第13話 悪者を懲らしめました

 「イーサンが?」

 「ああ、だから助けー」

 「危ない!」


 続けて話そうとした【槍使い】ランサーの背後から新たな殺気。


 投げナイフが2本投擲され、僕と【槍使い】ランサーを同時に襲ったのだ。

 【ショートソード】ですかさず撃ち落とす。


 「ひいっ!助けてくれえええ!」


 【槍使い】ランサーは悲鳴をあげて逃げ出し、そのまま姿を消した。


 「ちっ!役立たずが。そのまま刺し違えればイーサンが金をはずんだろうに」


 木の影から【暗殺者】アサシンスタイルの男が姿を現す。

 鋭い刃を持つナイフを全身に装備しており、すぐにでも攻撃できる構えだ。


 「ははは!でもよぉ、その金は誰が受け取るんだ?」

 「もちろん、私たちに決まってるでしょ?ギャハハハハハ!!!」


 【盾持ち】タンクの巨漢と【神官】プリーストの金髪女も現れる。

 その全員に見覚えがあった。




 1年前、バースの街でイーサンとつるんでいた者たちだ。

 3人以外にも続々と殺気を帯びた冒険者が現れ、総勢20人ほどになる。

  

 「ライラ」

 「ええ。ルデルの背中は、アタシが守るわ」


 ライラと2人で固まり、臨戦態勢を取りながら【暗殺者】アサシンに声を掛けた。


 「僕はルデル・ハートだ。お前たちイーサンの【高貴なる一団】の仲間か?」

 「違うって言っても隠しようがないよなぁ?俺はチャーチル。【高貴なる一団】の一員だ。死ぬまでの間、覚えてもらえば幸いだぜ」


 僕たちを殺す。

 彼らの目的がはっきりした時、ライラが緋色の目を怒りに染め上げながら叫んだ。


 「アナタたち…同じ冒険者を闇討ちするなんて恥ずかしくないの!この卑怯者!」

 「仕方ねえだろ?イーサンは何故かそこのルデルがだからよぉ。お前もそいつとパーティ組んでるってんなら同罪だぜ」


 チャーチルの表情が、下卑たものに変わる。


 「【ウマ耳娘】は殺せとは言われてない。だから、ルデルが死んだ後はせいぜい堪能させてもらうぜ…強気な女がボロ雑巾になって、泣いて許しを乞うようになるのが楽しみだ」

 「ひっ…」


 奴の言葉が何を意味してるかは明白だ。

 ライラの表情が青ざめる。


 (関係のない者まで巻き込むのが、イーサンのやり方なのか…?)


 僕は頭に血が上りそうになったが、なんとか我慢し、ライラに呼びかけた。

 

 「ライラ、逃げてくれ。僕が食い止めてる間にバイブリーの衛兵やギルドに通報するんだ」

 「…いやよ」

 「え?」

 「そんなの嫌!」


 【妖精の杖】が緑色に輝き、僕の体を包み込む。

 疲れていた体に活力が戻り、力が湧いてきた。


 「これは、【癒しの風】…?」

 「言ったでしょルデル。あなたとは同じパーティーの一員として、命の恩人として、いつも一緒にいるって」

 

 ライラは、イーサンの下劣な集団に向け、一歩を踏み出す。


 「だから、何があっても最後まで離れないわ!」

 

 その覚悟を見て、僕も決意した。


 「分かった」




 何があっても、彼女には指一本触れさせないと。


 

 ****



 「ははははは!一年前ピーピー泣いてた負け犬が何言ってやがる!レベル10になったってのも嘘なんだろ?」


 一触即発の雰囲気の中で、チャーチルが一歩前に進み出た。


 「お前ら!悪いがこいつの相手は俺だけで充分だ。【ウマ耳娘】の方を仕留めろ!」

 「おいチャーチル!イーサンの賞金を横取りするつもりか!」」

 「うるせえよイワン。この場では俺がリーダーだ」


 【盾持ち】タンクの男を黙らせたチャーチルは手に3本のナイフを構えて戦闘態勢に入る。

 が、その直前で、僕のブーツが他とは違うことに気づいた。


 「お前…そのブーツ【蹄鉄】がついてるじゃねえか。横の【ウマ耳娘】のもんか?」

 「そうだ。彼女から今は借りている」

 「わざわざ素早さの下がるもん履くとか正気かぁ?くははははは!イーサンもこんな奴を恐れるとかタマの小さい奴だなぁ!」

 「…1つ、聞かせろ」

 「あ?」

 「どうしてイーサンに従う。あいつは、お前たちも道具のようにしか思ってないはずだ」

 「しれたことよ!」


 チャーチルはゲラゲラと笑った。


 「あいつは他人から強引に経験値を奪うクズ野郎だ。だがな、あいつの言うことさえ聞いてれば金をくれる」

 「…経験値をもらえないなら、お前も成長できないんだぞ?」

 「俺は新人冒険者を騙して何人か強引に入団させたから、その功績で経験値が貰えるんだよ。もっとも、そいつらはとうの昔に使い潰されて死んだがな」

 「…そうか。お前という人間がよく分かったよ」 

 

 冒険者という職業は、もっと尊いものだと思っていた。

 ただ自己の利益のみを求めるチャーチルの姿に、今は怒りしか感じない。


 「何を強がってやがる。そろそろおしゃべりは終わりだ!【ハイスピード】!」


 【暗殺者】アサシンのスキルを発動させ、チャーチルは僕の周囲を目まぐるしく移動し始めた。


 木の枝に飛び移ったかと思えば、次は下の地面へ、その次は草むらへ。

 僕を撹乱しつつ、徐々に近づいていく。


 「こいつはレベル10になった者にしか使えない戦技。【蹄鉄】履いた嘘つきノロマには補足できねえだろ!何も見えないまま死んでいけ!」


 僕は【ショートソード】を抜きー、






 チャーチルの右腕を切り落とした。


 

 ****



 「…へ?」

 「どうした。簡単に捕捉できたぞ」

 「ひ…ひ…ひぎゃああああああっ!」

 「お前のいう通り、僕は【蹄鉄】で素早さがやや下がっている。でもお前のノロい【ハイスピード】は止まって見えるな」  

 「い、嫌だ!助けてえええええっ!」


 チャーチルは完全に戦意を失い、後ずさる。

 その首根っこを押さえつけ、【ショートソード】を突きつけた。


 「ライラを侮辱し、辱めようとしたことを謝罪しろ。そうすれば命は助けてやる」

 「はひぃ…じにだぐない」

 「早くしろ!」

 「す、すみませんでしたぁぁぁ!だから、殺さないで…ぐふぅ!」


 僕はチャーチルの体を【神官】プリーストの女の方に投げ捨てた。

 【神官】プリーストが回復魔法を即座に発動すれば、切られたばかりの腕を治せる可能性はある。


 後のことは好きにすればいい。


 「う、嘘だ。イーサン以外で唯一のレベル10だったチャーチルを…」

 「一瞬で倒しやがった。戦技も発動してないのに!」


 リーダーを失った【高貴なる一団】は動揺し、後退を始める。


 「「実績解放条件【対人戦で勝利する】を達成。新たな称号【正義を示す者】を獲得しました。特典としてアクティブ戦技【ラース】を取得。使用者の怒りに応じてステータスを上昇させます」


 

 =====



 スキルシート(337日目)


 名前:ルデル・ハート

 種族:人間

 レベル:14

 クラス:【目覚めの勇者】 アウェイキング・ブレイバー

 ランク:C

 所属パーティ:【同じ道を歩む者たち】

 称号:【勇気ある者】【重荷を持つ者】【力を示す者】【戦いを運命付けられし者】【正義を示す者】

 レベルアップに必要な経験値:56879/135000


 HP:1300/1300

 MP:90/90

 攻撃力:150+200

 防御力:142+200

 素早さ:135+160


 スキル:【神脚】~一歩歩くごとに経験値を獲得。歩いたり走ったりしても疲れにくい。

 戦技:【ソード・ストライク】【ストリーク・ストライク】【ジャイアント・ストライク】【ブーメラン・ストライク】

 アクティブ戦技:【エネミー・サーチ】【ラース】

 武器:【ショートソード】【皮の鎧】【蹄鉄のブーツ】


 ※【蹄鉄のブーツ】により【重荷を持つ者】が常時発動します

 ※【ラース】の影響を強く受けています


 =====

 

 称号により戦技を獲得するのは初めてのケースだったが、どうでもいいことだった。


 


 「さあ、どこからでもかかってこい」


 今はただ、正義を示すのみ。

 

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