4/6 新しい朝が来た!
※※※
なぜ、こんな子供二人を車に乗せたのか。それは私にも分からなかった。
どの道、あとの人生なんてどうでもいいわけだから、こんな私でも、困ってる人を助けてもいいかなと思ったのは事実だ。
「ねえ、私がさ、人殺しが趣味の殺人鬼だったらどうするの?」
「え、お姉さん殺人鬼なんですか?」
この女の子はとても素直な反応をするから、ついからかってしまいたくなる。おまけにどこか抜けてる感じもするから、学校ではあんまり得はしないタイプな気がするな。
「人殺しなんて怖いですよ」
銀色の髪をしたこの男の子は、なんだろう。なんだか信用できない感じがする。人生二週目って感じの、分かってる感。ただ、あまりに可愛いから、大抵の人は騙されるんだろうな。私も最初は騙されちゃったし。
「ふふ、でも二人ともあんま怖がってる感じ、ないね」
二人とも普段通りといった感じだ。普段がどんなのかは知らないけど。ただ、その心理は全く違かった。女の子は私を信用しきってるから怯えない。男の子の方は、なにか自信があって全然恐怖を感じていない。そんな違いも今の私にはいい刺激だった。
二人は死ぬ時、どんな違いがあるのだろうか。そんなことを想像させてくれるから。
「この曲、なんていうか知ってる? 天国への階段って言うの。天国って、本当にあるのかな?」
真っ白な光に包まれるその階段を私はいつも考えている。
※※※
「間に合ったー! ありがとうございます! メガ、お姉さん」
心の中でお姉さんのことを女神と呼んでいたのが少しだけ漏れてしまった。平然を装うために間髪入れずお姉さんと続けていったせいで、なんか凄いお姉さんになってしまった気もするが、気にしない。
なんせ学校に間に合ったのだから!
「お姉さん、ありがとうございます!」
文兎くんは今までで一番の笑顔を見せた。けど、まだまだ上の笑顔がある。そんな余裕を感じさせる。
「やっぱり遅刻しそうだったんだね。二人とも。間に合って良かったよ。じゃあね」
メガ、お姉さんはすぐにドアを閉めてしまう。
「あの、またどこかで会いましょう! 世間なんて狭いですから」
少しだけ開けられた窓に向かっていうと、女神は手を振ってくれた。
「さようなら。お姉さん」
文兎くんも手を振っている。いかにも子供らしい振り方で。
「いや〜、世の中捨てたもんじゃないね」
「そう見えたか」
隣を見ると、文兎くんはクソ生意気なガキに戻っていた。
「そう見えたかって、実際そうだったじゃん」
いい気分の私になぜこの男の子は水を差すのだろうか。
「分からなかったなら教えてやるよ。あの娘は死ぬ。死の匂いが凄かったから。たぶん自殺だ」
ん? なに言ってるんだろう。あのお姉さんが死ぬって、どういうことだ?
「文兎くん、人が死ぬとか簡単に言わないほうがいいよ。 そうだ! そもそもあの人は殺人鬼とか言ってたよ」
「ああ、あれも分かりやすかったな。自分が死ぬから、その反対の殺人なんて言葉をいったんだろう」
「あのね、そんなこと言わないの」
そういいながらも、胸騒ぎがした。なによりこの子は天使だ。さっき空を飛んでるのも見たじゃないか。
「ほら、あんなに綺麗に化粧もしてたよ? それで死ぬなんてことする?」
なんで、こんなことを文兎くんに聞いてしまうのだろう。それじゃまるで、あの人は死なないって証明したいだけじゃないか。
「ああ。お前は車の中をちゃんと見てなかっただろうが、車内に練炭あったぞ。なるべく綺麗な姿で……、ってとこなんだろう」
なにそれ? それじゃ私だけははしゃいでたってことか? バカみたいじゃん。
放心する私に構わず、文兎くんは話し続ける。
「本当、若造の考えることだよ。綺麗なままで死にたい。その割に死ぬ事は気がついて欲しい。そんなふうにしか見えないね。まあ、いいや。遅刻するぞ。行こう」
そして歩き出そうとする文兎くんを私は走って追い越した。
「おい、そんな急がなくても……」
「急ぐの! お姉さんがどこに行くのか、確認するんだから!」
車の走る方は確認していた。あとは上の階から車の行方を探す。見つからなければ、町中走り回ってやる。
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