第24話 ボスモンスターが姿を見せました
暗いダンジョンの中で、可愛い女の子に迫られる。
冒険譚で幾度か見た光景だが、まさか自分に降りかかるとは思わなかった。
「私、ルデルさまになら何をされても構いません…!」
ソフィアのふんわりとして柔らかい女の子の体が、僕を包み込む。
花のような甘い香りと、赤く染めた頬。
ライラも勿論素敵だけど、ソフィアはより女の子って感じがするんだよな。
「ルデル、さま…」
「…」
これが、据え膳食わぬはなんちゃらってやつか。
ライラは隣ですうすうと眠りについており、しばらくは目を覚まさないだろう。
「ソフィアを…沢山かわいがってください♡」
ごめん、ライラ。
君を泣かせることになるけど、ソフィアを泣かせるわけにもいかない。
ここは、僕が責任をもって対処するよ…
ーとなるわけもなく。
「酷い人だ。何の罪もない女の子を操るなんてね」
「きゃっ!」
ソフィアが手に隠し持っていたナイフを抑え、手首を少しだけひねる。
からん。
「ぐっ…」
幼い【神官】はくぐもった声を上げ、ナイフを手から落とした。
もちろん、これは彼女の意思ではないだろう。
恐らく、せきこんだタイミングで誰かに操られ、僕を誘惑するふりをして襲うよう仕向けたのだ。
僕は周りから見ると戦闘タイプにしか見えないので、探知系スキルもなく襲いやすいと思うのも無理はない。
だがー、
アクティブ戦技の1つ【エネミー・サーチ】はいつもどおり機能しており、ソフィアがいきなり敵意を抱き始めたことをちゃんと察知しているのである。
ソフィアの背後にもう1つの敵意。
「【ブーメラン・スネイク】!」
「ぎゃっ!?」
拳のオーラを飛ばして攻撃すると、甲高い悲鳴をあげて誰かが倒れこむ。
「やっぱり、あなたですか」
「ど、どうして分かったのよ!」
「さあ。ま、いずれにしろ、こんなことができるのはあなたしかいません。直接手を出せば【契約破棄の呪い】が発動し、他に頼れる仲間もいない以上、誰かを操るしかない」
「ひい…!」
「早くソフィアにかけた呪いを解いてもらいますよ」
「か、解除するから命だけはお助け~~~!」
性懲りもなく仕掛けてきたのはやはりライリーであった。
手をパン、と打ち鳴らすとダンジョンの最深部へと逃げていき、姿が見えなくなる。
ぼとり。
「ん…?私は一体何を…いたたたた」
何か小さいものが落ちる音。
キョロキョロと辺りを見回すソフィアのかたわらに、1匹の羽虫が転がっていた。
ライリーが使役したモンスターの1匹だろう。
****
「ご、ごめんなさい!この罪、どうやって償えばいいか…!」
30分後。
騒ぎを聞きつけた大型クエストの参加者全員が目覚める中、ソフィアが涙を流して僕に謝罪する。
「操られただけなんだから謝る必要はないよ。だろ、ライラ」
「ま、まあそうね。ルデルも無事だったし」
「そういうことだ。今は逃げちゃったライリーをどうするかだけ考えよう」
「は、はい…」
ソフィアの頭を優しくなでた後、僕は他のパーティメンバーに呼びかける。
「これからどうすべきと思いますか?意見を聞きたいです」
ざわざわと思い思いの意見を述べる冒険者たちだったが、内容は概ね同じだ。
「どうするといっても…進むしかねえよな」
「あいつも捕まえないといけないしね」
「リーダーはあんたなんだから、あんたの命令に従うまでだ!」
どうやら、先に進むしかないらしい。
「じゃあ、僕を先頭にして進みましょう。みなさん、油断だけはしないでください」
最下層に向けて、ライリーを除いたメンバー全員が地下へ地下へと下っていく。
その道中でも、討伐推奨レベル10程度のモンスターしか現れなかった。
道中のモンスターのレベルがボスモンスターのレベルと等しくなるというのが、ダンジョンの法則。
この人数なら余裕で勝てるはずだが、嫌な予感は消えなかった。
****
「あ、あんたたちもう来たの!?」
【帰らずの洞窟】の最深部は、どこからか明かりが差し込む明るい空間だった。
昔は地元で信仰されてきた宗教の神殿だったと伝わっており、大理石の柱や床が古びた状態で放置されている。
神殿の最奥部、女性の神像がまつられた祭壇の前に、ライリーは立っていた。
「誰かさんがモンスターを倒してくれたおかげですよ」
「こうなったら、私一人でボスモンスターを倒して名誉回復するわぁ!あんたらは黙ってみてなさい!」
「そういうわけにも行かないでしょうに…」
呆れる大型クエスト参加者たちを尻目に、ライリーはガーゴイルを再び呼び出す。
「ドウシタ」
「どこかにボスモンスターが潜んでるわ!探し出してやってしまいなさ~い!」
「ワカッタ」
「さあ、このライリー・ギボンズ氏が相手になるわ~~~!出てきなさいボスモンスター~~~!」
半狂乱でギボンズ氏の末裔が叫んでいるとー、
ぼこり。
地面から何かが飛び出してきた。
一本の巨大な腕だ。
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