ゆうやけ

鈴ノ木 鈴ノ子

ゆうやけ

かんちゃん、かえろ!


りっちゃん、かえろう!


男女の幼児が空き地の遊び場を離れます。


帰り道の家々からは、夕食の匂いがしてきます。


まなちゃんちはカレーだ。


ゆみちゃんちはお魚だ。


けんくんちはお肉だ。


かんちゃんは匂いを嗅ぎながら考えます。


りっちゃんが見上げれば、真っ赤な真っ赤な夕焼け空が広がって、お空の雲がふわふわと真っ赤に焼けて漂います。


あ、お空に焼き芋だ!


ほんとだ!焼き芋だ!


2人は顔を見合わせて、互いにニコニコ笑い合い、ゆっくりゆっくり歩いてく。


道の先にはお寺があって2人は急いで帰ります。門が閉まると中へは決して入れてくれません。


いちばん!


かんちゃんが走って門を潜ります。


ずるい!


りっちゃんが頬を膨らませ、追っかけながら怒ります。


そのまま2人は本堂の脇へと一目散にじゃれ合いながら、走って行きます。


あ、まきちゃんだ。


ほんとだ、まきちゃん!


背が高く髪の長い女性が1人、奥の方から水桶下げて、ゆっくりこちらへ歩いてきます。


こら、ふたりとも!こんな時間までなにしてたの!


まちちゃんは境内の時計を指差して怒ります。


ごめんね!遊び過ぎちゃった!まきちゃん、またね!


かんちゃんもりっちゃんも笑いながらその脇を駆け抜けて行きました。


はいはい。またね。


笑顔で2人を見送ると、まきちゃんはゆっくり歩きます。


まきちゃんはこのお寺の保育園の先生です。しっかり勉強を頑張って立派な先生になりました。


まきちゃんは先生になれるね!


ほんとだね!なれるね!


ずかんでお花を調べていたら、かんちゃん、りっちゃんはそう言って、まきちゃんを褒めてくれました。それが先生になる始まりです。


変わらないなぁ、あのふたり。


振り返って見つめる先に小さなお家がありました。


2人はすっとその中へ仲良く入っていきました。


ただいま!


夕焼け終わりの宵闇に2人の声が響きます。

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ゆうやけ 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki

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