第12話 オーク相手に無双しました

 「グガァァァァ?」

 「グガ…」

 「グガーッ!!!」


 挨拶がわりに1体を倒すと、森の中からオークが続々と姿を表した。

 100匹以上はいるだろう。


 それぞれ武器を携え、続々とやってくる。


 【はぐれモンスター】だけでもこれだけの数がいるのは、かなり異例のことのはずだ。


 「ライラ!」

 「ええ!」


 その集団に2人で思い切り突っ込む。

 まずは、先頭の方でメイスを構えている一体。


 戦技を発動せず、そのまま【ショートソード】で切り込んだ。


 「グガァァァァッ…」


 肩から下を袈裟斬りにされたオークが鈍い悲鳴を上げて倒れ込む。

 

 数日前なら、一撃で倒すには戦技の発動が必要だった。

 今なら、裸のオークなら戦技は必要ない。


 「【ソード・ストライク】!」


 金属製の鎧を着込んでいた3体目は戦技を発動して確実に仕留めた。

 

 「「「グガァァァァァァァァァァッ!!!」」」


 1体では叶わぬと見て一斉にかかってくる相手に対してはー、




 「【ストリーク・ストライク】!」


 複数体を一斉に攻撃する戦技で吹き飛ばした。

 攻撃力が増加しているため、オークレベルなら瞬殺するのになんら問題はない。




 レベルアップに必要な経験値:2038→32389




 【スキルシート】をチラリと見ると、一連の戦闘だけで20000近く経験値を獲得している。


 (すごいな…冒険者の数ヶ月分の経験をこの戦闘だけで達成している)


 ー重量に応じて一歩ごとの経験値を増やす【重荷を持つ者】


ー戦技を発動中に一歩ごとの経験値を増やす【力を示す者】


ー戦闘中に一歩ごとの経験値を増やす【戦いを運命付けられし者】


 これらの称号が重複してボーナスを与えているためだろう。


 僕は確実に強くなっている。 

 イーサンなど問題にならないレベルまで。




 「まったく、アタシの分の獲物も残しておいてよね!【トーネード】!」


 ライラも負けていない。

 【妖精の杖】から竜巻を起こす風魔法を放ち、新手の放ってきた弓矢を跳ね返す。


 「グガァッ!」

 「残念。オークごときに遅れをとるつもりはないわ!【ウィンド】!」


 持ち前の素早さで反撃を仕掛けてきたオークの攻撃も交わし、なんなく仕留めた。

 【蹄鉄】を脱いだ彼女はとてもイキイキとしている。


 「グ…ガ…」


 僕とライラの無双に恐れをなしたオークの群れは、じりじりと後退を始めた。


 「逃がすか!」

 「待ってルデル!あれ…!」

 「【レッドウルフ】か?」

 「ええ、逃げるつもりだわ」


 オークたちは後方で係留していた巨大な山犬型モンスター、【レッドウルフ】数十匹に乗り込んで続々と逃走を始めた。


 「アオオオオオオンンン!」


 深紅の狼の群れはあっという間に距離を離していく。

 森の奥に逃したら厄介だ。


 「こほん。こういう時こそ、アタシの出番ね」

 「考えがあるのかい?」

 「ええ。空中浮遊は好き?」

 「嫌いじゃない」

 「じゃあ、問題ないわね。【エアライド】!」

 

 ライラが新たな魔法を唱えると、突然僕の体は浮遊し始める。

 

 若木の背丈を超え、大木の頂上を追い越し、森全体を見渡せる位置にまできた。


 ここなら、必死に逃げていくオークとレッドウルフが巻き起こす粉塵がよく見えた。


 遅れて、ライラも空中を浮遊して合流する。

 

 「なるほど、こりゃ便利だ!」

 「どう?風魔法は支援に長けたスキルも多いから…あなたがどうしてもって言うなら追加で覚えるけど」

 「ああ!君とパーティーを組めて本当によかった!」

 「…嬉しい」

 「なんか言った?」

 「な、なんでもない!さ、逃げられる前に行くわよ!」

 

 僕とライラの体は空中での移動を開始する。


 ぐんぐんオークの群れに追いついていくと、僕は先頭を走る一体を【ショートソード】で薙ぎ払う。


 「グガっ!?」

 「グガガ〜!」


 たまらずオークはレッドウルフから転げ落ち、主を失った山犬が足を止めた。


 「今だ!」

 「ええ!【トーネード】!」


 他の山犬も続々と停止する中、ライラが列の最後尾に竜巻を放った。

 

 MPが尽きるか解除しない限り竜巻は残り続けるため、オークたちの逃げ場は完全になくなる。


 「グ…ガガガ…ガガ…」

 「終わりにしよう、オーク。僕たちは逃げも隠れもしない」

 

 戦意を失ったオークたちに向け、僕は再び走り出す。




 そこからは、あまりよく覚えていない。


 「経験値が上限に達しました。レベル12にアップします」


 「経験値が上限に達しました。レベル13にアップします。ランクCに昇格」


 「経験値が上限に達しました。レベル14にアップします。新たな戦技【ブーメラン・ストライク】を取得」


 ひたすら上がっていくとレベルアップの心地よさとー、


 「ルデルの役に立つ風魔法…ふふふ、絶対に身につけてやるんだから!」


 ライラのつぶやきだけしか頭に残らなかった。



 ****



 「これで、終わり!」


 最後に残った一際大きいオークを【ショートソード】で仕留めると、森の中は完全な静寂に包まれる。


 「もしかして、今のがオークキング?」

 「そうみたいね。これでクエストもクリア、だわ…」



  

 「「疲れた〜〜〜!」」

 僕とライラが倒れ込むタイミングはほぼ同時。


 【神脚】があっても戦闘の疲れは癒してくれないらしい。

 でも、疲れ以上の充実感があった。


 =====



 スキルシート(337日目)


 名前:ルデル・ハート

 種族:人間

 レベル:14

 クラス:【目覚めの勇者】 アウェイキング・ブレイバー

 ランク:C

 所属パーティ:【同じ道を歩む者たち】

 称号:【勇気ある者】【重荷を持つ者】【力を示す者】【戦いを運命付けられし者】

 レベルアップに必要な経験値:36589/135000


 HP:1300/1300

 MP:90/90

 攻撃力:150+5

 防御力:142+5

 素早さ:135−40


 スキル:【神脚】~一歩歩くごとに経験値を獲得。歩いたり走ったりしても疲れにくい。

 戦技:【ソード・ストライク】【ストリーク・ストライク】【ジャイアント・ストライク】【ブーメラン・ストライク】

 アクティブ戦技:【エネミー・サーチ】

 武器:【ショートソード】【皮の鎧】【蹄鉄のブーツ】


 ※【蹄鉄のブーツ】により【重荷を持つ者】が常時発動します



 =====

 

 今日だけでレベルが4も上がっている。

 また明日も上がり、僕は強くなるだろう。


 「あ!アタシもレベル10になってる!」

 「おめでとう!何か変化はあった?」

 「【癒しの風】…回復魔法ね。願いが叶ってよかったわ」


 ライラと一緒に。


 「はあ、はあ…いつぶりかしら、こんなに全力で走ったのは」

 

 ライラの方をチラリと見ると、額から汗を流し、頬を赤く染め、大きな胸を上下させている。

 息苦しいのか、いつもはきりりと結ばれた口が少し開き、八重歯がよく見えた。


 大きなウマ耳も汗に濡れており、太陽に反射してキラキラと輝いている。


 思わず、その大きな耳に手を伸ばした。

 

 うん、やっぱり柔らかい。


 「あんっ!も、もう、耳は弱いって言ってるでしょ」

 「ごめん、つい」

 「い、いいけど。ルデルなら、特別だから…」

 

 あれ?

 予想に反して、ライラは嫌がらなかった。


 それどころか、こちらにそっと顔を寄せてくる。

 潤んだ緋色の瞳に見つめられ、身動きが取れない。


 「…なんだか、変な気分」  

 「ああ、僕もだ」


 寝転んだまま、僕とライラは唇を寄せていく。



 そしてー、




 「【ブーメラン・ストライク】!」

 「ぎゃああああ!」


 【ショートソード】を投げ、今にも襲い掛からんとした【槍使い】ランサーの槍を弾き飛ばした。

 【ブーメラン・ストライク】の名の通り、僕の剣は手元に戻ってくる。


 「敵!?」

 「いや、ちょっと違うらしい」


 腰を抜かしてる【槍使い】ランサーに剣を突きつけた。

 体格、武装共に平凡だが、怯え切っている。


 「誰だ?」

 「ひっ!な、なんで俺が分かったんだ!?」

 「さあね」

 

 【エネミー・サーチ】が感じる敵意はモンスターのみとは限らない。

 それを説明する必要はないだろう。


 「た、助けてくれ!俺は金で命令されただけなんだ!」


 【槍使い】ランサーは哀願する。



 

 「イーサン・ギボンズに頼まれたんだよぉ!金を出すからお前を倒せって!」

 

 


 

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