第3話
ひなた先輩の言葉に俄然発奮した私は自宅のPCの前で”作戦会議”をしていた。
HONMONOLIVEの事務所から新人の第三期生のアイドル四人が公表されたのだ。
当然HONMONOLIVE事務所としては定期的に新しいアイドルを擁立することでファン層を開拓していきたいという狙いがある。
だが、新アイドルの擁立が私達先達のアイドル達にとってまた違った意味を持つのもまた事実だった。
現在、新人四人の自己紹介動画をくまなくチェックしてみたが、事務所の方針なのかやはり誰も彼もキャラクターが強い。
まず、
そして、デ・カイリー・ヴィクトリア。ワイルドなタンクトップの金髪の外人高身長美少女。凄腕のメカニックというキャラ設定で『メカが何よりも大好きで性的な目で見てしまうほど大好きデース!』という余りの性癖のオープンさと懐の深さにもネットでは話題騒然となっていた。
さらに、和田島イサキ。これまた銀髪の文芸美少女の皮を被ったとんでもない新人だ。かなりエグめのNTRが大好きなことを嬉々として話していたことも含め、兎に角キャラが濃い上に視聴者のコメントとのヤンデレプロレス芸は初回配信にして既にして完成の域に達していた。
みんなどいつもこいつもキャラが強い。
このままでは下手をすると私のキャラがより埋もれてしまう…そんな危惧も湧いてくるが、私が新人の自己紹介動画に張り付いていたのはとある狙いがあったからでもある。
今の流行りは猫も杓子も百合!
つまり私の狙いは百合を感じられるコラボ配信だ!
関係性厨を刺せれば一定の層にアピールできるし、何よりもこれを機に念願のコラボ配信の足掛かりにできる!VTUBERにとってコラボ配信は宣伝効果という重要な目的と意義があるのだ!
そこで私は新人の中の一人に白羽の矢を立てた。
それが奴原樹慈。
初配信を見たところコメント拾いなどは丁寧に対応しているが、趣味はイラストで相当のレベルだが奇抜なキャラ立ちはなく、割と大人しそうでほわほわとした庇護欲を誘うタイプのアイドルだ。
何よりもチャンネル登録数はまだ私の方が上だし、性格的にも私でも御せそうだと思ったことが一番の理由だ。
うるさい!みみっちいとか言うな!私だって必死に生きてるんだよ!
私はスマホを手に取りディスコードを立ち上げた。樹慈ちゃんにコラボのメッセージを送るためだ。
樹慈ちゃん…おまえを私のレベル上げに利用させてもらう…フフ、悪く思わないでね…
・ ・ ・
マネージャーに早速話を通して企画も通り樹慈ちゃん本人からも了解をもらった。そうして何もかもトントン拍子で進む予定だった。
その前日までは。
Twitterを立ち上げた私はTLに流れていくツイートにいくつも見慣れない単語を見かけた。
厭な予感がした私は共有のスケジュールを立ち上げる。HONMONOLIVEのアイドル達は配信の時間帯被りなどを防止する目的でスケジュールが共有されている。私は自分が配信スケジュールを確保する時以外はあまり利用していなかった。
そして私は見つけた。見つけてしまった。それを…。
「う…そ……???」
神崎ひなた先輩と奴原樹慈ちゃんとの……お絵描きコラボ配信???
見なければならない。そんなことは分かっている。
全くの新人とVTUBER界きっての大物のコラボ配信。コラボ相手が前日にこんな衝撃的なイベントをしているのだ。話題にしない方が不自然だ。
だがそんな考えとは裏腹にどんどん手足が冷たくなっていくのを感じた。
ひなた先輩と樹慈ちゃんの二人の配信は二時間後の昼13時から。私は昼ごはんを適当に用意しておざなりに済ませると12:50にPCの前に座りを電源をつけた。
いつもの神崎ひなた先輩の配信待機画面のアニメーションさえもその日に限っては私の心臓をキリキリと締め上げていた。
『おはひなたー!!!』
初手、二人同時の仲睦まじげな挨拶。半死半生になった私はその後もなんとか精神をギリギリで維持して聞き続けていたが、あらゆる一言一言が私の心臓をギリギリと握り潰すようだった。
「ひなた先輩のことずっと憧れてたんですよー」
「ひなた先輩の初配信の動画がー」
分かってる。分かってる。誰が悪いなんてことではないんだ。
私は自分の推しが誰かに愛されることを拒否するなんてしない。
私は推しが誰かと仲良くするのを拒否するなんてそんなことは絶対にしない。
だがひなた先輩の動画をちゃんと全部見たのか?その上で初配信の動画にその程度の薄っぺらい感想しか持たないのか?…お前は本当にひなた先輩のことが好きなのか?
なんて、そんなことを想ったりはしなくもないけれど…!!!全部全部仕方のないことだから私は全然平気だ!
「ひなた先輩チューしてください!」
仕方ない…仕方な…っアーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
バキィと音がしてふと気が付いた時には私の手の中に真っ二つに折れた鉛筆があった。
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