3/7 走って、飛んで、春。
文兎くんから、ファンタジークレイを渡される。
「まあ、また明日でいいだろう。期間は明日からの三日間だ。期限は明々後日の夜二十三時五十九分五十九秒。まあ、なるべく早く済ませるぞ」
「済ませるったって、どうすんの?」
私はケーキを切って小皿に盛る。一応、文兎くんのも盛った。
「いらん。私はそんなゴミは食わない」
「ゴミって、ったく。くだらないことばっか気にしてると、大天使なんかになれないぞ」
こんなに美しい食べ物をゴミなんて全く。まあ、食べないなら私の分が増えるだけだしね。
「体重、肌荒れ」
「ふーん。私、ちゃんと運動するから」
「ふ、そうか。まあ話は逸れてしまったが、とにかく、作戦はある。明日からは固体化を目指すぞ」
「おー!」
よし、とにかくやっていこう。俄然、やる気が出てきた。
「なんだ。やけにやる気で気持ち悪いな」
このケーキがあまりに美味しいからなんだけど、言うのはやめておいた。私、そんな甘い女なじゃいんだから。と言う意思表示ってやつだね。
翌日、当然のように家の前で待っているお姉さんの車に乗って学校に向かう。
少しだけ、ファンタジークレイが硬くなる。
「いつもの男の子はいないんだね」
「はい、今日は居ないんですよ〜」
本当は、透明になって乗り込んでいるんだけど、説明すると長くなってしまうから、適当に言葉を濁す。
「ところでお姉さん、私から言うのもなんですけど、毎日迎えに来てもらっちゃってて大丈夫ですか?」
「え……、うん。もちろん大丈夫よ。もしかして嫌だった?」
お姉さんはいつもと変わらない様子に見える。だけど、意外なことにファンタジークレイが少しだけ柔らかくなった。
それに気がついたのか、透明な文兎くんがつねってくる。こいつ、本当に天使なのか?
とにかく、私は起死回生の一言を放たなくてわ。
「あ、いや、めんどくさく思ってないかなって心配に思ってたんです」
「そう、なのね。ごめんなさい。心配させて」
ファンタジークレイはどんどん柔らかくなっている。
やばいやばい。
「あのですね、もし急なことがあった時にいろいろ大変だと思うんでですね、連絡先、交換しておきませんか?」
よし、これでどうだ。
「わかったわ。交換しましょうか」
お姉さんはクールに言うが、手の中のビニール袋の中身はしっかり粘土状になっていた。
学校に着くと、すぐに連絡先を交換した。
「くれなちゃんって言うのね。ふふ、いい名前」
「お姉さんも素敵な名前ですよ。風香さんですね」
「好きな名前で呼んでいいから。じゃあね」
「じゃあ、またあとで! 風香さん!」
車が去ると、透明人間に腕を引かれ、学校内でも人気が少ない場所に連れてこられた。
文兎くんの声が聞こえる。
「一応、さっきの女とのやり取りででわかったことを言っておく。そのファンタジークレイはお前に関する信頼にしか反応しないようだ。俺はあの女に対してかなり冷たい感情を持っているからな」
「ふーん。そうなんだ」
「俺の計画だと、カップルを探し出して、そいつらを利用しようと思ってたんだがな。ほんとに困った。お前が多くの信頼を得るのは考えづらいし、お前が誰かを信頼してればいいんだが、さて、どうするか」
「おいおいおい、おい!」
透明だから、声のする方に当てずっぽうで拳を振るう。
「痛、なんだ無礼な!」
「あんたでしょ無礼なのは。いい? 私、信頼を集めることくらいできるんだけど?」
「ふん。どうだか」
「任せなさい」
さっき風香さんと話していた時に気がついたんだけど、このファンタジークレイを触ってれば、間接的に相手の感情が分かる。
これを利用すれば、楽勝ってわけ。
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