第21話 ついにダンジョンへと出発します

 数日後。


 【帰らずの洞窟】を攻略するための大型クエスト募集期限となり、参加するメンバーが正式に決まった。

 バイブリーの城門前で集合し、改めてクエストの説明を受けることとなる。


 パーティーの数は12。


 人間、ドワーフ、エルフ、亜人など、さまざまな種族が名パーティーに散らばって所属している。

 経歴もつい先日結成されたものからすでにいくつかのダンジョンを攻略したものまでバラエティ豊かだ。


 その中に、僕の結成した【同じ道を歩む者たち】も所属している。


 リーダーは僕こと【拳の勇者】フィスト・ブレイバーのルデル・ハート。

 メンバーの1人目が【ウマ耳族】のライラ・スカーレット。


 もう1人がー、




 「ルデルさん、あーん♪」

 「…あーん」  

 「美味しいですか?朝早起きして作ったサンドイッチなんです」

 「うん。とても美味し。けど何というかこう、距離がー」

 「嬉しい!とっても嬉しいです私!」

 「ちょっ!?」


 ソフィア・グリンフィールドである。


 料理の腕を褒められたの。喜び、僕の腕に絶賛しがみつき中である。


 分厚い【神官】プリースト服の上からでも分かるふくよかな胸の感触が腕に伝わってます。

 

 「これからも私が料理作りますね!」

 「え、ああ。うれ、うれしいな?」

 「はい!あ、最後に毒消し薬を買ってくるのを忘れました。ちょっと待ってくださいね」


 なんだか言葉が通じてないように思えるが、気にされていない。

  

 そしてー、




 「ゴゴゴゴゴゴゴゴ…」


 お怒りの【ウマ耳族】さんに、【かまいたちの杖】を突きつけられる。


 「ちょうど新しく買った杖の威力を試してみたかったのよね…なんだか、ちょうど良さげな背中があるわ。うふふふふふふ…」

 「ひいっ!?ご、誤解だライラ。僕は浮気なんてしてない。ソフィアが勝手にー」

 「嘘!アタシ里で聞いたことがあるわ。勇者って人間は女の子をとっかえひっかえして泣かすんだって!」

 「そ、それは勇者エアロンだけだよ。僕にはそんな甲斐性はー」

 「ルデルの馬鹿馬鹿馬鹿あああああっ!」

 「うげええええええけっ!?」


 いつものように首をグラングランしながら、僕はこの前のことを思い出すのであった。


 

 ****



 「あのライリーって人がパーティーリーダーなのかい?」

 「はい。ギボンズ氏の中で冒険者になる者は、みんな自分だけのパーティーを持っています。私も、そこに参加していましたが…もう追放されたんでしょうね…」


 宿のテーブルに腰掛けるソフィアは膝にちょこんと手を置いていたが、ぎゅっと服の袖を握りしめる。

 快活なライラとは正反対の清楚な美人ではあるが、その表情は暗い。


 金色の瞳も、今はくすんで見える。


 そしてー、


 「うう…ごめんなさい。人前で泣くなんて、私冒険者失格です…!」


 ぽつりぽつりと、大粒の涙を流し始めた。


 「大丈夫?泣かないで、誰かが泣くのをみるのはアタシも悲しい」


 ライラがハンカチを差し出すと、ソフィアは恐る恐るそれを受け取り、涙を拭い始めた。


 「ありがとう、ございます」

 「事情は分からないけど、君も苦労してきたんだね」


 泣き顔が見えるのは心苦しいだろうし、そっと抱き寄せる。

 ソフィアはよろよろと僕の胸に顔を寄せ、小さな声で泣く。


 「優しいんですね、2人共…」




 やがて落ち着きを取り戻したソフィアは、これまでの事情を話し始めた。



 ****



 彼女の話によると事情はこうだ。


 それなりに優秀な【動物使い】テイマーで冒険者パーティー【黄金の三角】のリーダーであるライリー・ギボンズであったが、筋金入りのドケチらしい。

 レベルアップのために誰彼構わず金をばら撒くイーサンとはある意味対照的といえよう。


 クエストを受ける受けないも法外な報酬をふっかけて受注するかどうか決める悪癖があり、モンスターに襲われる村も貧乏とみるや無視することが多かった。


 それに対し、新人の冒険者であるソフィアは異を唱えていたが、


 そして、事件は起きる。


 


 相変わらずとある村の要請を無視してさっさとバイブリーへ移動しようとしたギボンズに呆れ、ソフィア単独での【ワードウルフ】の群れを討伐したのだ。


 かなり危険な行為だったが、放ってはおけず、傷だらけになって討伐を成功させたらしい。


 もちろん村人には秘密にするよう言い伝えたが、メンバーの1人が目撃していたらしくー、




 バイブリーのギルド支部での一悶着に至る。


 「こうなった以上、冒険者は続けられません。助けてくれたことは非常にありがたいですが、あなたたちもギボンズ氏に睨まれるかもしれません…本当にすみません」

 「大丈夫だよ。僕はもうギボンズ氏にずっと睨まれてるし。なあ、ライラ」

 「そうね。なんたってすでに1人ぼこぼこにしちゃったし」

 「そう…なのですか」

 「ええ!今履いてるアタシのブーツでガツーン!と蹴り上げちゃったのか」

 「…あはは。面白い方なのですね」


 なんとかソフィアは元気を取り戻したようだ。

 

 持ちかけてみよう。




 「ソフィアさん。僕のパーティーに入らないかい?」

 「え…?」

 「君もまだ冒険者の夢を諦めたくないと僕は感じている。なら、ライリーのパーティーなんて抜けて、新しいパーティーに入ればいい」

 「でも…迷惑がかかると…」

 「大丈夫だ。絶対に君を守り抜くし、ギボンズ氏の誰がきても好きにはさせない」

 「…あなたのような人も、まだ冒険者の中にいるのですね」


 ソフィアも少しだけ残った涙を拭い、微笑んだ。




 「…よろしく、お願いします!」



 **** 



 「それでは、全パーティーが揃ったので、大型クエストを開始するにゃ!リンの口から言えることはただ1つ、生きて帰ってくるにゃ!」


 このような過程をへて、ついに大型クエストが始まる。


 リーダーはー、




 イーサン・ライリーだ。


 「…さっさと行くわよあんたたち!くそっ…」


 先日起こした暴行事件に対する賠償金の支払い、ソフィアのパーティー離脱の承認、僕やパーティーメンバーに対する手出しの禁止という条件を飲んでなんとか参加した。


 破り次第【契約破棄の呪い】がかかることになっているが、まだまだギボンズ氏の影響力も強いらしい。


 何にせよ、向こうが何か仕掛けてくるなら、こっちもそれなりの対処をするだけだ。



 「さあ、行こう!ライラ!ソフィア!」

 「ええ!」

 「はい!」


 何にせよ、大型クエストの日を迎えることができた。


 絶対にダンジョンをクリアしてみせる!




 

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