第8話 僕だけ覚える技が強いみたいです

 「ルデル・ハート?」

 「ああ。大型クエストに参加するために来たものだ。通してくれ」


 ライラを背負いながら(胸の感触を背中に感じてどぎまぎしたのは内緒だ)歩き始めて1時間。


 バイブリーの城門の前には、貧相な顔つきをした門番が一人立っていた。 

 ライラを背負っている僕の名前を聞くなり、少し顔つきを変える。


 「構わないが、あんた冒険者なんだろ?なら条件があるぜ」

 「条件?」

 「そこの石を自力で破壊することだ」


 門のそばにそびえ立つ大きな岩を、門番は指さす。


 「はぁ?」

 「はぁ?じゃねえよ。お前も知ってるだろ?この地を通過した勇者エアロンも軽々と破壊したといわれる【試しの石】だ。あれはレプリカだけどな。バイブリーに入る冒険者は、まずこの石を破壊して自らの力を示すのがならわしなんだぜ」

 「それってかなり昔のならわしで、今はやってないと聞いたんですけど…?」

 「できねえなら帰るこったな。この石を壊すのに必要な物理ダメージ300も出せねえやつはどうせ冒険者として成功しない。ま、どんな天才でもレベル20以上は必要だがな。はははははは!」

 「あ、それぐらいでいいんですか?」

 「…え?」

 「それぐらい、レベル10ぐらいあれば誰でも簡単にできると思うんですけど」

 「や、やれるもんならやってみろ!できたら弁償でもなんでもしてやる!」


 一瞬どうしようかと思ったけど、それぐらいなら何とかなりそうだ。


 「悪いけど、ちょっとここにいてくれ」

 「…ううん」


 まだ寝ぼけているライラをゆっくりと降ろし、僕は【ショートソード】を携えた。



 ****



 神経を集中し、呼吸を整えて構えの姿勢を取る。

 目標は、前面に立ち塞がる石。


 ここまで巨大なものを相手にするのは初めてだけど、ここで立ち止まるわけにはいかない。


 「【ソード・ストライク】!」


 何度も使っている手慣れた戦技を発動し、【ショートソード】を構えて思い切り走り出す。

 

 策や工夫はあの石は通じないだろう。




 ここまで歩いてきた自分の実力を信じて、叩きつけるだけ!


 「はああああああああっ!」


 【ショートソード】を叩きおらんばかりの勢いで、剣を横になぐ。


 スライムとは段違いの衝撃が腕を襲うが、そのまま強引に振りぬけた。


 するとー、



 ズゥゥゥゥゥゥン…


 地鳴りのような轟音と共に石は倒れ、砕け散った。


 「【ストリーク・ストライク!】


 飛び散る破片も粉砕し、周囲に被害が及ばないようにすることも忘れない。


 「よし!これで試験は合格ですね」

 「す、すげえ…レベル10程度で物理ダメージ300超えって、あんた一体…」

 「よく分かりませんが、通してもらいますよ」

 「ひ、ひいいいいいいい!ご自由にいいいいいいい!」


 門番はなぜか腰を抜かして逃げていったが、まあいいだろう。


 「実績解放条件、【試しの石を破壊する】を達成。新たなる称号【力を示す者】を獲得しました。以降、戦技を発動中は経験値獲得にボーナスが入ります。追加ボーナスとして戦技【ジャイアント・ストライク】を取得。モンスターが巨大であればあるほど、大きな物理ダメージを与える戦技です」

 「やったぁ!」


 実績もさくさく解放出来ているし、なかなかに順調だ。


 =====



 スキルシート(337日目)


 名前:ルデル・ハート

 種族:人間

 レベル:10

 クラス:【荷物持ち】ポーター

 ランク:D

 所属パーティ:なし

 称号:【勇気ある者】【重荷を持つ者】【力を示す者】

 レベルアップに必要な経験値:9467/90000


 HP:900/900

 MP:60/60

 攻撃力:110+5

 防御力:113+5

 素早さ:113


 スキル:【神脚】~一歩歩くごとに経験値を獲得。歩いたり走ったりしても疲れにくい。

 戦技:【ソード・ストライク】【ストリーク・ストライク】【ジャイアント・ストライク】

 武器:【ショートソード】【皮の鎧】



 =====



 ****



 寝かせていたライラを迎えに行くと、彼女がすでに起きていた。

 ちょっと驚きの表情を浮かべている。


 「さ、行こう」

 「すごい…ルデルって、さっきから思ってたけどかなりの強さよね。本当にレベル10なの?」 

 「ああ。【スキルシート】見るかい?」

 「え、ええ。えーと、確かにステータスがかなり高いけど、これだけじゃ300の物理ダメージは出せないわね。戦技は、どんな効果なの?」

 「さっき使った【ソード・ストライク】は、攻撃力1.3倍の物理ダメージだけど…」

 「1.3倍って…えええええええ!?」

 「いや、そんな大したことないでしょ?みんな2倍とか3倍とか行ってたりして。ははは…」

 「そんなわけないでしょ!ちょっとこれ見て」


 ライラが今度は自分のスキルシートを見せる。


 =====



 スキルシート(316日目)


 名前:ライラ・スカーレット

 種族:ウマ耳族

 レベル:9

 クラス:【魔術師】エンチャンター

 ランク:D

 所属パーティ:なし

 称号:なし

 レベルアップに必要な経験値:65879/80000


 HP:400/400

 MP:200/200

 攻撃力:65+10

 防御力:35+10

 素早さ:95-55


 スキル:【風神の加護】~風魔法に対する適性を獲得する。

 戦技:【ウィンド】【トーネード】【エアライド】

 武器:【妖精の杖】【風のローブ】【蹄鉄】



 =====


 MPと攻撃力を引き換えにその他ステータスが低いオーソドックスな【魔術師】エンチャンターだが、素早さのマイナス補正は【蹄鉄】によるものか。


 「そんなに大きな差はないように見えるけど?」

 「見かけ上はね。でも、あなたの戦技は他とは性質が違う」


 ライラが戦技の欄を指で押すと、詳しい情報が出てきた。


 【ウィンド】〜攻撃力+10の魔法ダメージ(風属性)を与える。MP消費10。


 便利だなこの機能。

 いや、重要なのはそこじゃない。


 「なんだか補正が小さくないか?」

 「そう。なの!しかもほとんど攻撃力に依存してるから、最初はみんな攻撃力不足で苦労するわ。×使のよ」

 「そうだったのか…」


 【冒険者の手引き】には戦技の名前と大雑把な特徴しか載ってなかったから、ここまで分からなかった。 


 「あと、重要な点がもう一つだけある」

 「重要な点?」

 「あなたみたいに×換算の戦技を覚えた人物は、


 ライラは僕のスキルシートを指でそっとなぞる。




 「魔王パズズを倒して消息を絶った伝説の人物、勇者エアロンただ1人よ」


 

 =====



 「勇者エアロン…」

 「ええ。あなたほど強力なスキルを持った人は、ここ数十年いなかったはず。まさにチートスキルね」


 ライラの言葉を聞いている内に、胸の中から湧き上がってきた感情がある。



 それは、ワクワクだ。


 「ライラ、1つお願いがあるんだ!」

 「お、お願い?」

 「ああ。お姫様抱っこさせてくれ」

 「え、ええ!?アタシ【蹄鉄】のせいで重いし、それにあなたに悪いし…」

 「気にしないでくれ!今猛烈にレベリングがしたい気分なんだ!」

 「それって【スキルシート】に書いてた【神脚】の…きゃっ!」

 「さあ、このままバイブリーのギルド支部まで行こう!君もそこにいきたいんだろ?」

 「…そ、そうよ。あーもう、好きにして!」


 今はただ、猛烈に走りたい。


 「行くぞおおおおおおおお!」

 



 誰よりも強く、早く、レベルアップがしたい!


 


 

 



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