第23話 清楚と思ってた【神官】は大胆でした

 突如この地方に現れたダンジョン【帰らずの洞窟】は切り立った崖の上にあり、クエスト参加者全員が余裕を持って入れるほど広かった。

 ダンジョンに潜む敵やボスモンスターの強さを鑑定するクラス【風水師】ファンシュウェイ・マスターの鑑定によると、推奨討伐レベルは10。

 レベル10の冒険者が数人いれば ボスモンスターの討伐まで行くのも難しくはないはずである。


 だが、討伐にいったパーティは誰一人帰ってはこない。


 事態を重く見た冒険者本部直々に大型クエストを発注し、それに応じた計12パーティ38人が参加したというわけである。


 そんなこんなで洞窟に入ってみた感想だがー、






 モンスターは超弱かった。


 「おい、スライムだけかよ。あたいらだけでも倒せんじゃん」


 「【風水師】ファンシュウェイ・マスターがぼんくらだったんじゃないの?」


 戦闘能力の低い【盗賊】シーフクラスだけで編成されるパーティ【盗賊三姉妹】でも問題なく全滅させられるゴブリン系やスライム系のモンスターばかり。


 たまに【コロニースライム】の色違いが現れるぐらいだ。


 「歯ごたえのある戦いができると期待していたのだが、期待外れか…?」


 「ううむ。場合によっては途中離脱もあり得るのう」


 熟練の冒険者を集めた中堅パーティ【ドン・キホーテ】のリーダーと副リーダーも不満げである。


 すでに10層中7層まで到達しても状況が変わらないので、参加者はみんなこう感じているだろう。




 このダンジョンは大したことないと。



 

 「【ウィンド】!ま、楽に終わる分にはいいんだけどさ。ね、ソフィア?」

 「【MPヒール】!そうですね。私は戦闘力と呼べるものがありませんし。ルデルさまはどう思いますか?」

 「うーん…ボスモンスターを討伐するまではまだなんともいえないな」


 ヘディングで一番高価だった防具【銀の鎧】をカチャカチャと揺らしながら、僕は少し考える。


 実はこのダンジョンの謎を解き明かしているんだ!


 と言いたいところだが、そういうわけでもない。


 アクティブスキル【エネミーサーチ】で油断なく周囲を探っているが、強大なモンスターやボスの存在は感じられないのが正直なところだ。


 でも、なんだか嫌な予感がする。


 「【ストリーク・ストライク】!」


 とりあえず戦技を放ち、ダンジョンの地下へ地下へと潜っていくのみ。




 「つまらないダンジョン。このライリーさまが出る必要なんてないじゃない」


 もちろん、ペナルティによりたった一人で討伐に参加しているライリーに対する警戒も怠らずにである。


 「さあ、行きなさい!アーチー!」

 「ワカッタ」

   

 ライリーはいつも通りガーゴイルを召喚し、雑魚モンスターを蹴散らしていた。


 以前は不意打ちで倒せた相手だが、未だ僕よりレベルが上なことには留意する必要があるだろう。


 「何してんのルデル!早くいくわよ」

 「ルデルさま、そろそろ休憩にしましょうか?」

 「いや、すぐ行く」


 そこから数時間。


 数だけは多いモンスターを大型クエストの参加者たちは次々と討伐し、歩みを進めていった。




 9層に突入した途端発生した地震で、出口を塞がれるまでは。

 幸い怪我人は出なかったが、なぜか転送魔法で脱出することができない。


 完全に閉じ込められた。

 


 ****



「非常時だしこのライリーさまが指揮を取るわぁ!異存はないよねぇぇぇ?」


 ろうそくのみが光源の薄暗いダンジョンの最深部。


 急遽対策を協議することとなった大型クエスト参加者の前で、ライリー・ギボンズは自らの存在をアピールする。


 たしかにレベル35はこのメンバーの中で最も高いガー、


 「いや、あんた仲間に暴行しようとしたクズだし却下」

 「賛成。今時女性冒険者も多いのにさ」

 「そもそもギボンズ氏とかもうでかい顔する必要ないでしょ」

 「な、なんですってえええええ!?」


 当然、人望のなさから誰一人賛同しなかった。


 「ここはルデル・ハート殿に指揮を取ってもらおうぜ」

 「はるかに手強い【デザートウルフ】も一撃で倒し、討伐団の危機も救ったしな」

 「なんでもすげえスキルが使えるんだろ?ボスも1人で倒しちまうかも」

 「ぼ、僕がですか!?」


 いきなり僕が指名されるのは予想外だったけど、ライラもソフィアもさも当然という顔をしているし、誰が任せそうな人もいない。


 …やるしかないか。


 「これは僕の勘ですが、おそらくこのダンジョンのボスモンスターにはなんらかの秘密があります。しかし、脱出する手段がない以上は前に進むしかないでしょう」


 参加パーティーの中でも実力が高い数組のメンバーたちに目をやる。


 「なので、ある程度メンバーを選抜してボスモンスターに当たるべきだと思います。それ以外のメンバーは選抜メンバーがボスモンスターと戦う間、どうにか脱出や外部との連絡方法を探る。これしかないでしょう」


 特に異論はなかったため、明日行われる予定のボスモンスター討伐に備え休憩することとなった。


 不眠不休でことにあたる必要はない。

 英気を養えば、それだけ勝利の可能性が高まるだろう。

 


 ****



 「ルデルさまはやはりすごいんですね。みなさん、あなたさまのお話を真剣に聞いていました」


 ろうそくの明かりで照らされているソフィアの横顔は明るかった。

 すでに一部の見張り以外は眠りについており、洞窟の中は静まり返ってる。


 「もう…にんじん食べられない…すぴー」


 ライラも疲れたのか早々に眠っていた。


 「そんなことないさ。ライリーが君にひどいことをしなければ順当にリーダーとなっていただろう。あいつが勝手に自爆しただけさ」

 「いいえ。きっと、ソフィアがいなくてもルデルさまがリーダーとなっていたはずです」

 「どうして?」

 「それは…あなたさまが、勇気を持つ者だから」

 

 ソフィアはドキッとする色気のある表情を浮かべた。

 

 いかんいかん。


 万が一過ちを冒したらライラに今度こそ首の骨を折られてしまう。


 「さ…そろそろ寝よう。朝も早いしー」

 「はい!それではーひぐっ…!?」

 「っ!どうした?怪我でもした?」


 急にソフィアが胸を押さえて苦しみ始めた。

 顔がどんどん赤くなり、息をはあはあと荒くしている。


 思わず背中をさすろうと駆け寄った時ー、




 「…ルデルさま」

 「ん?」




 「私を…抱いてください!」


 ソフィアはガバッとこちらに覆い被さってきた。

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