「第3章:アニマル☆コスプレ萌え屋台inザント」
第25話「収穫祭に向けて」
晴れた日の午後。
呼び出しを受けた俺が修道院長室を訪れると、ハインケスが待ち構えていた。
「ジロー、販売部の準備はどうなんだ?」
ため息をついて、深い皺を眉間に刻んで、いかにも大儀そうだ。
顔色も悪いし、体重も落ちているようだし……こいつ、ちゃんと俺の飯を食ってるんだろうなと疑いの目で見ていると……。
「当然、順調にいってるんだろうな? なんせ収穫祭は明日だからな? 領主様はもちろん、周辺一帯の町や村の長、巡回司教に王都からの視察も来るんだからな?」
眼光鋭く、ハインケスは
年に一度行われる収穫祭は、修道院の上げた一年の成果物(農作物、畜産製品、制作した服飾品や神具祭具など)の販売を行うお祭りだ。
周辺住民はもちろん地域一帯の長や王都からの客も見える、大規模な催しとなる。
今回が初の参加となる俺は、販売部の統括を任されていた。
明らかに面倒な役割だったので即座に断ろうとしたのだが、血走った目で懇願されたのでやむを得ずに受けることとなった。
やりたくはないが、やるからには手を抜くつもりはない。
ドニに仕込まれた知識と経験をフル活用し、俺はここまで入念な準備を行ってきた。
「もちろんだ。すべての行程は完璧に管理出来ている。なんなら今始まったとしても問題ない」
俺の返答に、ハインケスはほっとしたような表情を見せた。
「そうか。それは良かった。去年は販売で下手を打って、巡回司教にさんざんな嘲弄を浴びせられたからな……」
思い出し怒りをしているのだろう、ハインケスは奥歯をギリギリと噛みしめている。
「こんな土地の管理を任されて大変ですねだの、無能な部下を持って心中お察し申し上げますだの、見え透いた嫌味を……。くそっ、若造がっ」
王都の本院から始まり、一年をかけて各地の修道院を巡る巡回司教は、たしか王国に4つしかない公爵家(フレデリカの家がそのひとつ)の次男が務めていたはずだ。
俺自身は見たことないが、悪名高い人物だ。
「なあ、ジロー。この間のメープルシロップの在庫はもう無いのか? あの純度のものを大量に作れれば……」
「あれはもう無い。見た目は蜂蜜に似てるが、メープルシロップは保存期間が短いものなんだ。氷室が使えれば話は別だが、長い間使っていなかったもんだから準備に時間がかかってる」
「なら、今から採取するというのは?」
「サトウカエデは夏の間に蓄えたでんぷんを糖分に変えて寒い冬を乗り切るんだ。今はまだ転換してないから、ただのでんぷん液でしかないぞ」
「くっそ……」
俺の返答に、ハインケスは頭を抱えた。
「大丈夫だ、ハインケス。販売部として手は打っている」
「手を? それはいったい……」
ハインケスが
ノックとほぼ同タイミングで扉が開いたかと思うと、カーラさんが入って来た。
「ジローっ、あなたっ、一体全体どういうおつもりですかっ?」
ハインケスへの挨拶すら忘れるほど怒っているのだろう、カーラさんは眉を吊り上げながら俺を睨みつけてきた。
「どうというか、見た目の通りだと思いますが」
「そのっ、見た目がっ、問題なんですがねっ」
言いながら、カーラさんは体を開くようにして後ろを指さした。
そこにいたのはセラだ。
といっても普通のセラじゃなかった。
金のセラでも銀のセラでもなく……。
「わおーっ、わおーっ! 狼のセラだぞーっ! 食べてくれないと食べちゃうぞーっ!」
修道服の裾を膝上までたくし上げて毛皮のハイソックスを履き、お尻にはもふもふの尻尾、頭にはカチューシャ状の三角耳、手には肉球まで再現した毛皮の手袋を身に着けている──狼コスプレをしたセラがそこにいた。
「え、どういうこと……?」
ぽかんとして状況が呑み込めていない様子のハインケス。
「ニホンジンというのは、なんと
「では説明しましょう。今回俺が計画したのは……」
俺は改めて、ふたりに説明をした。
縫製に長けたシスターたちの本気、元の世界だったら絶対就業年齢に引っ掛かるだろう幼女の売り子としての稼働、その年齢としてはおよそ完璧に近い容姿のセラという3つの条件をかね備えた無敵の計画。
その名も……。
「『アニマル☆コスプレ萌え屋台inザント』です」
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