第15話 ウマ耳娘とお風呂で汗を流しました

 「ど…どう?あんまり人前で見せてもらこと、ないんだけど…」


 湯船に浸かって待っていると、ライラがやってきた。

 

 すらりとした足。

 きめ細やかな肌。

 落ち着きなくぴくぴくと動くウマ耳と尻尾。


 そしてー、




 両手で大事なところは隠しているが、それでもはちきれんばかりの胸。


 「はぁ…はぁ…」


 荒い息を繰り返すライラの呼吸に合わせて胸も上下している。

 正直、かなりドキドキした。


 今日一日汗をかいたせいか、全身が汗で濡れているし…


 「それで…どうなのよ」

 「え?」

 「アタシのか…体を見てどうなのってこと!死ぬほど恥ずかしいんだからね!」 


 むすっとした表情を浮かべて身を乗り出すライラだったが、それによって胸を隠していた手が少しずれているのに気づいていない。


 と、とにかく早く答えてあげないと。


 「あ、ああ。と、とととてもきれいだよ。ライラ」

 「じゃあ、どれぐらい?」

 「…僕が人生で一番出会った女の人の中で一番」

 「ほんと?」

 「本当だ」


 尻尾をぴんと立つ。

 嬉しいのだ。


 出会ったばかりだけど、ライラの感情の機微がよく分かるようになってる。


 「な、なら、いいけど。感謝してよね!」

 「でも、どうして急にこんなことを…?」

 「…これも【ウマ耳族】の掟の1つなのよ。『2度命を助けられた相手とは裸の付き合いをする』って」


 ライラのほどよく筋肉がついた若々しい足が、ゆっくりと湯船に入っていく。


 「でも、それだけじゃない。ルデルとは出会ったばかりだけど、色々な体験を共にしたわ。だから、あなたとはゆっくり話したい。そう思ったの。悪い?」


 こちらに向き直り、丸くて形の良いお尻を湯船に落とした。

 形の良い鎖骨や首筋が、僕の目の前に現れる。


 「んんっ…!」

 「大丈夫?」

 「へ、平気。思ったより熱くてびっくりしただけ。それより、視線落としたら怒るからね」

 「僕の名誉にかけて誓います!」

 「もう…調子いいんだから」


 ライラは何度か呼吸をして落ち着いてた後、ゆっくりと口を開いた。


 「さ、話し合いましょう。あなたのこと、アタシのこと」

 

 

 ****

 


 その後、僕はライラは色々な話をした。


 互いの生い立ち、趣味、なぜ冒険者になったのかを改めて。

 それで分かったのだが、ライラは元いた【ウマ耳族】の里では目立つ存在だったらしい。


 「アタシがみんなの中で一番足が早かったの!都で開かれている競争競技に出ないかって興行主からスカウトこともあったわ」

 「すごいじゃないか。それは断ったのかい?」

 「アタシの家系は代々冒険者をやってたからね。そのまま15歳になって【蹴撃】のスキルを会得するはずが…って感じ。お姉ちゃんはちゃんと【蹴撃】を会得したのに不思議よねー」

 「苦労したんだな、ライラも。でも、風の【魔術師】として頑張るライラもかっこいいよ!凛々しいし」

 「どういたしまして。ま、今の道を選んでよかったわ。ルデルにも出会えたしね」


 僕のこれまでの経歴についても、ライラに包み隠さず話す。

 イーサンとは浅からぬ因縁があることも。


 だが、彼女が一番食いついたのは別の話題だった。


 「ぎ、ギルドの受付嬢と裸になってお風呂に入った〜〜〜???」

 「ひ、非常時だから仕方ないじゃかいか。別に、やましいことはしてないし?」

 「うぐぐぐぐ…ルデルってモテるのね。バイブリーの受付嬢のリンさんやアンナさんも気に入ってるみたいだし」

 「そうかな?」

 「そうよ!」


 ライラはビシッと僕を指差す。




 「あなたは、絶対いつか女の子を泣かすわ!色んな意味で!」

 「そんなことは、しない!」

 「いや、する!」

 「しない!」

 「するもん!」

 「ぐぬぬぬぬ…」 

 「むむむむむ…」


 狭いお風呂の中で裸になりなが子供のように睨み合う人間の僕と【ウマ耳族】のライラ。 


 「と、取り消して欲しいなら、アタシに『参った』って言わせることね」

 「参った?」

 「そう!」


 ライラはお風呂の中で器用に振り返り、僕に背を向ける。

 そして、形の良い耳をぱん!と両手で触った。


 濡れそぼった尻尾も、水の中から顔を出す。


 「朝は不意打ちで耳と尻尾を触られて変な声出しちゃったけど…今は全然大丈夫なんだからね!」

 「なるほど…なんだかそこ以外も触っちゃいそうだけど、いいんだな!?」

 「ど、ドーンと来なさい!」

 

 ここからは真剣勝負。


 僕とライラの、プライドをかけた勝負の始まりだ。



 ****


 

 「ひゃあああああああんっ!!!」


 数分後。

 結論から言うと、ライラはすでに参ったしそうだった。


 「んんんっ…だめ…そこは…」

 

 執拗に触られてる左耳をぴとっと頭につけて抵抗を試みているが、尻尾を優しく撫でると背中をのけぞらせ、耳も元に戻ってしまう。


 「んんんんんんんんっ…」


 右手の人差し指を噛んで、声を抑えようとする姿が可愛らしい。



 …ちょっとだけ、彼女に意地悪したい気持ちが湧いてきた。

じたばたと動かしてる形の良い両腕を、肘を使って動かせないようにする。


 「あ、やだ!両腕、ルデルの手、男の子の手だ…」

 「そろそろ、参ったしたほうがいいんじゃない?」

 「い、嫌…【ウマ耳族】は絶対参ったなんて…ひぐっ…言わないんだからっ…」

 「じゃあしょうがないな〜」


 パクッ。 


 「きゃあああああんっ!?」

 

 噛まないように気をつけながら、彼女の左耳を口に咥える。


 うん。


 昔飼っていた猫アクタンのように、ぷにぷにとして柔らかい。

 ちょっぴり汗の味もする。

 

 「ちょ、ちょっと!そんなの反則…ひいんっ!」

 「ハムハムハムハム…(触り方にはルールが作られてなかったし)」

 「何言ってるか分からない…ああんっ!声、我慢できないよぉ…」


 もはやガクガクと痙攣してるだけのライラは体がぐったりしており、僕に背中を預けている。


 抵抗する気力も萎えているのか、ほとんどされるがままの状態だ。

 左耳を咥えつつ右耳や尻尾に刺激を与えると、その瞬間だけ体がビクッと震える。


 「あっ…は…ぐっ…う…」


 徐々に意識が遠くなっているのか、全身もはや茹で蛸のように真っ赤っかで、目も虚ろだ。


 そろそろかな?


 「ひぐっ…このまままじゃ、ルデルに…また負かされちゃう…」

 「ぷはっ…じゃあ、参ったする?そろそろイーサンの決闘もあるし」

 「…やだ」


 ライラはぷいと横を向いた。

 知ってたけど、かなり負けず嫌いである。


 仕方ない。


 ちょっとだけ、強引に行くか。


 「じゃあ、耳と尻尾以外も触るからね」

 「え?ちょちょちょ…まさか?!」

 「そのまさかさ!」


 僕の両腕はー、




 ライラの両脇をくすぐり始めた。


 「あははははははは!いやだ、そこだめ…いひひひひひひ!」

 「ここは人間も弱い!くすぐられたら数秒ともたないぞ!」

 「ま、負けないんだから…いやっ、くくくくく…やっぱり無理いいいいい!」


 軽くライラの体を両足で拘束し、逃げられないようにする。

 そのままくすぐり続けているとー、




 「あ、ダメダメ…何か来ちゃう…来ちゃううううううっ!くぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 最後に大きく背筋をのけぞらせー、体を一段と痙攣させる。


 そしてー、




 「…あっ…はっ…もう、ダメ…参り、ましたっ…ガクリ」


 お風呂の中で、意識を失った。


 「ふう…なかなかの強敵だった」


 彼女をお姫様抱っこで抱え、僕は風呂場を出ることにした。



 ****


 

 「む〜〜〜…2回も命を救われて、2回もあなたに押し倒されて参ったされちゃった。複雑な感覚ね…」 

 「次は勝てるよ、きっと。はい、水」


 まだ頬の赤いライラに水を渡すとき、ごくごくと飲んだ。

 ん…何か忘れてるような。


 「あ。そうだ!イーサンとの決闘に行かないと!」


 慌てて宿を出ようとする僕だったがー、


 「…ねえ」


 ライラに袖を軽くつままれる。




 「絶対、帰ってきてよね。このままアタシ1人だけずっとこの部屋に残るなんて、そんなの、嫌よ…」

 「…ああ、約束する。だから泣かないで」

 「る、ルデルが心配で泣いてなんかないし!」

 

 振り返ると、ライラは目に少し涙を浮かべていた。

 軽く抱きしめて、頭を撫でてあげると、彼女の呼吸は少しずつ落ち着いていく。


 「じゃ、行ってくる」

 「うん。がんばってね。いや、絶対に、勝ってね!」

 「ああ」


 額に軽くキスをし、僕は指定された場所へと向かっていった。

 


 

 

 

 


 

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