7/7 走って、飛んで、春。
音羽ちゃんを家に送ってから、自分の家まで歩いて帰る。部屋に入ると、布団に寝転ぶ。
「文兎くん、いるの?」
「ああ」
どこからともなく姿を現した文兎くんは、いつも通りの皮肉っぽい表情を浮かべている。
「これ、あげるよ」
私は、ドロドロになってしまったファンタジークレイを渡す。
「最後はかなり信頼を感じてたんだけど、ダメだったみたい。ごめんね」
ファンタジークレイを受け取った文兎くんはさして悲しそうな表情をしない。
「いや、とんでもないほどだ。ファンタジークレイがここまでになったのは見たことがないよ」
「え?」
文兎くんがファンタジークレイの入った袋を開けて中を見せてくる。それは、きれいな砂になっていた。
「なにこれ?」
「まあ、状況が特殊だったからな。個体から液体になった後、すぐに信頼が極度に高まったんだ。それでこうなった」
「よくわからないけど?」
「まあ、なるようになったってことだ!」
あ、今とても普通な感じの笑顔になった。私はそれを見逃さない。
そういえばと、気になることを聞いてみた。
「音羽ちゃんを飛ばしたの、文兎くんでしょ?」
「ああ。そうだ。ああいう音羽みたいな世間知らずでバカな女には腹が立つ性分なんだ。おかげで、当分浮遊は使えない」
「うん、ていうか、あの展開になるって分かっててやったの?」
「……さあね」
煙に巻こうとする文兎くんの表情を覗こうとしたけど、すぐに姿を消してしまった。
まあ、それが答えだろう。本当、可愛くないガキだな。
走って、飛んで、春。 完
灰谷紅奈と大天使見習い 鳥居ぴぴき @satone_migibayashi
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