第17話 イーサンをふるぼっこにしました(後編)

 スキルシート(338日目)


 名前:ルデル・ハート

 種族:人間

 レベル:15

 クラス:【目覚めの勇者】 アウェイキング・ブレイバー 

 ランク:C

 所属パーティ:【同じ道を歩む者たち】

 称号:【勇気ある者】【重荷を持つ者】【力を示す者】【戦いを運命付けられし者】【正義を示す者】

 レベルアップに必要な経験値: 23691/150000


 HP:1490/1500

 MP:120/120

 攻撃力:170+500

 防御力:158+500

 素早さ:150+360


 スキル:【神脚】~一歩歩くごとに経験値を獲得。歩いたり走ったりしても疲れにくい。

 戦技:【ソード・ストライク】【ストリーク・ストライク】【ジャイアント・ストライク】【ブーメラン・ストライク】【パニッシュメント・スラッシュ】

 アクティブ戦技:【エネミー・サーチ】【ラース】

 武器:【ショートソード】【皮の鎧】【蹄鉄のブーツ】


 ※【蹄鉄のブーツ】により【重荷を持つ者】が常時発動します

 ※【ラース】の効果が過去最高に高まっています


 本来なら致命傷になりかねないイーサンの罠だったが、【ラース】による強化もあり、ほとんどダメージにならなかった。


 僕が普通の状態だったら、それを喜んでいたかもしれない。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。




 僕だけでなく、ライラや他の善良な冒険者たちを搾取し、傷つけ、切り捨ててきたこいつを倒す。


 それだけだ。


 「ま、待つんだにゃ!」


 改めてイーサンに近寄ろうとした時、リンさんに声をかけられる。


 「なんですか…あなたでも止めるなら容赦はしない」

 「ひいっ!と、止めないのにゃ!ただ、イーサンは2度ルール違反を犯したにゃ。だから、ペナルティを設ける権利が与えられるにゃ!」

 「ペナルティ…」

 「2にゃ。ど、どうするにゃ?」

 「…」


 追い詰められたイーサンを見る。


 「も、もう降参する!なぁ?降参するよ。罪を認める。罪を認めるから許してくれえええええ!」


 予想した通りだが、勝ち目がないと知ったイーサンは逃げの体制に入っていた。

 もちろん、このまま降伏を認めてもこいつが反省するわけがない。

  

 こいつには、罰が必要だ。


 「じゃあ…ペナルティを設けます」

 「ど、どんなペナルティにゃ」


 こいつが逃げられないようにし、自らの罪を重さを知る必要がある。


 「1つ目。イーサンの自主的な降伏を認めないこと。僕が降伏を受け入れるまでは無制限に延長します」

 「も、もう一つは…?」


 僕はー、






 【ショートソード】を鞘に戻した。


 「ここからは、お互いに武器なしです。殴り合いで決着をつけます」



 ****



 「ななな殴り合いだとぉ!?」

 「武器や戦技を使えばお前をすぐ殺してしまうよイーサン。僕の目的は殺すことじゃない、罰を感じてもらうことなんだから」

 「な、舐めやがって…!おめえみたいなチビだったら、スキルや戦技なしなら、ボコボコにできるわあああああああ!」


 そうだ、それでいい。

 それがお前の本性なんだから。


 「うらあああああああああああっ!」


 【三日月の弓】を投げ捨て、イーサンは僕に殴りかかってくる。

 勢いよく走り、拳を血が出るほど握りしめ、目を血走らせながら。


 その拳をー、





 僕は防がなかった。


 「い、いぎゃああああああああああっ!?」


 イーサンの拳が勝手に割れたからだ。

 激痛に悲鳴をあげるかつての知り合いを眺めながら、僕は拳に力を込める。


 「これは…【適正の儀式】で侮辱された分!」

 「ごべあああああああああっ!?」


 腹部にパンチを食らわせ、【黄金の鎧】を一撃で砕く。

 衝撃が内蔵に届き、イーサンは血反吐を吐いた。


 「実績解放条件【打撃技でダメージを与える】を達成。新たな称号【徒手空拳で戦うもの】を獲得しました。特典として、打撃攻撃中は一歩の歩みで得られる経験値が増加します」

 「そうか…ちょうどいいな」


 【重荷を持つ者】、【戦いを運命付けられし者】と合わせ、経験値を上げやすくなる要素がまた増えた。


 でも、戦技発動中一歩ごとの経験値を増やす【力を示す者】はさすがにー、




 「【力を示す者】は武器無しでも発動できます。つまり、武器無しでも戦技を行使可能です」

 「…マジで?」

 「はい。なぜならー」


 【スキルシート】が平然と話す。




 「あなたのクラスは【勇者】ブレイバー、必要な武器は勇気のみなのですから」



  ****



 「も、もう嫌だあああああああっ!」


 逃げ出すイーサンの首根っこを掴み、僕は拳による戦技を発動した。


 「【ソード・ストライク】!!!」

 「おごぉぉおおぉ!!!」

 

 これは【かまなべ亭】の亭主に僕をこき使わせた分。

 捕らえた【高貴なる一団】による尋問で判明した。


 「【ストリーク・ストライク】!!!」

 「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」


 これは【動物使い】テイマーに僕を襲わせた分。


 「【ジャイアント・ストライク】!!!」

 「お…おごごごご…がっ!」


 これは門番に【試しの石】を使って妨害させた分。


 「【ブーメラン・ストライク】!!!」

 「も、もう…許して…ごぎばばば!!!」


 これは【高貴なる一団】の善良なメンバーから経験値を搾取し、自らの利益だけを追求して切り捨てた分。


 そしてー、


 「パニッシュメント…スラッアアアアアアアアアアッシュ!!!」


 これは関係ないライラを身勝手な復讐に巻き込み、命を危険にさらした分!


 パニッシュメント・スラッシュ〜邪悪な感情を持った存在に対し攻撃力5倍の物理ダメージ。


 「いぎゃああああああああああっ!!!」


 イーサンの体の各所に大穴が空き、バイブリーの平原をごろごろと転がっていく。


 「ぐがっ!!!」


 やがてとある大石に衝突し、完全に動きを止めた。


 「経験値の到達を確認。レベル16に上昇しました」


 3つの称号が合わさると、流石に凄まじいな。

 だが、それについてはあとで考えればいい。

 

 「アンナさん」

 「凄まじいな、少年は…」

 「彼に蘇生魔法をお願いします」

 「わ、分かった」


 アンナさんを杖を振ってなんらかの戦技を発動すると、イーサンが傷ひとつなく復活する。


 「…あ?へ?ほ?お、俺はどうなったんだ」

 「一度死んだ」

 「へあっ!?」


 顔を真っ青にしたイーサンが、すがるような目つきで見る。


 「じゃ…じゃあ、もう許してもらえますよね!?もう罰は与えませんよね?」

 「だめだ」

 「な、なんでだよおおおお!」


 肩をがっしりと掴み、拳に力を込める。




 「お前に人生を狂わされたものは数十人にも及ぶと聞いた。これだけじゃ…足りない!!!」

 「も、もうやらないから許してー」

 「ソード…ストラィィィィィィィィック!!!」

 「ぎゃああああああああああっ!」


 制裁→蘇生→制裁→蘇生の半無限ループ。

 僕は朝までイーサンを殴り続け、その分経験値は上昇し続けるのであった。



 ****



 「お…あ…い…」

 「蘇生させたのに反応がない、か。もう限界だな」

  

 朝日が登り始める。

 イーサンの目は虚ろで、もはや何も見てはいない。


 そろそろ潮時か。




 「ルデルーーーーーーーッ!」


 その時、後ろから懐かしい声が聞こえた。




 ライラだ。

 涙を流しこちらに走ってきている。


 僕が心配で来てくれたのだろう。

 寝ていないのだろうか、目にクマができている。


 「アタシ、どんな罰でも受けます!だから…ルデルの様子を教えてください!」


 これ以上は彼女にも迷惑か。

 仕方ない、あと一撃で終わらせよう。


 「イーサン」

 「…あ」

 「これまでの罪を悔いて、まじめに更生すると誓うか?」

 「ちか…い…ます。ごめ…んなさ…い」

 「信じよう。その言葉、忘れるなよ」

 「じゃあー」




 「いや、最後の一撃がまだだ」

 「…へ?」


 最後の技は決めていた。

 いや、技というのもおかしいが、イーサンにはぴったりの罰だろう。


 【蹄鉄のブーツ】に、力を込める。




 「はああああああああああああっ!」


 喉を枯らして全力で叫びー、

 

 「いやあああああああああああっ!」




 イーサンの股間を、鉄のブーツである【蹄鉄】で粉砕する。


 「tヴぃうあtvぃうshchぁいhぃhもおgほい!!!」




 【高貴なる一団】のリーダーは声にならない叫びを上げー、




 「…ごはぁ」


 地に倒れ伏した。



 「経験値の到達を確認。レベル20に到達しました」

 「【決闘】デュエルの勝者…ルデル・ハートッ!!!これにて終了にゃ!」

 「しょ、少年!そんなに勢いよく潰したら、蘇生魔法でも元に戻らないかも!」


 

 こうして、戦いは終わった。

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