第14話 ざまぁの裏側はこんな感じです

「そんなことがあったのにゃ…許せないにゃ!」


 闇討ちされてから数時間後。

 戦意を失って降伏した【高貴なる一団】のメンバーをギルド支部に連れてきた僕は、リンさんに事情を説明した。


 リンさんはまず怒りをあらわにした後、僕に心配の目を向ける。


 「それにしても怪我はなかったにゃ?」

 「はい!この通りピンピンしてます」

 「流石【目覚めの勇者】アウェイキング・ブレイバーと言ったところだにゃ。ライラさんも大丈夫かにゃ?」

 「ええ。ルデルがほとんどやっつけてくれました。すごかったです」

 「それは、何よりなのなゃ。【高貴なる一団】の素行の悪さは常々聞いていたけど、ギボンズ氏からの妨害があってなかなか手を打てなかっにゃ。申し訳ないにゃ」


 リンさんは深々と頭を下げた。


 「いいんですよ。リンさんの責任じゃありません。ところで今後についてですが…」


 僕はとりあえず床に寝かせている【高貴なる一団】の集団に目をやる。


 「ううう…」

 「あんなに強いなんて、聞いてねえ…」

 「喧嘩なんて、売るんじゃなかった…」


 チャーチルを倒した後、【盾持ち】タンク【僧侶】プリーストを含む何人かの攻撃も退けると、残りのメンバーは逃げ出した。


 もちろん追いかけて一人一人降伏させ、全員捕まえている。

 【幹部】と【新入り】で待遇が全く違うことも分かったため、【新入り】は捕まえるだけで手を出さなかった。


 「あんたがルデルって言うのかい?【高貴なる一団】のやり方は俺も気に食わなかったんだ。もしよかったら協力するぜ」

 「私も、あのイーサンってやつに強引に勧誘されて酷い目にあったわ。あなたが懲らしめてくれてスカッとした!」 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 偶然その場に居合わせた冒険者たちもイーサンの横暴にはうんざりしていたらしく、声をかけて激励やお礼をもらった。

 

 もちろん、僕もこのままイーサンを見逃すわけにはいかない。

 これ以上あいつの横暴により犠牲者を産まないためにも、ここでケリをつけなければ。


 「リンさん。僕はイーサンと【高貴なる一団】に対し提訴します。冒険者間のトラブルは、ギルド側がしかるべき処罰を下すのがならわしのはず」


 僕に続き、ライラも前に進み出る。


 「アタシもルデルのパーティの一団として一緒に提訴するわ。真っ当に努力しているルデルを逆恨みして、闇討ちしようとするなやて許せない!」

 「ライラ…」

 「何ボケッとした顔してるのよ。アタシたち、同じ絆で結ばれた仲間じゃない。でしょ?」


 怒りに身を忘れそうになるけど、ライラが笑顔で語りかけてくれるから、冷静でいられる。


 「ありがとう、ライラ」

 「礼なんていらないわ。当然のことをしたまでよ」

 「ライラ…」

 「ルデル…」

 「こほん。そういうのは嫌いじゃないけど、まずは話を進めるにゃ」


 気がつくと、リンさんは先ほどとは違い難しそうな表情を浮かべている。

 どうしたのだろうか。


 「提訴の申し出は、確かに受け取ったにゃ。ただし、もしかするとイーサンを罰するのは時間がかかる恐れがあるにゃ」

 「時間がかかる?なぜですか?」

 「それはー」




 「そこからは私が説明しましょう!」


 リンさんの言葉を遮って、ギルド本部に新たな人物が来訪する。


 そこにいたのは、小さな女の子。


 とんがり帽子に黒のドレスという出立ちで、活発そうな表情を浮かべている。

 右手には先端にルビーを埋め込んだ赤い杖を手にしており、炎魔法を使う【魔術師】エンチャンターであるとすぐ分かった。

 

 「私の名前はアンナ・ダミュード!【目覚めの勇者】が現れたという報告を聞いて、ギルド本部から派遣された【上級魔術師】ハイ・エンチャンターです!よろしくぅ!」

  

 【上級魔導士】ハイ・エンチャンター


 【魔術師】エンチャンターのなかでも高位魔法を極めた者のみが選択できる上位クラスで、転職した時点でAランクへの昇進が約束される。


 「早速【目覚めの勇者】アウェイキング・ブレイバーのついての話に入りましょう!と言いたいところですが、まずは面倒な問題を解決する必要がありそうですね!手を貸します!」

 「は、はあ…」


 かなりの実力者のはずだが、結構気さくな人である。



 ****



 「単刀直入に言いますと、ギボンズ氏はかつて勇者エアロンの旅路を支援した大貴族を先祖に持っており、冒険者ギルドにも強い影響力を持っているのです!」


 要するに、冒険者ギルドに直接訴えても、きちんとイーサンに処罰が下るか分からないということらしい。

 当然それに対し心を痛めている冒険者も大勢おり、アンナさんもその一人だ。


 「ですが、まだ主流派になるのは遠いと…」

 「そういうことですね!本当に面目ないです!恥ずかしい!」


 頭を下げて謝るときも、アンナさんは声を張り上げた。 

 良くも悪くも感情をストレートに出すタイプらしい。


 「じゃあ、どうすればいいんですか?ルデルは散々イーサンにひどい目に遭わされたのに、このまま泣き寝入りなんて、アタシ、許せません…」

 「ライラさんは、心優しい方なんですね!」

 「そ、そんなんじゃありません。同じパーティとひて当然のことです」

 「しかし、ルデルくん、方法はないわけではありませんよ!1つだけ、確実に制裁をくだす方法があります!」

 「それは、なんですか?」

 「すなわち【決闘】デュエルです!」


 アンナさんは杖で床をダン!と叩く。


 「冒険者同士のいざこざを決着させる最終手段として存在するのが【決闘】デュエルです!ルデルくんも聞いたことがありますよね?」

 「はい。本で読んだ記憶があります」


 互いに譲れない感情を抱えた冒険者同士は【決闘】デュエルで決着をつけるという古いならわしがある。


 立会人のもと、どちらかが戦闘能力を失うまで戦うだけのシンプルなルールだ。


 といっても、中立的かつ一定の権限を持った複数人の立会人が「この決闘に正当性がある」と判断しない限りは行えないため、無闇に実行できないようにはなっている。


 決闘を挑まれた方は、相手側の主張を全面的に認める以外決闘を下りることはできないし、認めない場合は挑まれた当日中に戦いを始める必要がある。


 もし逃亡すれば冒険者として権限を一切剥奪され、一生嘲笑される存在となるのだ。


 「もちろん、ルデルくんが嫌と言えばやりませんが、どうしますか!」

 「答えは、決まってます」


 イーサンはあらゆる卑怯な手を使ってくるだろう。

 だが、負けはしない。



 

 「今日、イーサンに決闘を申し込みます」


 

  ****



 「さあ、どうするイーサン。僕と決闘するか、それとも僕たちを襲撃した罪を潔く償うか。2つに1つだ」


 リンさんやアンナさんをはじめとする立会人の元、僕はイーサンを問い詰めた。


 「く、くくく…くそがぁ!なんでお前みたい無能と、この俺様が…お前なんかと!」


 1年ぶりの再会だが、邪悪な性格は何1つ変わっていない。

 容赦する必要はなさそうだ。


 「観念するにゃ、イーサン。ギボンズ氏は名誉を失った一族には厳しいにゃ。あなたは戦うしかないにゃ」

 「この…ああ!分かったよ!やってやるよお前と!今日の真夜中、バイブリー郊外の平原で勝負だ!」


 イーサンは荒々しくギルド支部を出て行く。

 チャーチル含む【高貴なる一団】は闇討ちの疑惑がかかっているため、たった1人で。


 いずれにせよ、話はまとまった。


 あとは戦うだけ。



 ****



 「というわけで、真夜中までここで休憩するのね」

 「ああ。ライラも疲れただろ?」


 一旦バイブリーの宿屋【もみじ亭】に部屋をとり、僕とライラはそこで滞在することにした。

 広いとは言えない1台のベッドに、2人で寝そべった。


 「とりあえず、何か食べる?」

 「そうね。それもいいけど…」

 「ん?って、ちょっと!?」


 ライラは、唐突に服を脱ぎ始めた。

 羽織っている【風のローブ】を脱ぎ捨てると、青いスカートを下ろし、半袖のシャツも脱ぎ捨てる。




 あっという間に、簡素な下着を履いているだけの状態となった。

 胸が下着からはちきれんばかりに押し出されており、ウマ耳としっぽがよく見える。




 「そ、その…アタシとお風呂に入らない?」

 


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