第18話 めくるめく夜を過ごしました
「…知ってる天井だ」
目覚めると【もみじ亭】の部屋のベッドに横たわっていた。
イーサンとの
なぜここにいるのかが思い出せない。
確かイーサンの股間を【蹄鉄】で粉砕した後、意識が急速に薄くなって…
「そうだ!決闘は?イーサンは?いや、ライラは?」
あたりを見回してみるとー、
「ううん…」
ベッドの上に顔を置いて床にひざまづく形で、ライラが眠りについていた。
少し口からよだれが出て、耳と尻尾が時折ぱたぱたと動いている。
「ライラ!こんなところで寝たら風邪ひくよ」
おそらく僕が心配でずっと傍にいてくれたのだろう。
揺り起こしていると、むにゃむにゃととある言葉をつぶやき始める。
「ルデル…アタシ…あなたのことが…」
「ん?」
「好き…」
「…」
「はっ!ルデル!ごめんアタシ寝てて…」
「…」
「どうしたの?」
「えー…なんでもない」
「嘘!何か隠してる。正直に言って」
「言わないと、どうなる?」
「ここで…泣く。ルデルに隠し事されると、悲しいから」
困ったなぁ。
本当にちょっと涙目になっている。
仕方ないか。
「その、寝言なんだけど。僕のことが好き…だってさ」
「…」
「…」
「なっ…なななななっ!?」
ぼふん。
いかにもそんな効果音が出そうな勢いで、ライラの全身が真っ赤に染まる。
「いや、寝言だから!寝言は無意識に思っている感情が出てくるって…」
「わ、忘れなさい!忘れろ忘れろ忘れろおおおおっ!」
「うぐぇぇぇぇぇぇ!く、首の骨が折れるっ…!」
【もみじ亭】の亭主に静かにしてくださいと言われるまで、僕はライラに首を揺さぶられる続けるのであった。
****
「昨日は色々とお疲れ様だったにゃ。イーサンは自らの罪を認め、アンナさんが【高貴なる一団】の【幹部】と一緒に連れて行ったにゃ」
ライラと一緒にギルドに顔を出すと、リンさんが迎えてくれた。
「そうですか。あいつにもちゃんと罪を償って…」
「いよっ!【夜明けの決闘】に打ち勝った勇者さん!」
「イーサンたちをぎゃふんといわせてくれてありがとうね!」
「パーティメンバーは応募しているのかい?3人目に入れてほしいんだが…」
「あ、後でお願いします」
いつの間にか、周囲の冒険者パーティの皆がみんな僕を見ると駆け寄ってくるようになっている。
目立って仕方ない。
「…とにかく、イーサンがルデルにちょっかいを出すようなことはもうないのね。アタシは、それだけが心配」
「アンナさんが『自分の名誉にかけてもそれは防ぐから安心してくれ少年!』と言ってたから大丈夫にゃ。一応Aランククラスの人材だし、イーサンの横暴を告発して、ギボンズ氏の権力を崩していく材料とする予定だそうだにゃ」
「そう…良かったわ。本当に…」
あまり話し合う機会は持てなかったけど、恐らくアンナさんなら信頼できるだろう。
もしイーサンが再び立ち塞がってきても、正々堂々と立ち向かうだけだ。
勇者として。
ふと、ライラと目線があった。
「…な、なによ」
「いや、僕の心配をしてくれて、嬉しかったんだ」
「当然でしょ。同じパーティなんだから。気に、しないで…」
「うん…」
は、恥ずかしい。
どうしても意識してしまう。
こういうとき、勇者ならどうするんだ!?
「ライラさん、大丈夫にゃ?なんだか顔が赤いにゃ」
「…なんでもないです」
「ルデルくんも、赤いにゃ」
「…気にしないでください」
「な、なんだか疎外感を感じるにゃ。深追いはしないでおくにゃ」
こほん、とリンさんは咳払いし、追加で伝えるべきことを僕に伝える。
「あと、『目覚めの勇者』に関してはいったん保留となるにゃ。アンナさんとも話し合ったけど、ルデルくんなら信頼できると太鼓判を押していたにゃ。アンナさんがギルド本部にルデルくんのことを報告し、後の対応を伝えるにゃ」
「あ、ありがとうございます」
「今は大型クエストに対する準備を進めるといいにゃ。では、またにゃ!」
とりあえず、あらゆることがいったん解決に向かっている気がする。
ただ、まだ解決していない問題が1つだけあった。
「ライラ!」
「きゃあああ!?きゅ、急に驚かさないでよ!びびびびっくりするじゃない!」
「パーティしよう!」
****
「ルデルの無事と勝利を祝して…かんぱーい!」
「ライラと出会い、無事パーティを結成したことを祝して…乾杯!」
夜の【もみじ亭】の部屋の中で、僕とライラは祝杯を挙げる。
居酒屋で取り揃えた飲み物と食べもの、リンさんから送られた祝いの品を並べ、2人きりで過ごすことにしたのだ。
料理はライラの担当、その他行ら力仕事は僕が行う分担だ。
「もぐもぐ…うん、おいしい!最初はルデルが一杯買い込むからびっくりしたけど、なんとか形になったわね」
「いつの間にかお金が溜まっていたからびっくりしたよ。あはは」
「あはは、じゃすまない額だったけどね…」
実は、これまでの旅やクエスト受注で溜まっていたドロップアイテムを道具屋さんで換金したところ、かなりの額となったのだ。
ーえー。【魔のゼラチン】125個、【赤のゼラチン】が69個、【ゴブリンの首飾り】が89個、【オークの紋章】が35個…。合計で598ゴールドになります。
ーそ、そんなに!?2人でしばらく遊んでいける額じゃない!
ーいやあ、アイテムBOXってこんなに入っても軽いだから素敵だよね。不思議!
ー驚くところそこ!?
今日のパーティーを経てもまだまだ残っているから、装備の強化などにあてよう。
「ねえ。これ食べてみて。アタシの【ウマ耳族の里】の名物なの」
「ほう…【にんじんステーキ】ですか」
ライラが大皿に盛られた巨大なにんじんの塊を指差す。
にんじんはヴェルト大陸でもありふれた食べ物だが、それをまるごと1つとはなかなか大胆な料理である。
その一部をライラがナイフで綺麗に切り取り、おずおずと僕の口にもってくる。
「…あ、あーん」
「…」
「…いらない?」
「待った待った!食べる食べる!」
悲しそうな表情で首をかしげられたら食べるしかありません!
そのままパクリと食べる。
「…うまーーーーい!」
「ほんと!?」
「特にかかってるソースがおいしいよ。どうやって作ったの?」
「でしょでしょ?【ウマ耳族】のレシピによるとね…」
ライラの手料理を堪能しながら、夜はふけていくのだった。
****
「はぁ、おいしかったぁ。これだけ食べたのは久しぶりね〜」
「ああ。旅の途中じゃ質素な食事ができなかったし」
お腹を満たしたライラと共に、部屋のベッドに横たわる。
天井には、部屋を照らすランプがゆらゆらと揺れていた。
「ライラ。1つ伝えたいことがあるんだけど…」
「なーに?」
「好きだ」
「ふ〜ん。アタシが好きね…ぶふぉ!?」
ぴーん!
油断していたライラがせきこみ、ウマ尻尾がまっすぐに伸びる。
「すすすす好きって、どどどどういうこと!?」
「朝告白された時に僕も気づいた!ライラ・スカーレットのことが僕も好きだって!」
「あ、あれは寝言よ!思わず言っただけなの!」
「じゃあ、僕のことは嫌い?」
「うぐっ…」
パタンパタン。
しっぽが落ち着きなく動き、ライラが顔を覆った。
「そんなこと、急に言わないでよ。ばかぁ…」
「驚かせて悪い。
顔を真っ赤にしている。
そのまましばらく時が経過したが、僕はずっと待った。
そしてー、
「…アタシも、あなたが好きよ」
彼女の消え入りそうな声を聞く。
「だから、今度はルデルの方から…して」
そして、ゆっくり顔から両手を離した。
涙で潤んでいる艶やかな瞳。
朱色がほんのりと差した頬。
柔らかな唇。
「初めてだから…優しくね」
「ああ」
彼女の言葉と同時に、自分の唇をライラの唇へと重ねるのだった。
「ね、ルデル。もう一回しよ!」
「も、もう出ません…」
「いやだ〜〜〜〜もう一回〜〜〜!」
【ウマ耳族】はかなり体力がありました…がくっ。
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