再びの目覚め

 そのまま命を落とし、異世界転生……みたいなファンタジーは流石に無くて。

 殴られた衝撃か頭をぐらぐらする中、俺は今日二度目の意識覚醒を果たした。


 二度寝してないのに二度起きる……言葉にすると、すごいパワーワードだ。


「おはよう」


 そんなこんなで俺は目を開ける。

 その瞬間、美由紀みゆきの顔が見えたので俺は開口一番[朝の挨拶]をした。


 どうやら俺は寝転がっているようだ。

 右側にどこか向いている美由紀を添えて、視界は天井を見上げる形となっている。


「あ、おはよう。らーちゃん」


 美由紀は俺が起きた事に気がつき、こちらを見下ろして慈愛の微笑みを浮かべる。

 何故か赤ん坊になった気分にさせられる、そんな微笑みだ。


 ちなみに言うと、反射的に挨拶しただけで現状は全く理解していなかったりする。

 美由紀特有の甘い匂いが俺の鼻腔を満たしてくる、そんな天国としかわからない。


「よいしょ」


 とりあえず色んな意味で頭が痛いので、俺は起き上がることにした。

 幼馴染の姉思いな我が妹の紹介は、いつになるか分からないがまた後にしよう。


「………」


 そして美由紀の方へ振り返り……俺は黙ってに頭を乗せた。

 この表現マクラはあながち間違いではない。とりあえず、状況は理解出来たとは言っておく。


「あ、こらっ」


 そしてまた美由紀を見上げる姿勢となったが、彼女はにんまりと笑った。

 『こらっ』とか怒り様子な発言だが、それに全く見合わない表情である。


 拒絶されていないと見て、俺は怠ける……いや、甘える?ようにため息を吐く。

 美由紀のHI・ZA・MA・KU・RAを前に、俺が欲望を解放せざる負えないだろ?普通。

 

 いつの間にか美由紀は、Tシャツとデニムの短パンというラフな格好に着替えていた。

 布越しのお腹、生足、そしてそこから湧かせる甘い匂い……ああ、ほんと天国。

 あとでその服装にも褒めてあげよう。


 そう好き勝手する俺だったが、美由紀は特に嫌がることはなかった。

 寧ろ、先程の自分みたいに甘える俺の頭に手を乗せて、優しく撫でてくれる。


 その手の動きも本当に気持ちがいい。


 癒すように、それでいて愛でるように、ゆっくりと美由紀に夢中にさせてくる。

 もうお察しの通りだろうが、とっくの昔に俺は彼女に夢中だ。現在進行形でそれは増す。


 そんなら甘えるのも甘やかすのも好きな俺たちの、いつもの日常の一時である。


<──バタンッ>


「バカにっ……なにしとんじゃ!変態!」


 さて、今日二度目の乱入。

 例えるなら、某[愉快なパーティゲーム]の挑戦者みたいな登場の仕方だ。


 ……ごめん、自分でもこの例え方は意味がわからなかったわ。


「……結衣ゆい


 俺はジト目になって、乱入してきた我が妹の方に視線を向ける。

 尚……美由紀の膝上に頭を乗せながらという、妹にとって最大の煽り行為のまま。


 軽く茶染めした茶染めのサイドテールを勢いよく揺らし、結衣は更に眉を寄せた。

 彼女は声にしてはいないが、むきぃぃ!という言葉が聞こえてきそうである。


「朝飯出来てるから!さっさとそこ降りてリビングに行ってこい!」


 おっと、その口からでてきたのは暴言ではなく、意外にもド正論。

 だが……その真意を、同じ美由紀好きとして、兄として、俺はちゃんと理解している。


『早くみゆねえと二人っきりになってイチャイチャしたい!』


 ……二人っきりになれるってことは、美由紀は既に朝食を済ませたのだろうか。

 美由紀を奪おうとする妹の前だと、無駄に頭が冴える俺なのだった。


 まあ、結局のところ俺の返答は最初から決まっている。


「ヤダ」


「はあ!?」


 拒絶だった。さすがのこれは、ド正論を言ってきた妹さんも大層驚いたらしい。

 いやだって、まだ甘えたりないもん。美由紀ぱわーまだ満タンじゃねえもん!


 そんな謎の幼児退行を行動で示すように、俺は美由紀の腹に顔を埋めた。

 甘やかす時とは心構えが全く違い、緊張と躊躇という言葉は今の俺に存在していない。


「もう、らーちゃんったら」


 美由紀も、そんな俺を溢れんばかりの慈愛で受け止めてくれた。

 お腹に顔を押し当てられて擽ったそうにしながらも、俺の頭を撫でてくれる。


 天国のレベルが、殊更に増した気がする。


「うぅぅ〜……鉄拳!せいさぁぁい!!!」

「ん?」


 拒絶しない美由紀を見て勝利を確信した俺だったが、どうやら甘かったらしい。

 様子が変わった結衣に異変を感じたが……脇腹に、激痛が走った。


 そして、俺は再び意識を失ったのだった。

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