お題「イヤホン」タイトル「未題」

ちょっとだけ古い型のiPodを操作して、最近気になってる歌手の、新しい曲を流してみる。


ノイズが入るようになってきたイヤホンにちょっともたつきつつ、うまいこと音が入るように調整して、本体にぐるぐると巻き付ける。


足が重く感じる登校時間、そのわずかな気の重さを取り払ってくれるのが、音楽だ。


この曲は重たい音が、何度も強く響くから、気持ちがどんどん昂る気がする。漫画を読んで、自分が強くなった気になるような、なんな感じ。ちょっと違うか?


「おい、まーた音楽聞いてんのかよ」


後ろから声を掛けられる。せっかく盛り上がりのいいところがくるんだ、ここは無視する。


来るぞ、来るぞ、と、薄く目を閉じ、少しだけ歩調が速くなるのを自覚する。


来た!


と、思ったら


「無視すんなよー、おれにも、よっと!聞かせてみろよ」


「あ、おまえ…!」


左のイヤホンを抜き取られ、そのまま、耳にはめられる。


いいとこなのに、台無しだ!


「お、これ知ってる!お前、確か最近このバンドの曲ばっかり聞いてるよな!」


「バンドっていうか、歌手な、ってかイヤホン外せよ!」


「いいじゃんいいじゃん!あ、これかっけぇな!もうちょっと聞かせてくれよ!」


「あーくそ…お前といるといっつもこれだよ…」


腹が立つ。むかつく。


いつもちょっとだけ速足になっても、背が高いこいつはすぐに追いついてくるし、イヤホンが引っ張られると、自然と耳が引っ張られる形になる。


それが悔しいし、またむかつく。


曲のテンポに合わせて揺れたり、指先を足に当ててリズムを刻むしぐさに、逆にこっちのリズムが崩される。


お前といると首が痛いんだよ、と舌打ちを打ちつつ、仕方なく右のイヤホンを左にはめなおす。


普段は短く巻いたイヤホンを、少しだけ長めに出してやる。


朝の貴重な音楽の時間だから、少しでも、聞いておきたいんだ。


最近多くなったノイズは、こいつのせいだと思う。


それでも。


ちょっと短い、このイヤホンが、俺とこいつにはちょうどいい。

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