第20話 手始めにいつもの奴を成敗しました

 「ギボンズ氏の高貴なる血筋の価値が分からない者は、痛い目に合わなくちゃねええええ!」


 待機室まで駆けつけると、小柄な男性が甲高い声を上げ、若い女性【神官】プリーストに鞭を振るおうとしていた。


 って、男なんだ…


 話し方からてっきり女の人かと思った。

 ま、悪人でも女性に手を出すのは気が引けるしな。


 「おりゃあああああ!」


 一気に走り出して僕は腰の【ショートソード】に手をかけようとするがー、


 「あ、そういえばもう壊れたんだった!」


 いつもの癖でつい使おうとしていた。

 その間にもうずくまる【神官】プリーストに鞭が迫る。


 間に合え!


 「【ブーメラン・ストライク】!」


 拳を突き出し、遠距離戦用の戦技を発動する。

 拳に青色のオーラが宿り、膨らんだかと思うと、小柄な男の鞭に向かって勢いよく飛び出す。


 「ひゃはははははは…うわっ!?」


 狙い通り男の鞭を正確に撃ち抜いた。

 腕を少し怪我したのか、手のひらを抑えながらうずくまる。

 

 なにこれかっこいい!


 「実績解放条件『【拳の勇者】フィスト・ブレイバーの状態で戦技を発動する』を達成。称号【徒手空拳で戦う者】を獲得し、【虚なる拳】うつろなるこぶしを獲得します」


 【スキルシート】が状況の変化とともに、転職したクラスの特徴を解説する。


 「補足ですが、転職しても【目覚めの勇者】アウェイキング・ブレイバーの段階で取得した戦技は全て利用可能です」

 「…相変わらず凄いチートだ」


 さて、とにかく暴行を受けそうになっていた少女を助けよう。

 彼女の下に駆け寄り、その手を取る。


 「大丈夫ですか?」

 「は、はい…ありがとうございます」

 金色でふさふさしたロングヘアと蒼い目。

 僕よりかなり低い背。

 スキルを発動するのに必要な【聖なる書】を片手に持っている。


 神聖な存在であることを示す【神官】プリーストの服装に負けないほどの清楚な美少女だ。


 ライラが太陽とするなら、彼女は月。


 「僕はルデル・ハート。大型クエスト参加のためバイブリーにやってきました。あなたは?」

 「私は…ソフィアです・ソフィア・グリンフィールド」

 「なああああに邪魔しちゃってるわけえええええ!?」


 おっと、まだ事態は解決していないようだ。

 先ほどの小柄な男に目をやると、口から泡を吹いて怒り狂っている。


 青色のシャツに金の刺繍。

 指には色とりどりの宝石。


 見た目は派手でも、人を人とも思わないような邪悪な表情が全てを帳消しにしている。


 「このライリー・ギボンズの下民に対する制裁を邪魔しようなんていい度胸じゃあなあああい…覚悟は出来てるんでしょうねえええええ」


 ライリーって。

 この人には全く似合わない名前だ。


 「まったく。イーサンといいギボンズ氏はクズしかいないのか」

 「ギボンズ…?あの恥さらしを知っているということは」

 「ああ。僕がギボンズをとっちめたルデル・ハートだ」

 「あんたがねえ…あんたのせいでギボンズ氏のメンツは丸つぶれよ。あんな分家筋のカスのやらかしなんてどうでもいいけど、本家筋としてあんたを見逃せないわあ…」


 鞭をぴしゃりと叩き、ライリーは叫ぶ。


 「レベル40の私が直々に粛清してあげる!アーチー!やっておしまい!」


 背後から暗闇の空間が現れたかと思うと、その中から一匹のガーゴイルが姿を現した。


 ライリーはどうやら【動物使い】テイマーのようだ。

 ガーゴイルはAランクの使役魔物として名が知られており、【動物使い】テイマーの中でも呼び出せるものは限られる。



 

 さすがに、イーサンよりは腕が立つようだ。


 「ゴシュジン…メイレイ」

 「あの人間2人をやっちゃっていいわぁ!ギルド支部を汚さないようき・れ・い・に・ね」

 「ワカッタ」


 ガーゴイルがばさり、と翼を広げ、遅いかかかる準備をする。


 「に、逃げてください!罰を受けるのは、私だけで充分です」

 「どんな相手でも僕は逃げません。背中に隠れててください」

 「でも…」

 「大丈夫よ」


 ライラが【妖精の杖】を構えながら、僕と共に立つ。


 「ルデルは、あんな卑怯な奴よりずっと強いんだから。そうでしょ?」

 「…そこまで褒められたら、ちょっとやる気出ちゃうかも」


 拳に力を込め、ガーゴイルに向けて歩き出す。


 「オマエ…クウ!」


 飛び出すガーゴイルに向けー、




 「【虚なる拳】うつろなるこぶし!」


 新たな戦技を放つーーーー!











 「sどいてゃおしfはそいああそふぉあ!?」


 と見せかけてライリーに放った。


 「おがあ…おごご…な、なんで…?」

 「いや、ギルド支部で暴れちゃだめでしょ。物壊れるし」

 「が、ガーゴイルをすり抜けて、一瞬で私にたどり着くなんて…あがあ」


 大分手加減したが、ライリーは一瞬で気を失う。

 さっさとギルド支部に突き出そう。


 「エエ…」


 まったく反応できなかったことに動揺しながら、ガーゴイルも姿を消す。




 【虚なる拳】うつろなるこぶし~対象1人を気絶させる打撃技。


 まあ、新たな技を試したかったってのもあるけど。

 結構トリッキーなクラスなのも知れない。


 「す、すごい…!レベル40の人間をあっという間に…!」 

 「言ったでしょ。ルデルは強いって」

 「あ、ありがとうございます!」

 「さ、行きましょう」

 「え…?」


 少し涙ぐむ彼女に対し手を差し出す。




 「事情を聞かせてください」

 

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