幼馴染で恋人同士な俺たちは甘え好き。
さーど
夏休み、幼馴染との朝
<ミーン ミーン……>
どこか遠くから、静かにセミの鳴き声が聞こえてくる。そんな夏のとある一日。
涼しげな風を感じ、制限のない眠りに付いていた俺は瞼を開いた。
「………」
目覚めたはいいが、少し頭が痛い。夏休みだからってさすがに寝すぎただろうか。
まあ、月が変わる昨日までには課題は終わらせたし、時間の余裕は多いからいいけど。
「すぅ……すぅ……」
……そんな事はさておき、すぐ隣から小さな息遣いが聞こえてくる件について。
微かに聞き取れる声色と、このゆっくりとした頻度……どうやら寝息みたいだ。
朧気な意識の中、そう推理した冷静な俺は首を曲げ、その正体を視界に収めようとする。
「んー……すぅ……すぅ……」
なんということでしょう……
そこには、物凄く可愛らしい、幼馴染の寝顔があるではありませんか。
少し乱れつつも、窓から差し込んでくる光を反射するさらさらな黒髪。
なめらかで健康的な乳白色の肌に、幸せそうに緩んだ柔らかそうな頬。
小さな鼻に瑞々しい花唇はぷっくりとしていて、それはまるで果実のよう。
まつ毛の長い眼を閉じ、規則正しく呼吸する姿は眠り姫を彷彿とさせます。
………。
………………。
「──って
ばっ、と勢いよく起き上がり、タオルケットをぶっ飛ばしながら俺は彼女の名を叫ぶ。
タオルケットだが、これが俗に言う布団が吹っ飛んだぁ〜ってそうじゃねえ!
一気に目が覚めたわ!ビフォ○アフタ○のネタを使ってる場合じゃあねえぜ……!
ちなみに、もう放送終了した古いネタっていうご指摘は受け付けておりません!
「いや、まあ最近だといつもの事だけどさ……やっぱりびっくりするよなあ」
……美由紀。今叫んだように、現状俺のベッドですやすやと眠っている少女の名だ。
俺との関係性は、家が隣同士で、生誕時からの幼馴染……兼、恋人である。
起きたら最愛の少女が目の前に居たら、思わず心臓が止まりかけたのは仕方あるまい?
前述の通り幼馴染の上、カレカノになってもう長いが、それでも同じものなのだよ。
なんか日が経つにつれて可愛くなって来ているし、慣れる日は訪れるのか心配だ。
まあどこか、訪れないで欲しいとかいう気持ちがなくも無いんだけどさ……
「んんぅ……」
眉を顰め、そんな可愛らしい唸り声を上げる美由紀に、俺は頬を緩ませた。
まだ眠りたいようなので、ぶっ飛ばしたタオルケットを肩まで掛けてあげる。
「ん〜……♪」
そのまま髪をゆっくり撫でてやると、美由紀は心地良さそうな声をあげた。
それを見ると、やっぱり好きだなあ、と思うのも仕方あるまい。
性格も、容姿も、ここまで俺にドストライクな女性は彼女以外にはいない。
いやまあ、モテない陰キャが何言ってるんだって話であるけどな。
そんな彼女が、こうして布団を潜り込見に来るほど俺のことを好いてくれている。
これほど幸せな事があるだろうか?今後、絶対手放さないようにしなければ、な。
……まあ、流石に2階の窓を経由してくるのはやめて欲しくはあるけども。
「んん……らーちゃん?」
そのまま美由紀の髪を撫でていたら、流石に起きたらしく彼女はゆっくりと瞼を開く。
とろみを帯びた甘い声で、俺の事を昔からの愛称で確認しながら。
彼女だけが呼んでくれる愛称を、今もまた呼んでくれただけで俺はもう幸せな気分だ。
美由紀の髪に手を添えながら、俺は思わずにっ、と口角を上げた。
……あっ。そういえば完全に忘れていたが、俺の名前は
幼馴染こと美由紀が12年前から大好きな、しがないオタク男子高校生である。
ちなみに、ひろあきって名前で『らーちゃん』という愛称は些か違和感が凄いだろう。
その由来を述べておくと、中央の『ろあ』を訛らせて『らー』になった。
ややこしいかもしれないが、俺も気に入ってはいるためどうかご容赦願おう……
「悪い、起こしたか?」
自己紹介は程々に。
頭を撫でていたという事実の後、俺は眉を下げて美由紀にそう尋ねる。
……まっ、現在進行形で今も尚彼女の髪を撫でておりますがね。
「んーん。なでなで、気持ちよかった」
心配は杞憂だったようで、嬉しそうに頬を緩ませながら美由紀は答えた。
相変わらず可愛らしい表情だ。誰かカメラ持ってないか?永遠に残すべきだと思う。
そんな割と本気な冗談を頭に零しながら(?)、俺は安堵の息を漏らす。
「そうか。だったら、もう起きないか?……俺が言うのもなんだが、大分寝たろ」
髪にまだ手を添えながら、サイドテーブルに置かれた時計を見て俺は提案する。
今針が示しているのは10時だ。もし授業があったとしたら、今は2時間目の真っ最中。
夏休みというもんは良いもんだし、恐ろしいもんだと改めて思っちゃうね。
「うん、起きる」
美由紀も賛成だと頷き、寝転んだまま両手をこちらに向けて広げてきた。
それを見て、俺は思わず息を飲む。
「……起こせ、と?」
「うん、起こして?」
確認取れば、当然とばかりに頷く美由紀。
甘えん坊だなあ……彼氏だからってそんな無防備すぎると、襲っちゃうぞ?うん?
なんてしないことを考えつつも……手を取った先に彼女がするであろう行動を予想して、俺は頬を赤らめる。
まあ起こすんですけどね!
俺は向き直るように膝を付き、大人しく美由紀の両手を引っ張った。
その瞬間、まだ力を入れても無いのに美由紀はこちらに身体を投げかけてくる。
「うおっと」
「えへへ。らーちゃんっ、ぎゅ〜っ!」
そのまま俺の背中に腕を回して、言葉通りぎゅーっ、と抱きついてきた。
俺の肩に顔を乗せて、離さないとばかりに腕に力を込めてくる。
かわわわわわ……!?!?
ドキッ、としつつも……俺は応えるようにして、なんとか美由紀の背中へ腕を回した。
「ん〜♪」
すると、嬉しそうに声を漏らす美由紀。
……美由紀の身体は、冷房の付いた部屋の中なのに温かく、華奢で細く、そして柔らかい。
ハグしたらストレスが〜みたいなのがあるが、そんなの無い今は幸福感で満たされる。
ああ、幸せ──
<バタンッ>
「バカにい!そろそろ起き……」
突然、入口のドアが勢いよく開いたかと思えば、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
美由紀にゾッコンな妹の声のような……気の所為だと願いつつ、俺は顔を青くする。
俺は身体を震わせたが、美由紀はそんな俺を更に強く抱きしめてきた。
「みゆねえに何してんじゃぁぁああ!!」
「ちょまてぇぇぇ!!」
直後、一瞬だけ走るような足音がしたから懇願するように叫んだが、もう遅かった。
側頭部から蹴られたような激痛が走り、そして俺は意識を途絶えた……
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