあげる。
「事実を言ったまでだ」
「計画変更なんだな。まず、【フィアー・ハウリング】の効果が解ける前にお前を最優先で殺す!腕を引きちぎり、足をもぎ、最期の瞬間まで苦痛を与えてやるんだなぁ!」
巨大な腕を振りまわし、スロウスは突進を開始した。
「【ゴーレム・ブロウ】!」
両腕を利用した強大な一撃。
それを紙一重でかわし、僕は戦技を放つ。
「【ジャイアント・ストライク】!!!」
狙いは、コアが格納されていると踏んだ胴体。
「甘いんだなぁ!」
空を切る拳。
哄笑とともにスロウスは【分離】したのだ。
全身を5つのパーツに分け、それぞれが空中に急速回避。
もちろん、そうすると思っていた。
「【エアレイド】!」
「【ストレングス】!」
移動力を高める風魔法と、攻撃力を増加させる支援魔法。
僕の体は宙に浮き、、スロウスの胴体へと一気に接近。
そしてー、
「ぐぅっ!?」
拳による一撃を叩き込む。
胴体にわずかなヒビ。
効いている!
「雑魚冒険者風情がぁ!」
「スロウス!僕はレベルアップのためならリスクは惜しまない!仲間と力を合わせて強敵と戦い、打ち勝って強くなる!それが…僕のやり方だ!」
こうして、ボスモンスターとの戦いが幕を開けた。
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