第6話

 美少女が パジャマを着たら 国宝級(字余り)


 樹慈ちゃんのお風呂上りパジャマ姿の思った以上の破壊力に私の男子中学生の部分は大いに反応を示してしまって中々直視できなかったとさ…完敗だよ…。


 そしてそんな私のドギマギの機微さえも華麗にネタに昇華してしまう樹慈ちゃん。私のコチコチに凝り固まったコミュ障癖は完全に溶かされてしまっていた。


 そして、私はとうとう昨日のひなた先輩とのコラボ配信の核心に踏み込む決心をした。


「それにしてもすごいよね樹慈ちゃん…私の憧れのひなた先輩と先にコラボしちゃってさ…」


「え…!?」


 私が少し拗ねた口調で喋ると樹慈ちゃんは結構本気で驚いた顔をしていた。あれ?ミスったかこれ…?


「…紺先輩ってHONMONOLIVE入ってから何年ですか…?」


「え…えっと…一年半ですけ…だけど…」


 思わず丁寧語を使いそうになって、言い直した。


「それだけの時間があってなんで一度もコラボできないんですか!?」


「うるさい!?ガチの陰キャをなめるんじゃないよ小娘が!」


「…紺ちゃん先輩普通に可愛いのになんでそこまでクソザコなんですか?」


「誰がクソザコだよ!?ガチトーンでいうんじゃないよ!?」


「紺ちゃん先輩ってほんと受けっぽさがすぎてそれがよさみなんですよね…」


「受け!?!?!?」


 私は心底心外だった。


「何言ってんの!私は攻めに決まってるじゃん!」


「先輩…大人しく認めましょうよ…ほら、チャット欄みてくださいよ…」


 チャット欄を流れていくのは【自分を攻めだと思い込んでるクソザコ紺ちゃんかわいい】【樹×紺しか勝たん】【樹慈ちゃんまじでつよい】といったコメントが爆速で流れていき、私は益々憤慨した。


「ち、違うもん!私が攻めで樹慈ちゃんが受けだよ!紺×樹しか勝たん!」


「へえー?じゃあ紺ちゃん先輩攻めれるんですかぁー?」


 今度はチャット欄に【ちがうもん!たすかる】【樹×紺たすかる】【メスガキ樹慈ちゃん】【いじられる紺ちゃんかわいい】というコメントが流れていく。


「う、うおおーーーー!?」


 私は煽られる形で樹慈ちゃんをベッドに勢いのまま押し倒した。


「え?え?紺ちゃん先輩?」


 樹慈ちゃんは冗談ですよね?と言わんばかりに目を白黒させる樹慈ちゃん。狼狽える様に気を良くした私は余裕たっぷりに笑いかけた。


「ほ、ほらほら~?クソガキムーブばっかしてるとこうやってお姉さんにわからされちゃうよ~?」


「ちょ、ちょっとw誰がお姉さんですかw声震えてるじゃないですか」


「ふ、震えてないし!?」


「えっ!わっ!ちょっと!?」


 私は片手をパジャマの内側に滑り込ませる。


 んっと色っぽい吐息が樹慈ちゃんの口から出た。


 これなら勝てる!そう思った私は調子に乗ってさらに奥へ上下左右にと両手をもぞもぞと縦横無尽にまさぐり続けた。その両手の動きに最初はくすぐったさそうにふざけるように笑い転げていた樹慈ちゃんだったが、やがてそれはお互いの身体をお互いがまさぐり合うキャットファイトへと発展した。


 接戦だった。厳しい戦いだった。


 そして私が樹慈ちゃんをどうにか力づくで組み伏せられたその頃には二人とも息も絶え絶えの非常に変な雰囲気になっていた。頭のどこかでは目的と手段…取り違えてないか…?という警鐘が鳴っている気がしたけれど解決に至るほどのリソースがもう脳には残ってなかった。


「はあ…はあ…」


「ぜえぜえ…と、とっとと認めたらいいじゃん…?」


「…こ、紺…先輩…?」


 樹慈ちゃんの顔は戸惑いと羞恥で赤くなってる。それでいて既に何かを観念したかのような。そんな表情だった。いわばメスの表情だった。


 いい気味だ!これは先輩である私を敬わない罰!


 さっきから自分の顔が異常に熱いことや樹慈ちゃんの髪から私と同じシャンプーの香りがすることは出来るだけ頭の外に追い出そうとする。 

 

 いや分かっている。自分でも分かっている。色々なことが暴走している。刻一刻と後戻りできるラインを踏み越えまくっている。


 少しだけ時間を巻き戻せたらどんなにいいことかと何度も願った。でももう背に腹は代えられない。もうこうなったらなるようになれ!


 生配信中のコメント欄を確認できる余裕なんかもうない。ないけど爆速で動いていることは疑いようもない。


 私はメッキの如く顔に張り付けた笑顔を必死で保ちつつ、私の脳はフルスロットルで回り続けていた。


「紺……先輩???」


 NOW LOADING状態となり挙動が完全にストップした、そんな私を樹慈ちゃんは不思議そうな表情で見上げている。


 ちょっとまって…?


 …女同士ってここから何したらいいんだ???


「紺ちゃん先輩…」


 トロンとした目で見上げる樹慈ちゃんの視線と私の視線がぶつかる。


 これは…ひょっとしてスイッチが入ってしまったというやつだろうか??


 ひょっとして…キスとか……?してしまうんだろうか?


「配…信…画面」


 そういうと樹慈ちゃんは糸が切れたように目を閉じた。


「え………?」


 気を失った???こんな漫画みたいに気を失う人いるんだ。そう思ってふとPCを見ると動きの止まったアバター二体と爆速で流れ続けるチャット欄を見て我に返る。私はベッドから降りてマイクに向かって叫んだ。


「お、おついなり~~~~!!!!樹慈ちゃんが気を失っ…寝ちゃったので今日の配信はここまででーす!!!!じゃあねーーー!!!!!!!?朝チュン!?ねえよ!!?とっとと寝ろよ!!?」


 チャット欄の【朝チュンか??】というコメントに爆速でツッコミを入れて配信画面を切った私の意識もそこで途切れた。

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