第9話 特別なクラスに転職しました

 バイブリーの中心部にあるギルド支部に到着すると、手続きや相談にやってきた冒険者たちでごった返していた。


 「大型クエスト参加希望の方はこちらでーす!」

 「転職希望の方はこちらの窓口からお受付しますので、呼ばれた方から来てください!」


 受付嬢がやってきた人間、耳の尖ったエルフ、背は低いが筋骨隆々のドワーフ、ネコ耳を備えた亜人一人一人に対し忙しそうに対応している。 


 「ねえ、流石におろして欲しいんだけど…恥ずかしいじゃない」

 「あ、そうだね」


 両腕の中で大人しくしていたライラが抗議の声をあげたので、ゆっくりと降ろす。

 

 「ん〜〜〜…」


 少し伸びをすると、それに連動して耳と尻尾もピョコリと伸びる。


 「ふう、常に大地に立つことが【ウマ耳族】の誇りなのに、男の子にずっと抱き抱えられるなんて複雑な気分だわ…嫌じゃないけど」

 「なんならいつでもオッケーさ!その重さがちょうどいいー」

 「ちょっと!あんまり女の子に重い重い言わないの」


 顔を赤くしたライラに【妖精の杖】でこつんと頭を叩かれる。

 本気ではなく、ちょっとした照れ隠しのつもりなのだろう。

 

 「あはは、ごめんごめん」

 「で、あなたはどうするの?

 「大型クエスト参加と転職、両方するつもり。ライラは?」

 「アタシは、転職だけかな」

 「じゃあ、とりあえず転職だけ一緒に手続きしよう。ここで出会ったのも何かの縁だし」

 「…そうね。【ウマ耳族】の掟にもあるわ。『どんな時でも、一番大切なのは縁』だって」


 ライラがすっと手を差し出し、軽く笑みを浮かべる。



 出会ってから初めて見る笑顔だった。


 「よろしくね、ルデル」



  ****

 


 「受付嬢のリンにゃ!今日はよろしくにゃ!」


 手続き後、しばらく待ってから通された個室には、灰色の猫耳を備えた【ネコ耳族】のリンさんがいた。


 「よろしく!ルデル・ハートです」

 「うむ!ところで、後ろにいる【ウマ耳族】の人はお友達かにゃ?」

 「気にしないで。ちょっと連れ合いよ」

 「ふーむ…孤高を好む【ウマ耳族】の娘にしては珍しいにゃ。まあいいかにゃ」


 リンさんは僕に向き直り、資料を見せて説明を始める。


 「レベル10になると冒険者は転職をする権利を得られるにゃ。でも、それは何にでもなれるわけじゃなくて、最初に選択した基本クラスの影響を受けるにゃ」


 資料には、リンさんの説明する基本クラスの説明がイラスト付きで載っている。


1.【剣士】セイバー


 剣で戦うオーソドックスなクラス。バランスが良い。


2.【槍使い】ランサー


 素早さとリーチに勝るクラス。防御力は低め。


3.【武道家】アルティメーター


 己の肉体を最大限活かした戦闘スタイルを取るクラス。リーチの短さが弱点。


4.【弓兵】アーチャー


  MPを消費せず遠距離攻撃を行えるクラス。ただし矢を定期的に購入する必要がある。


5.【魔術師】エンチャンター


 MPを消費して強力な魔法攻撃を放つ遠距離系クラス。炎・水・風・土・光・闇の6属性が存在する。


6.【盾持ち】タンク


 高い防御力でモンスターの攻撃を受け止め、拘束する補助クラス。盾を打撃武器として使う者も存在する。


7.【神官】プリースト


 バフ・デバフや回復魔法をかける補助クラス。戦闘能力はほとんどない。


8.【盗賊】シーフ


 ダンジョンの罠解除や宝箱発見を行う補助クラス。【暗殺者】の戦技を覚えることもできる。


9.【暗殺者】アサシン


 奇襲や闇討ちに特化した補助・戦闘クラス。【盗賊】の戦技を覚えることもできる。

 

10.【荷物持ち】ポーター


 特になし。


 ※【剣士】セイバーから【狂戦士】バーサーカーといったように、転職は最初に選択したクラスの上位種を目指すのが基本。


 ※【魔術師エンチャンター】から【神官】プリースト【剣士】セイバーから【槍使い】ランサーなど戦闘スタイルが類似するクラスにチェンジすることもできるが、新たに戦技を覚え直す必要がある。


 「仕組みは分かりましたが、あの、【荷物持ち】ポーターって説明とか何もないんですか…?転職とかは?」

 「誰でもなれるクラスである以上仕方ないにゃ。転職したら【踊り子】ダンサーとか【道化師】クラウンとかになれるらしいにゃよ」

 「【踊り子】ダンサー!?」

 

 そんなもん転職しなくてもなれるじゃねーか!

 

 と叫びたくなる気持ちを抑える。

 

 「し、仕方ないですね。とりあえず転職してみたいんですけど、どうすればいいですか?」

 「簡単にゃ!」


 リンさんは隅っこに立てかけられた鏡台を指差す。

 くすんだり歪んで見える粗悪品ではなく、ピカピカに磨き上げられたものだ。


 「これは勇者エアロンが辺境から持ち帰ったとされる金属、【オリハルコン】の一部を磨き上げた【真実の鏡】にゃ!ここに立って転職したいと願った時、冒険者にあった転職先が表示される仕組みにゃ!」

 「分かりました。とにかく、やってみましょう」


 僕は【真実の鏡】の前に立ち、呼吸を整えた。

 半分運任せである以上、身を任せるしない。


 「【真実の鏡】よ!この冒険者に相応しい適職を授けるにゃ!」


 鏡が光り輝き、周囲の光景が見えなくなる。

 


 

 僕は、心の中で1つだけ注文をつけた。




 


 間違っても【弓兵】アーチャーだけにはなりませんように…



 ****


  

 やがて【真実の鏡】の輝きが収まり、鏡面に1つの文字が浮かぶ。




 ー【目覚めの勇者】アウェイキング・ブレイバー


 なんだろ?これ。

 クラス名なのかな。


 思わず手を伸ばしてその文字に触れると、【スキルシート】が新たな情報を僕に告げる。


 「【目覚めの勇者】アウェイキング・ブレイバーへの転職を確認。転職ボーナスとして、新たなアクティブ戦技【エネミー・サーチ】および称号【戦いを運命づけられし者】を取得しました」


  =====



 スキルシート(337日目)


 名前:ルデル・ハート

 種族:人間

 レベル:10

 クラス:【目覚めの勇者】アウェイキング・ブレイバー

 ランク:D

 所属パーティ:なし

 称号:【勇気ある者】【重荷を持つ者】【力を示す者】【戦いを運命づけられし者】

 レベルアップに必要な経験値:16985/90000


 HP:900/900

 MP:60/60

 攻撃力:110+5

 防御力:113+5

 素早さ:113


 スキル:【神脚】~一歩歩くごとに経験値を獲得。歩いたり走ったりしても疲れにくい。

 戦技:【ソード・ストライク】【ストリーク・ストライク】【ジャイアント・ストライク】【エネミー・サーチ】

 武器:【ショートソード】【皮の鎧】



 =====


 

 おお!

 なんだかかっこいいクラスに変わってる!


 でもさっきの説明にはなかったクラス名のような…




 「ひっ、ひええええええええっ!?」


 その時、リンさんが情けない悲鳴をあげて腰を抜かした。

 額に汗をびっしょりかき、あわあわとしている。


 「ど、どうしたんですか?」

 「どうしたもこうしたもないにゃ!ルデルくん、どうやってこのクラスに転職できたにゃ!?」

 「そりゃ【真実の鏡】を使って…」

 「普通ならそれはできないはずにゃ!」

 

 そう叫ぶと、新たな資料を僕に提示する。


 


 EX【勇者】ブレイバー


 かつて存在した勇者エアロンのみが選択できたクラス。現在は誰も転職することができない。


 「【目覚めの勇者】アウェイキング・ブレイバーは、この【勇者】ブレイバーのクラスに該当するにゃ!このクラスを選択できるのは…ルデル・ハートくん!君だけにゃー!」


 



 

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