2/7 走って、飛んで、春。
時は遡る事今日の朝、お姉さんに学校まで送ってもらった私たちは、無事に時間に間に合うことができた。
「それじゃあ、放課後またくるからね」
「必ずですよ! じゃあ行ってきます!」
そうして走り去る車を眺めていると、後ろから肩を叩かれた。
「誰!?」
振り返るとそこには、大天使試験官の二人が立っている。
「驚かせてすみません。手短に済ませますので」
太った方が高い声でニコニコと私に言う。ほんと、感じのいい天使だ。
「はい、なんでしょうか?」
多分、文兎くんが返事をする場面なんだろうけど、朝から卑屈王子様になってるから、返事なんてもちろんしない。車の中でも全く喋らなくてお姉さんが気を使ってたくらいだし。
「ごほん、では、昨日の件で、不確定要素が確定しましたので点数を発表します」
「九十五点です」
太った男の後に間髪入れずに背の高い男が点数を言う。
お、思ったよりいい点数じゃん。てか、もっとタメてから点数を言って欲しかったな。まあ、そこら辺は個人の主張の違いだからいいんだけど。
文兎くんを見ると、明らかに血色が戻っていた。
「ふふふ、そうか。そうかそうか、まあ何がどうなったのか分からないが、それほどの点数が出ていれば問題ないだろう」
なんて、恥知らずな子なんだろう。将来が思いやられる。
そんな文兎くんの生意気な発言も、太った男は笑顔で聞いている。
「はい。点数について詳しい事はお答えできませんが、今回の点数は、灰谷様のご活躍によるもの、ということは添えさせていただきます」
「私!」
「ふん、よくやったな。その功績は認めてやろう」
文兎くんは点数のことしか頭にないようだな。全く。さすがの太った男も苦笑いをしていた。
「それと次の試練についてですが、今はお時間がないようなので、後ほど。最後にもう一点」
「浮遊石を応急的に直します」
背の高い男が、間髪入れずに言い。文兎くんのペンダントに触った。淡い光を放っている。
「おお、直った!」
文兎くんが目を輝かせる。これで空が飛べるってことだろうか。
「浮遊石のほとんどの機能は戻ったはずです。姿を消す神隠しと、姿を見せる降臨は自由に使えることでしょう。ただ、特殊技能の浮遊のみ、使い放題というわけには行かなくなっています。現状。私たちにできるのはここまでですのでご了承ください」
なんだかよく分からないが、いい方向に話は進んでいるようだ。
「ふん、それだけ直れば俺には十分すぎるくらいだ。はっ!」
文兎くんの眼が赤く光ると、私のスカートが膨らみ浮かび上がった。慌てて隠す。
「なるほど。充分に戻っているじゃないか。ふむ、これくらいの行使ならあと三回くらい使えそうだな」
こいつ、もしかして力の確認のために、花盛りの少女のスカートを捲ったのか?
なんだって、そんなふうに確認する必要はないじゃないか!
殴りかかろうとすると、マセガキの姿が消えた。
「こら! どこ行った!」
すると、声だけが聞こえる。
「もう時間がないぞ。教室まで走れ」
確かに時間がない。ムカつく気持ちを走ることに向ける。はームカつく!
そうして、学校が終わるまで文兎くんは姿を表さず、家に着くと、文兎くんは金魚袋みたいなのを持って、平然とリビングに居たわけだ。
思い出すだけで情けない。たかがケーキ如きに気分を治められてしまうだなんて。
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