第10話 ウマ耳娘の悩みを知りました

「と、とにかくこの件はギルド本部に報告しておくにゃ。本部の者から指示があるだろうから、それに従うといいにゃ!」

 「は、はい!」


 他の選択肢もないため、そのまま【目覚めの勇者】にアウェイキング・ブレイバー転職することとなった。


 新たに獲得した称号【戦いを運命付けられし者】は、敵対者と戦闘中に一歩ごとの経験値を増やす効果である。

 【エネミー・サーチ】は常に発動しているアクティブ戦技で、自分に敵意を向けてくる者を探知できるらしい。


 …ん待てよ?


 重くなるごとに経験値が増える【重荷を持つ者】。 

 戦技を発動中に経験値が増える【力を示す者】。


 戦闘中に経験値が増える【戦いを運命づけられし者】。


 これ全部重複するから、とりあえずモンスターと戦いまくっていたらどんどん上がっていくのでは?


 (早速、これが終わったらレベル上げに行かないと!)

 

 更なる高速レベルアップが実現するなら、それに越したことはない。

 もっとレベルを上げていって、いつかイーサンを見返してやるんだ。


 「はい、これで転職の手続きは完了にゃ。次はライラ・スカーレットさんの番にゃ」

 「ありがとうございます!」

 「…次はアタシね」

 

 リンさんから書類を受け取り、僕は後ろに下がる。

 ライラは【スキルシート】を差し出し、リンさんに見せた。


 「ふーむ…ルデルさんほどじゃないけど、一年ちょっとにしてはかなりのステータスにゃ。でも、まだレベル10じゃないので転職はできないにゃ」

 「それは、自分でも分かってる。レベル10になる前に聞いておきたいことがあったの」

 「聞きたいこと…?」

 「ええ、アタシ本当は【蹴撃士】キッカーを目指してるの」

 「【武道家】アルティメーターの上位種に…?珍しいパターンにゃ」

 「だから、今のうちにそれが可能か聞いておきたい。できないのにレベル10になっても悲しいじゃない?」

 「そういうことね。単刀直入にいうと…」


 リンさんは残念そうな表情を浮かべる。


 「それは、できないにゃ」

 「…!」

 「理由は2つあるにゃ。1つ目はオーソドックスな理由、最初に選択した【魔術師】エンチャンターから遠く離れすぎているにゃ。スキルが【風神の加護】である以上仕方ないけどにゃ」

 「もう1つは?」

 「それは、おそらく自分でも知っているはずにゃ」




 リンさんは続けて、ライラのブーツを指さした。 

 底に金属を仕込んだ、少女には重すぎる代物を。


 


 「ライラさんは【蹴撃士】キッカーになるためのスキル【蹴撃】を取得してないにゃ。普通【ウマ耳族】ならほとんど【蹴撃】スキルを授かるはずなのに不思議にゃ」

 「やっぱり、そうか。最初にハズレスキルを引いたら、どうにもならないのね」


 ライラの耳がぺたんと垂れ下がり、尻尾も丸まって小さくなる。




 「分かったわ。じゃあ、何もしなくていい」

 「気を落とすことはないにゃ。風魔法も極めればいつか…」

 「それじゃだめなのよ。アタシは」


 ライラは手をギュッと握りしめたが、やがて全てを諦めたかのように力を抜く。




 「【ウマ耳族】が【蹴撃士】キッカーになれないんて、恥ずかしいじゃない…」


 その手にはマメとタコがたくさん浮かんでいた。


 

 ****



 「【ウマ耳族】はね、みんな15歳になったら【蹴撃】のスキルを取得するの。【蹄鉄】を履いても素早さが下がらないし、強力な蹴り技を使う【蹴撃士】キッカーにもなれるスキル」


 転職の続きは終わり、次は大型クエストの手続きを行う必要がある。

 自分の順番が来るのを待つ間、落ち込んでいるライラから話を聞いた。


 「でも、ライラは【風神の加護】だったと」

 「ええ。親しい人は慰めてくれたけど、アタシを馬鹿にする人もい大勢いた。なんとか【蹄鉄】だけは履いてみたけど、素早さが下がっちゃって他の人についていけない。だから、一人で旅に出ることにしたの」

 「そうだったのか…」

 「でも、おちこぼれの旅はもうおしまい」


 ライラが立ち上がり、ギルドから去っていこうとする。


 「これ以上レベル上げたって、アタシは【蹴撃士】キッカーになれない。だから、【ウマ耳族】の里に、帰るわ」

 

 僕は彼女のしょんぼりした背中をじっと見つめた。


 破れた箇所を裁縫で治した【風のローブ】。

 あちこち欠けた部分がある【妖精の杖】。


 レベル5にも行けず引退する冒険者もいる中で、1人でレベル9まで行くのは並大抵の苦労ではなかっただろう。


 そんな彼女が、全てを諦め、挫折し帰ろうとしている。




 まるで、【健脚】が【神脚】になる前の自分のように。


 だから僕はー、




 「引き止めても無駄よ。アタシは…ひいん!?」


 背中をさらりとくすぐった。



 ****



 「ちょっと、またあなたは女の子の体を…あははははははは!?くふふふ…!」

 「うん。やっぱりライラは笑ってる方が可愛いよ。暗い顔は似合わない」

 「 な…こんな時に、うぷぷ、口説くなんて…あー、もう無理いいいいっ!あはははは…!」


 彼女に元気(?)を取り戻してもらってから、僕は彼女の背中をくすぐるのをやめる。

 大笑いしたせいか、耳がピンク色に染まっていた。


 「はあ、はあ…不意打ちは卑怯よ!今後は禁止!そ、それに口説くのも禁止!次やったら吹っ飛ばすから!」

 「前半は守るよ。後半は保証できないけど」

 「ぐぬぬぬぬ…」


 八重歯を見せながら怒るライラも可愛い。


 でも、ここからが本番だ。


 「ライラ。僕は、君が何もかも諦めて冒険を見てしまう姿を見るのが見たくない。【蹴撃】がなくても、君は風魔法を使う【魔術師】エンチャンターとしてずっと努力してた。1年間でレベル9になるまで。それなのに諦めてしまうだなんて、もったいないよ」

 「…転職したら、もしかすると状況が変わるかもと思っただけよ。でも、変わらなかった」

 「このまま終われば、君は馬鹿にしてきたみんなを見返すことができない。それでもいいの?」

 「良くないわよ!でも、【魔術師】エンチャンターとしてのスキルしかないんじゃー」

 「じゃあ、いっそのこと【魔術師】エンチャンターを極めればいい」

 「極める…」

 「ああ」


 右手を差し出して、彼女に呼びかける。




 「僕とパーティーを組まないか?経験値は折半だ。僕にもライラにも見返したい人がいる。目的を達成するために同盟を結ぼう」


 

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